第四話
そうして、手記は締められた。
私はもう一度、最初からぱらぱらと原稿を捲って、父の筆跡を目に焼き付ける。
年季の入った紙の匂いが仄かに漂った。
私は、父と母のどちらに愛を持っているかと言えば、恐らく母である。
父は優しさこそ持って私と向き合ってくれたが、そこに愛があったとは感じられなかった。
一方で、母は間違いなく私に愛を向けてくれていた。それは、どこか父の姿を重ねている様でもあったが、しかし、父よりも直接的に私を愛してくれた。
だから、私も母を愛することができた。
だが、だからこそ、私は手記を見つけて興奮した。
父が何を愛していたのか、それを知ればきっと私も父を愛することが出来ると思ったのだ。
しかし、それは過ぎたる期待だったようだ。
手記に倣って言うのならば、私はどこかで父を神格化していたのかもしれない。
父は父であり、私の見えないところで、父としての役割を果たしていると思っていた。
しかし、父は男であった。そんな男の独りよがりの欲情に触れた私の感想は全くの嫌悪感だった。
私はいくらか逡巡したが、その内、原稿を茶封筒に戻し、ゴミ袋に入れた。