第六十四話 国際連盟成立
1919年(大正8年)3月18日
Side:近衛高麿
日本では「国際連盟」と訳されることになった、国際的な平和維持組織が発足した。
特筆すべきことは連盟本部がヨーロッパではなく、東京に置かれた点だろう。
何故ならヨーロッパはもめ事が多すぎて、英仏は利害関係に関わりすぎているし、大体のもめ事においてその英仏自身が、当事者として周囲からの恨みを買ってしまっているのが厳然とした事実であるから、国際関係の調整役としては甚だ不適格というのが世界的な結論だった。
そうなってくると、ヨーロッパに直接的な利害関係を持たない大国である日本が、それを担うしかないわけで、「だったらせめて本部は日本に置かせろ」と、父と石井外相が要求したのだ。
それに、この国際連盟という組織の結成を、パリ講和会議の席上で提案したのは日本なのだから、当然とも言える。
主要参加国としては英・仏・伊をはじめ、ロシアと東パレスチナは建国早々に参加を表明したが、アメリカとソ連はやはり参加していない。
アメリカは史実通り、議会の承認が得られなかったし、ソ連はいまだに内容がよくわからない不気味な連中だからだ。
そもそもロシアが健在である以上、ソ連を国家として承認する国は現時点ではゼロだ。
ドイツとはもう少ししたら仲良くし始めるだろうし、アメリカは将来ルーズベルトが承認してしまうかもしれないが。
そして国際連盟の顔ともいえる初代事務総長は、史実で次長を務めた新渡戸稲造がやはり選ばれた。
完全に日本主体の組織ではあるが、調停せねばならない主なもめ事の対象は、先に述べたようにヨーロッパが殆どだ。
早々にイタリアとギリシャ間の紛争が発生して、出番が来るだろうし、その次はギリシャとブルガリアなど、バルカン紛争の宿題と言えるような諍いが頻発して、表現として正しいかどうかは知らないが商売繁盛な状況になるだろう。
更にこの後はノルウェーとフィンランド、シレジア問題にメーメル、ハタイ、アルザス・ロレーヌ、ザール地方に、ペルーとコロンビア紛争と、次から次へと問題が起こるだろう。
こういった紛争というものは、どちらかが「0点」で、どちらかかが「100点」なんて簡単で明確な話になろう筈がなく、露土戦争の際の幕引き条件である、ブルガリア独立に対して、形式的な主権はオスマン・トルコに残すものの、それ以外の実権はロシアに渡す事になった裁定のような、玉虫色の難しく際どい判断が要求されるだろう。
だからと言って「三方一両損」みたいに、「日本もこれだけ差し出すから皆んなで損をしようよ」などとは絶対に言わないと思うが。
いや、言い出しかねないな…
その他にも大国の横暴だったり、エゴが絡む厄介な話が多く、調停能力が問われる事態になりそうだ。
中国大陸の現状も大変厄介で、何が何だかわからない戦国時代みたいな様相が継続中であり、実態は史実以上に混乱していて、代表が誰なのかさっぱり分からない状態が継続中だ。
これについては、イギリスが裏で操っているし、デカい声では言えないが、日本も一枚かんで儲けている。
イギリスの立場においては、朝鮮半島と満州における混乱が収まらない状態で、中国に有力な勢力が現れると困るのだろうというのは、日本から見ていてよくわかる。
しかし、大国間ではこの問題に対するコンセンサスは取れているのをこれ幸いに、臭いものに蓋みたいな感じで放置中だ。
国際連盟の正式名称は、英語では「League of Nations」。略してLN、もしくはLoN。直訳すると「国々の集まり」という意味で、「連盟」はまだしも、「国際」はギリギリな表現ではないかな?
「League」は日本だとJリーグやパ・リーグなどで使用されていたが、「Alliance」や「Union」とほぼ同じ意味だから、連盟は納得感がある。
しかし「Nations」を国際と訳するのは、少々飛躍しているような気がする。
国家の集まりだから、国際としたのだろうとは理解するが。
まぁしかし、史実の「The United Nations」を、「国際連合」と訳すよりは、よほどずっと遥かにマシだが。
そう。1945年に設立された「The United Nations」を、「国際連合」と日本語で呼ぶのは甚だ不適切だ。
史実における、国際連盟の理念を引き継いだ、何か国家を超越した国際的な調停機関であるかのような印象を受けてしまう日本人がいるかもしれないが、直訳すれば「連合国」だ。
国際連合憲章の正文は、英・仏・露・中国語・スペイン語の五か国語のものが存在していたが、中国語の正文では、もちろん「連合国」と表記されていて、どこにも「国際」なんて文字は無かった。
勝手な想像だが日本人を誤解、或いは安心?させるために、日本人の誰かが故意に「国際」連合としたのか?
