表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/200

第七話 父を教育する②


ここで、「地政学」という言葉は使わない方がいい。


何せアメリカ海軍のマハン大佐が、海上権力論という説を発表し、シーパワーという概念を提示したが、それが3年ほど前のはずで、地政学(ゲオポリティック)という言葉が使われ始め、大陸中央部(ハートランド)や、大陸辺縁部(リムランド)の概念が提唱されるのは、まだまだ先の話だ。


だから俺は常識的な話でごまかす。


「それはロシアの歴史を見ればわかります。

あの国は東へ東へと拡大を続け、アラスカまで一時は領有していました。

当時のカナダはイギリス領であり、イギリスと領土を接するのは不利になるので、当時イギリスと敵対していたアメリカに売りましたが。

これを我が日本に当てはめると、朝鮮半島を取ったら、次は朝鮮半島を守るために南満州を攻め、その次は南満州を守るために北満州を欲するようになり、止まらなくなります。

それ以前にロシアが動きます」


それを聞き、父は真剣な顔で考え込んでいる。

いい感じだが、父の思考を更に拡げるため、続けて俺は言った。


「最近になって『露仏同盟』の存在が明らかになりましたよね?

露仏同盟が成立して困るのは、どこの国かわかりますか?」と。


父は困った顔で言った。


「今度はいったいなんだ?どこの国が困るのだ?理解できん」


まあそうだわな。

この時代に地球儀を見て、全体を考えることができる日本人は極めて少ないだろう。

何せ目先のことで精一杯なのだから。


だが、未来と結果を知っている俺から見ると、これは難しい話じゃない。


「ドイツです。地理的にも露仏に挟まれていて、挟撃される事態を昔から宰相のビスマルクは恐れており、露仏の結びつきを阻止しようとしていました。

ですが、彼を罷免してしまった今のドイツ皇帝はそれが分かっておらず、露仏同盟が成立してしまいました。

今頃ドイツ皇帝はものすごく焦っている筈で、何とか露仏同盟の強い方であるロシアの目を、ドイツ以外に向けさせようとするでしょう。

その矛先は日本で、時期は日清の戦争が終わった直後と予想します」


21世紀でも誤解している日本人が殆どだが、史実の三国干渉における本当の犯人は、ドイツなのだ。

日本はドイツによってロシアの餌食になりかけたわけだ。


父は更に困った顔になり言った。


「話が大きいな。ちょっと理解が追いつかない。では、お前はどうすれば良いと言うのだ?」


と聞いてくれたので、ここが本番とばかり力を入れて言った。


「はい。ロシアが朝鮮半島への野心を剥き出しにすれば、最終的に我が国とロシアとの戦争は回避出来ないでしょうが、ロシアとの争いが終わったら、勢いのまま大陸へ進出してはいけません。

さっき言ったように、北へ北へと大陸進出が止まらなくなり泥沼にはまります。

よって海洋国家である日本は、同じ海洋国家である英米と歩調を合わせなくてはいけません」


父は、もうわけがわからないといった顔になって言った。


「イギリスとか?あの凶暴で貪欲で狡猾な国が、我が国に目を向けて歩調を合わせるようになるかな?」


「それは利害関係が合えば十分にありえる話とは考えられませんか?」


「…それはそうかもしれんが……イギリスから見て、我が国は組むに足る国なのだろうか?

我が国との不平等条約の解消に、最も消極的なのはイギリスなのだが」


そう。不平等条約解消に最も強く難色を示したのはイギリスだ。

日清戦争開戦前に陸奥宗光(むつ むねみつ)に脅されて、一部解消に応じたが。


「清との戦争で勝利すれば、イギリスの我が国への見方は変わります。イギリスが清国に持つ権益は決して小さくありませんから、ロシアの南下に対して自国の権益を守るためも、日本は必要とされるようになるでしょう。

後はロシアを追い払うことできれば、日本の心配事は消える筈です」


「もっともではあるな…しかし今は考えがまとまらないから少し考えさせてくれ」


と父が言うので、この話はこれで終わりにしよう。

父の考え方に一石を投じることができれば今は十分なのだから。


しかしここで俺は思う。

もし、父を通じて国の進路をコントロール出来るなら、何も自分が矢面に立たなくても良いのでは?と。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