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【外伝】近衛彦麿 ⑧

1922年7月


この世に生まれてきて、一番大切な瞬間の記憶がないというのは大失態だ!


でもアナスタシアさんから改めて気持ちを伝えてもらったし、もちろん僕もきちんと想いを伝えることができたから結果的には良かった。


つまりアナスタシアさんと僕は相思相愛の関係となることが出来た!ってことで、僕としては5年越しの片想いが成就したんだけど、天にも昇る気持ちっていうのがどんな物なのか、とっても実感出来た。


早速、先帝陛下御夫妻とアレクセイに報告したら、三人揃ってとても喜んでいただいたから、少しホッとした。


オリガさんの先例もあったから、「身分が釣り合わぬ故に反対である!」とは言われないとは思ったけれど、「優秀な高麿殿に比べて、彦麿君は器量が劣る故に結婚は認めらねぬ!」って言われる恐れはあるな。

と覚悟していたけど、意外にも「彦麿のような優秀で、均衡の取れた稀有な人物を息子と出来るのは大変喜ばしい」とおっしゃっていただいたし、アレクセイも「これからは、君をお兄さんと呼ばなくちゃいけないね!」と祝福してもらった。


それから少し経った頃、高麿兄様夫妻がロシアにやって来た。

国土の発展具合と、ユダヤとの関係性が気になっての訪問というのが公式な理由らしいけど、先帝陛下御夫妻にとっての初孫を見せに来てくれたのが本当の目的らしい。


僕にとっても甥と姪だからね!

一高(かずたか)君はとても元気だったし、みわ子ちゃんは産まれたばかりの可愛い赤ちゃんだった。


そして先帝陛下御夫妻は、普段から決して崩すことが無かった威厳なんてものを何処かへ捨て去ったような態度だったから、僕としては本当に驚いたのが正直な感想だった。


あんなにだらしない顔…もとい、緩んだ表情をされる方たちとは思わなかったね。

アレクセイには既に子供が、しかも第二代皇帝となるだろう男子が二人いるから、孫は珍しいものではないはずだけど、一高君は初孫だから別格なのだろう。


高麿兄様は、僕とアナスタシアさんとの関係を祝福してくださったから、これで彼女とも無事に結婚できそうだ。


「それにしても、想像以上にロシアは発展しているじゃないか。どうやったんだい?」


なんか改めて言われると恥ずかしいね。


「高麿兄様に教えていただいたことを応用しただけです。

こちらに来た頃に感じたのが、”民の竈に煙が立っていない”という事実だったので、アレクセイ陛下や先帝陛下にお願いして3年間の租税免除を実行中です」


兄様はニッコリした後で言った。


「そうかい!私の提案が少しは役に立ったみたいだね。

でも人間の思いというものは、基本的に時代や場所が違っても変わらないから、過去に学ぶのは有効な手段だと思うよ。

でも頭で分かっていても、それを実行するのが大変なんだ。

にもかかわらず出来るなんて凄いし、とても偉いと思う。

よく頑張ったね!

それで、今後はどんなことを考えているんだい?」


えっ?褒めていただけた!?かなり嬉しいね!


「仁徳天皇陵の建設…ではなくて、国内の基本的な社会基盤を整備中ですので、次に教育制度の拡充を行なっています。

ここで問題になるのが識字率ですね。年齢が低ければ文字の読み書きについては対応しやすいんですけど、成人への教育が難しく、おそらくですが、国民全体の識字率は半分をようやく超えた程度だと思います」


兄様は頷きながら、「時間がかかりそうだけど、辛抱強くやるしかないね」


と言ってくれた。


「はい!頑張ります。

それから教育制度の拡充と並行して、農業以外の分野でも田沼意次の政策を参考にした施策を実行中で、日本を含めた海外貿易にも力を入れようと思っています」


「それも素晴らしいね。

……あまり大きな声では言えないんだが、金本位制にはこだわらないほうが良いだろうね」


急になんだろう?