単純に国際連盟の呼び方を、習慣的に継承しただけかもしれないから真相は知らないが。
まあ「全滅を玉砕」、「撤退を転進」、「敗戦を終戦」、「値上げを改定」、「部門の廃止を発展的解消」って言い換えて、体裁を取り繕うのは我々の得意技だから。
だが、それだけで済めば良いが、第二次世界大戦に参加した戦勝国側が「United Nations」であり、それに敵対した日本やドイツなど枢軸国(Axis Powers)とは戦争中だったのだから、日本は設立当初のメンバーではもちろんなかった。
よって、日本人が国際連合と呼んでいる組織の憲章には、日本で殆ど問題視されたという記憶がないから、どこまで一般に認識されているか知らないが、21世紀になっても「敵国条項 第53条 第107条」というものが存在していた。
これは常任理事国である米・英・仏・中・露のいずれかの国は、旧敵国の日本やドイツに対しては、わざわざ安全保障理事会に諮らずとも、いつでも単独で攻撃を仕掛けることが出来ると定めた(第53条)恐るべき条文で、これら旧敵国が第二次大戦の結果として受け入れたことは、国連憲章に対して優先する(第107条)という、これまた怖いことが書かれた条文だ。
21世紀においては「もはや時代遅れ」で「死文化」しているとされていたが、国際連合憲章の改正は出来ておらず、最後まで削除はされていなかった。
削除されていない以上、中露が悪用することは十分予測可能なわけで、現実問題として第三次世界大戦において中露は、これを振りかざしながら日本へ侵攻してきた。
しかし、この世界では、そんな歴史はもう繰り返さないようにするから大丈夫だろう。
さて、国際連盟憲章が作成され、組織の意義を広く世界に伝えたのだが、その前文には「人種差別問題は人類に対する罪である」旨が明記された。
日本はこれを足がかりに、奴隷問題にも取り組んで行くだろうし、植民地解放にも繋がっていくはずだ。
時間は掛かるだろうが、大国を説得して植民地を解放していく使命が、新たに日本に加わったことになる。
ところで、史実の国際連盟が失敗した原因は、大きく分類して三つあると言われていた。
まず一つめは以前も触れたが、重要事項について全会一致を基本としたことで、紛争当事国が反対にまわる可能性が高いから決議されず、結局何も決めることが出来ない組織になってしまったという点。
特に大国である常任理事国が当事者になった場合は絶望的だったから、組織の正当性と実効性が疑われ、加盟国がそっぽを向くことに繋がった。
二つめは米ソが加入していないことだ。
有力国を欠いために実効性が疑われる事となってしまった。
ソ連は最終的に加入はしたが、アメリカは最後まで加入せず、日独のように脱退する国が続出したこともあって最終的には機能不全に陥った。
三つ目は有効な軍事力を行使できなかったことだ。
仮に紛争当事国への非難決議が採択されても、強制的に従わせることが出来なかったから、実効性が疑われることに繋がった。
例えるなら『法律は作ったが、違反した場合の罰則記載が無い』みたいなもので、国連軍といった概念も無かったから紛争が絶えず、大国のやりたい放題となった。
まとめれば、つまり「実効性の担保」がカギとなる。
この対策として、今回の国際連盟においては多数決を基本として、いかなる国も例外を許さないものとすると国連憲章に明記された。
また、アメリカはどう頑張っても議会の承認が降りないから放置したし、ソ連は史実以上に国際的に孤立し国家として認められていないから、国際連盟加入なんて夢のまた夢で、中国も同様だ。
よって、非加盟国でアメリカ以外は大国と認識される事は当分無いだろうから、とりあえず棚上げだ。
三つめの国連軍は、残念ながら現段階では結成出来そうにない。
日英露仏を中心とした国連軍を組織したかったのだけれど、ロシアは乗り気だったが、英仏が頑強に抵抗して実現出来なかった。
これはつまり、多くの揉め事に対して、有罪というか責任のある立場にある英仏は、最悪の場合、多数決によって結成された国連軍によって、自らが征伐される立場に追いやられる事態を恐れたというわけで、過去の所業に対して「身に覚えがある」と白状しているに等しい。
