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落陽の瞳  作者: Hozuki Rui
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邂逅

 カツカツとブーツの硬い音がコンクリートの壁に反響し、足音の主はドアの前で足を止めた。一瞬ためらった後、数回ノックをし声をかけた。


(わん)大佐、5番隊伍長の劉長林(りゅうちょうりん)です。入室してもよろしいでしょうか」

「入れ」


短い返事を受け、劉と名乗った男は緊張した面持ちでドアを開け部屋へと踏み入れ敬礼をした。


「おはようございます王大佐。どのようなご用事でしょうか」

「その話に入る前に1つ確認すべきことがある。君は軍に入る前、精神科医だったそうだな」

「はぁ…そうですが…」


劉はピクリと眉を寄せて、少し首を傾げる。それに合わせて腰まである長い髪と左側で編まれた一本の三つ編みが揺れる。その表情はまるで『それと呼び出された理由が一体どんな関係があるんだ』と言いたげだ。


「ただの確認だ。もう1人あとから来る予定ゆえ、それまで彼女に関する資料を読んでおけ」


劉は差し出された紙束を受け取りパラパラと読み始めた。しかし読み進めていくに連れ優男風の顔は少しずつ怒りの形相に変化していく。


「王大佐、これは」


コンコンコン


 劉が何か言おうと口を開けた瞬間ドアがノックされ、王が入るように促すと1人の軍人に付き添われた小さな少女が入ってきた。通常であれば軍に少女がいるはずがない。更に異常だったのは少女の目に幾重にも包帯を巻かれ、手には拘束器具をつけられていたことだ。


「なっ…!?王大佐!一体どういうことですか!幼い少女にこんな…!」


顔を怒りで染め、手に持っていた紙をグシャリと握りつぶし劉は感情を露わにした。そんな劉を王は冷めた表情で見やる。


「報告書は読んだはずだろう劉伍長。彼女、H862は自身の目をくり抜き、完治させた後も執拗に自身の目を潰さんとしていた。それを止めるための拘束だ」

「だからといって、」

「そしてH862の目に巻かれた包帯は彼女の天与礼物(てんよれいぶつ)故のものだ。詳しいことは君の手の中の紙に全て書いてある」


王は劉の言葉を先取りし、答えた。言葉に詰まった劉はうなだれ歯を食いしばる。


「…それで、ご命令は?まさか彼女を見せるだけではないでしょう」

「君にはH862の心療治療を行ってもらう。彼女の天与礼物は近頃効果が弱まっていると報告されている。天与礼物の効果には礼者(れいじゃ)の心理状態が深く関係しているという仮説を踏まえて君にH862の治療を頼みたいといわけだ」

「…わかりました。それでは今後の日程をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「ああ、これからH862は君が面倒を見るように。これまで通り宿舎に戻してしまっては見ていない間に何をしでかすかわからない。面倒を見るのもそうだが、君が見張るように。これから2ヶ月半の間は寮ではなく、自身の家に戻ることを許す。彼女に関するすべての責任と権利を君に一任する」


言い終わるやいなや劉とH862は部屋から追い出され、劉は仕方なくその場で自己紹介をすることにした。

「天与礼者」 生まれつき人間ならざる特異な力を持つ人のこと。前世徳を積んだ者に天が礼として与えたとされる。

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