「えっ?…自国通貨を金によって担保するというのが、国際的な常識ですよね?」


「今まではそうだった。大戦中を除けばね。

だけど、そうだな…10年以内には通用しなくなって、通貨本位制へと移行していくだろうね。それ以前に経済的な激震に見舞われるだろう」


びっくりだ!何その怖い話!

でも、兄様の洞察力は凄まじいから、何らかの確信があっての話だろうね。


「対策としては何が考えられますか?」


「とにかく、自国産業をそれまでに育てておくしかないだろう。

あとは国際的な仕組みを強化しておくことも有効だろうね」


「国際的な…取り組みですか?」


ロシア国内のことで精一杯だったから、よく分からないよ。


「うん。例えばだけど、ロシアや東パレスチナは寒さがとても厳しくて、冬季の食糧生産に向いていないよね?

一方で台湾は温暖で、一年を通して作物の生産が可能だ」


「はい。そこが問題となっています。ロシア帝国の時代でしたら、ウクライナという穀倉地帯があったので問題は表面化しませんでしたが、現在の領土内ではそうもいきません。

一応は、畜産業に力を入れていますけれど」


「そうだろうね。それがロシアの弱みなら、反対にロシアの強みは地下資源だろうし、東パレスチナの強みは金融だ。

それらは、日本では太刀打ちできない強みと言えるだろう?」


「はい!まさに現時点で力を入れています」


「だから近くに存在する国家群が力を合わせて、これらを組み合わせることが出来れば、大きな経済圏と協力体制を構築することが可能となるだろうね。

それは危機を乗り越えるだけじゃ無く、未来を通じて有効な方針だろう」


そうだ!僕たちは一人じゃない。助け合って生きていくことがとても大切なんだね!


「その件に関しては、東パレスチナとの和解が進んでいますから何とかなりそうです」


「そうみたいだね。力を合わせるのは良い事だ。

これからも頑張って欲しいね」


「はい!」


そして1922年10月。


僕とアナスタシアは無事に結婚することが出来た。


アレクセイは僕たちの結婚を祝福してくれたうえで、侯爵へと陞爵(しょうしゃく)してくれた。

名実ともにロマノフ家の一門として認められたことになるね。

アナスタシアを妻に出来るなんて夢みたいだけど、浮かれることなく、より一層努力して国家の発展を行わなくてはいけないな。


結婚式が終わった後に、先帝陛下とゴリツィン首相が、僕に話があると言ってきた。

二人揃ってなんだろう?


「彦麿よ。実はお前に頼みがあるのだ」


「はい陛下。いえ義父上。謹んで承ります」


「うん。実はな…このゴリツィン公爵も頑張ってくれてはいるが、既に70歳を超えており、この先いつまで首相の座に留まることが出来るか心許ない。

そこでだ。将来は彦麿が首相としてこの国を支えて欲しい」


何だって?聞き間違いではないよね?


「僕が、いえ私が首相にですか!?何故でしょう?」


「お前は真剣にこの国の為に尽くしてくれておる。

何より、その発想力と構想力が素晴らしく非凡なものがある。

まだまだ我が国は発展段階にあるから、これからは若い力で国作りをせねばならんのだ。

アレクセイもそれを望むだろう」


支えたい気持ちはあるけど、若すぎないかな?


「とは言え、まだまだ経験が足らんし資格もない。

よって二十歳を超え、次の総選挙が行われたら上下どちらかの議員への立候補し、首相のもとで学んで欲しい」


いきなりじゃ無いんだね。少し安心した。


「分かりました。ご期待に添えるよう頑張ります」


じっと話を聞いていたゴリツィンさんが言った。


「良かった。これで私も安心して引退出来るというものです」


「こちらこそよろしくお願いします。

色々と教えて下さい」


ちょうど良い機会だから聞いておこう。


「ところで以前から気になっていたのですが、首相閣下は何故私に丁寧な言葉で接して下さるのでしょうか?」


「…先の革命騒ぎにおいては、皇帝陛下御一家は無論のこと、私を含め多くの者の命が危険に晒されました。

その危機を乗り越え、今日があるのはコノエ首相のお陰であり、そのご子息に敬意を払うのは当然でありましょう?」


そうだったのか。謎が解けた気分だ。


そしてアナスタシアとの幸せな生活が始まったんだけど、彼女は結婚しても性格的には、お転婆と言っていいかな?