これはヨーロッパにおいてだけではなく、植民地が独立し始めたら、訴追と討伐の口実にもされかねないと恐れたのではないかと推測する。
しかし白人たちが世界征服に乗り出した時には、「これは悪である」との国際法は存在しなかったし、「法の遡及適用」が許されないのは国際常識だから、心配する必要があるのか?とも思うが、人殺しについては確かにまずいだろう。
考えるまでもなく、世界の歴史は「大航海時代」以降は、植民地を求めて大国が勃興していった。
スペイン、ポルトガル、オランダ、そして英仏独米へと、世界の覇権国は推移したけれど、白人による植民地人への残虐行為はいずれも劣らず酷いものだ。
いや、白人達は植民地の有色人種を、自分たちと同じ人間であるとは認識していなかった。
中でもあまり知られていないが、ベルギーの王様による残虐さは特筆すべきで、「世界虐殺者ランキング」があったら、おそらく5位には入るだろう。
因みに諸説あるものの、俺の勝手なランキングでは、加害者は白人ばかりではないが下記の通りだ。
◾️虐殺者ランキング殿堂入りのメンバーをご紹介。
・1位→毛沢東 文化大革命や、大躍進政策といった失政を重ね、数多の犠牲者を出す。
・2位→スターリン 赤軍の大粛清。ホロドモール。収容所と流刑と粛清の達人。
・3位→ヒトラー ユダヤ人以外では、身体障碍者や共産党員、同性愛者、ジプシー、スラブ人を虐殺。
・4位→ポル・ポト カンボジア共産党指導者。知識層を根こそぎ殺した。
・5位→レオポルド2世 200万人前後 ベルギー国王。国王の私領だったコンゴでの蛮行による。
数字は諸説あるので、レオポルド2世以外は敢えて記載していないし、上記以外で言えば人口の多い中国大陸は虐殺の歴史と言えるだろう。
この中で、虐殺した人口比が最も高いのは、文句なく4位のポルポトだろう。
これはスターリンと同じ「芸名」で、逮捕を免れるための偽名だから、本名は覚えていないが。
実に人口800万人のうち、200万人以上、25%に当たる民衆が殺されたらしい。
コメントに"知識層を根こそぎ殺した”と書いたが、その内容は酷い。
「時計の文字盤が読めるからインテリ」、「メガネを掛けているからインテリだ」などと、無茶苦茶な理由だったという。
冗談抜きで「ハゲているのは頭脳仕事をしているからで、インテリだ!」などという屁理屈も、絵空事ではないだろう。
個人的にはF・ルーズベルトも加えたい。
日系人弾圧や、夜間無差別爆撃、原爆開発承認だのといった蛮行許すまじ。
またコロンブスやピサロ、コルテスも数値が確定していないので加えていないが、大概なものだろう。
話がそれたが、「大航海時代」以降の白人勢力の非道行為は即刻やめさせなければいけないし、彼らにはこれから「大後悔時代」をプレゼントしたいくらいだ。
国連軍の設置は叶わなかったので、最終的に国際連盟では紛争の調停と国際審判が主な役割となって、調停結果に実効性を持たせることが可能なのか、少し不安がある船出となった。
国連軍が上手く機能すれば、ヒトラーは芽のうちに摘み取れた可能性があったのに残念だ。
今後発生する懸案に対しては、都度対応するしか無さそうだ。
それから10年以上先だろうが、主にウクライナ方面で発生する危険性がある、ソ連によるホロドモールという大問題が発覚すると、連盟加盟国に呼び掛けて対処しなくてはいけなくなるだろう。
この件については証拠を集め、ウェストファリア体制に基づく内政不干渉の原則を超えていると証明せねねばならない。
発足当初から加盟した国家は46か国。
常任理事国は日・英・仏・露の4か国で、こちらの任期は無期限、一方で非常任理事国は、常任理事国と同数とすると定められ、その任期は2年と決まった。
この常任理事国の数は本来なら5カ国が理想だが仕方ない。
何故なら現状の4カ国だと、2対2で対立すれば決着しない恐れがあるからだ。
だからあと1か国は常任理事国に加えたいのが本音だ。
イタリア?史実だとそうだが、それについては俺が強硬に反対した。
何故ならあの国こそ、未来において紛争当事国になるのだから、そんな国を常任理事国にするなんてあり得ない。
だから直ぐには無理だが、ドイツを連盟に加盟させて常任理事国とし、せめて孤立感だけでも解消させてヒトラーの登場を押さえ込みたいが…自分で言っておいてアレだが難しいだろう。