いたずらを仕掛ける相手が、アレクセイから僕に代わった感じだね。

でもそれも彼女の魅力の一つだ。

四女と六男。いい組み合わせじゃないかな?


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ここで改めてロシア(我が国)とその周辺国の状況を確認して、将来の参考にしよう。


・ロシア

国家体制を構築中。

シベリアで国境を接するソビエトとの小競り合いは日常的に行われているけど、陸軍が頑張って防いでくれている。

その規模も大きくなってきたから、日本の第(しち)師団はそろそろ帰国するみたいだ。

これまで長らく防衛に当たってくれていたからね。

感謝している。


・ソビエト

ロシアから見たら悪の帝国そのままだ。

共産主義者による一党独裁体制を固めていて、もう少ししたら正式に「ソビエト社会主義共和国連邦」って国名を宣言するみたいだ。

国名に「共和国」って入っているけど、これは「君主制」に対しての意味だから、民主主義的共和制とは別物だろうし、騙されてはいけない。

この国を倒し、共産主義を排除するのが我々の目標だ。


・日本

僕の母国であり、懐かしい国だ。

最近は父上の指導のもと経済力の発展が目覚ましく、強力な陸海軍を保持する大国となっている。


・東パレスチナ

言わずと知れたユダヤ人の国で、人口は70万人を超えた辺りだけど、ソビエト地域からの移住者が増えていて、国家体制の構築を急速に進めている。


挿絵(By みてみん)


・英領満洲

ここはちょっと不安定な地域だ。

馬賊と呼ばれる集団…見方次第では盗賊集団なのだろうか。

これらの勢力が強く、この地に進出したイギリスは当初は融和しようとしていたけど、最近では対決姿勢を鮮明にしている。

その馬賊の指導者が張作霖・張学良の親子で、イギリスとの激しい戦いになりつつある。


ちょっと面倒だね。イギリスは同盟国だし、そこは安心だけど、国境線も長く、しかもウラジオストクにも近いから、こちらに被害が及ばないように守りを固める必要があるね。


・英領朝鮮

直接の関わりが無いから無視しても良いんだけど、ここも僅かとはいえ国境を接しているから、取り敢えずは要注意だね。

状況的には、民衆暴動が収まらず混沌としており、イギリスは統治に苦労しているみたいだ。


・中国大陸

ここは国境線を接しておらず、完全に視界に入れる必要が無い。

有力な指導者が存在しないから内戦は激しさを増していて、いつ果てるとも知れない争いとなっている。

噂では強力な統一国家の登場を歓迎しないイギリスが裏で糸を引いていて、日本も関係しているみたいだね。


・東シナ海沿岸地域

この地域はイギリスの勢力圏だ。

香港や上海といった有力な街が存在していて、最初からイギリスの影響を色濃く受けていた。

この一帯での成功体験があったから、イギリスは朝鮮半島に、次いで満洲に進出したのだろうけど、見事にアテが外れて大変な事態となっている。という図式だ。


なんか面白いね!いい気味だとまでは言わないけど。


・モンゴル

ボグド・ハーンによる政権が存在している。

比較的最近までは、ロシア帝国と中華帝国(清)によって圧迫を受けていたけど、両方とも消滅したから

独立国として成立できたみたいだ。

ロシアとは長い国境線を接するけれど、「(げん)」の時代と違って脅威となる存在ではない。


これらの周辺諸国の中で、注意しなくてはいけないのが中華とモンゴルだ。

これらの地域や国に対しては共産勢力が台頭するようなら干渉しなくてはいけない。


色々とややこしいけれど、油断せずに頑張ろう。



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