ナチスが政権を取ったら、さっさと連盟から出ていくだろうし、やってはみるが期待はしないでおこう。
そして国連総会は年に一度、定期的に開催されることも決定し、国際連盟本部の場所としては懐かしの鹿鳴館、現在は華族会館となっている建物が暫定で使用されることになった。
あの国辱ものの建物が、こんな使われ方をされるようになるなんて日露戦争前じゃ考えられなかった。
また、周辺には国際司法裁判所、国際労働機関や難民、アヘン問題、女性解放、奴隷問題、保健振興といった諸問題に対する常設機関がそれぞれ個別に設置されることになり、なんというか東京が世界の首都になった感じだ。
国連公用語は英語・フランス語に加えて日本語の三か国語と定められ、これによって欧米人からは習得のハードルが極めて高いと言われる日本語が注目される事によって、夏目漱石がノーベル文学賞を受賞する契機にもなったが、それはまだ少し先の話だ。
ここからは日本人自身が気付いていない悪い癖?というか病気?を紹介しよう。
病名は「真面目病」、もしくは「親切病」だ。
以前にも台湾のところで少し触れたが、目の前にある課題は解決しないとダメだと思い込むという将来においても完治の目途が立たない日本人特有の「難病」だ。
国際紛争を調停するには資格十分といった面もあるが、とりあえず「証拠」として史実における朝鮮総督と台湾総督の名前を並べてみよう。
朝鮮総督は就任順に以下の通りだ。
①伊藤博文●
②曾禰荒助
③寺内正毅●
④斎藤實●
⑤宇垣一成
⑥長谷川好道
⑦山梨半造
⑧南次郎
⑨小磯國昭●
⑩阿部信行●
同様に台湾総督は以下の通りだ
①樺山資紀
②桂太郎●
③乃木希典
④児玉源太郎
⑤佐久間左馬太
⑥安東貞美
⑦明石元二郎
etc
明治〜昭和初期において著名な人物がずらり並んでいるが、名前の後ろにある「●」は総督を経て内閣総理大臣になった人物に付けている(伊藤博文を除く)
しかし例え内閣総理大臣にならなくても、本当に有名な人物のオンパレードだ。
その殆どが後に大臣だったり、政府や軍の要職に就いている。
それだけの人材と財力を、朝鮮と台湾の地(ついでに満州)に投入したわけで、インフラの構築は完了していたから、そりゃ日本の敗戦後に両国が急速に発展するのも不思議じゃないと思わずにはいられない。
しかし例えばイギリスが、インド総督にこれ程有力な人材や資本を投入しインフラを整えたのかと言えば、それは少し違うだろう。
ちょっと日本で有名なのが、満州問題調査団で知られるリットン卿と、世界基準で有名なのがルイス・マウントバッテン卿くらいなもので、実務に長けた有力な政治家もいるにはいたが、俺の知っている限り総督を経験した後にイギリス本国の首相に就いた人物はいないはずだ。
それにマウントバッテン卿は確かに大物だが、彼は植民地の事実上の「店じまい」を任務として着任したから、例外中の例外と言えるだろう。
こういった状況はフランスやドイツも同様と思われる。
これら植民地の総督というのは、大体が名誉職であったり、キャリア終盤のご褒美だったり、口うるさいから遠くに行ってもらおう、もしくは本国で使えないから行かせるという動機で選ばれるポスト、というのが普通の感覚というのか、万国共通とも言えるからだ。
しかし日本はそうではなく、むしろ内閣総理大臣になる為の修行の場として捉える風潮があった、と言えるわけで、選ばれた人間も張り切って現地の発展の為に尽くしたという。
こんな植民地に親切な国は本当に珍しい。というか稀有だ。
極端に言ってしまえば、自分よりも他人を優先したとも言えるし、だからこそ、きっとこの国際連盟にも惜しげもなくエース級の人材を送り込んで、世界の紛争の調停を経験させるのだろう。
それは長い目で見れば国益に叶うし、大変良いことではあるのだが、一方で調停が上手くいけばいいが、いかなかったら相手の恨みは日本に集中すると思うので、気を付けて頑張って欲しいところではある。
それと、肝心の日本の外交力に影響しない範囲でやってもらいたい。
これから国家のかじ取りが大変厳しい時代となっていくのだから、国連優先で浮かれるあまり、日本の外交は二の次だなんて目も当てられなくなってしまう。