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第十八話 たまには東京観光しよう②


次に俺たちが向かったのは、鹿鳴館から歩いて30分ほど先にある港区芝の増上寺だ。

ご存じのように、徳川将軍家の菩提寺だが、現在の敷地は往時の面影を残していない。

縮小されたのだ。


原因は明治の初めに発布された「神仏分離令」にある。

後年いわゆる「廃仏毀釈運動」とも呼ばれることになる。

本筋じゃないから、簡単に触れておくにとどめるが、神仏分離令を発布した時に、これが廃仏毀釈につながるとは政府は想定していなかった。

これ以上は複雑になるし、一冊の本が出来るくらいの話になるのでやめておく。


ここ増上寺も、大幅に土地を削られたわけだが、まだ被害は少ない方だろう。

悲惨な寺院は他にもたくさんあって、例えば近衛家の、というかウチだけじゃなく、藤原氏全体の菩提寺である奈良の興福寺。

あそこの五重塔は綱をかけられて、引き倒される一歩手前だった。


後に世界遺産となるのだが。


また隣にある広大な奈良公園も、元は興福寺の境内だったのだが、多数の建物が壊され空き地となり21世紀でおなじみの姿になった。


他にも全国で、多くの仏教寺院が被害を受けた。


特に新政府の主力であった薩摩(鹿児島県や宮崎県の一部)、水戸藩のお膝元など。

近畿地方も例外ではない。

興福寺以外で言えば、最大の被害者は『内山永久寺』だろう。


「永久」とは、当時の元号から命名された。

こういった場合は、天皇の勅願寺であることが多く、一例を挙げると、比叡山「延暦」寺とか、京都の「仁和」寺、東京上野の「寛永」寺など、多くない。


つまりは極めて由緒ある大寺院だったのだが、徹底的に破壊された結果、21世紀では殆ど面影を残していないし、日本人にも忘れ去られた存在となっている。


それほど激しくえ廃仏毀釈運動が吹き荒れたのだが、本来の神仏分離令の目的は一つ。近代化のためだ。


西洋列強の侵略に対抗するために、天皇を頂点とした挙国一致体制を作る必要に迫られたので、それを強化するイデオロギーとして神道が採用され、国家神道として運用したのだ。


しかしそれまでの日本は、平安時代に「神仏習合(しんぶつしゅうごう)」といって、神と仏は同じものとされ、本来なら神様と仏様は別物のはずが、日本人は両者を一体化させ信仰していたのだ。

そしてそれが神仏分離令により、両者は切り離されて今に至る。


そもそも日本の仏教と、本来の仏教とはまるで違うものだ。


八百万(やおよろず)の神々よりもずっと後から入ってきた仏様を、日本人は自分たちに合うように改良(?)して運用したのだ。

見方を変えれば、仏様も八百万の神々の一部となったとも言えなくもない。


日本人は外から来たものを取り込んで、造り変えるスキルが昔から半端なく高いから。

身近なものではラーメンなんかまさにそうだし。


もし仏陀が日本の仏教の実態を知ったら、本来の仏教とのあまりの違いに腰を抜かすだろう。

そして次に言うだろう。「戒律はどこへ行った?」と。

しかしそんなことは日本人は誰も気にしない。

実におおらかだ。


これを少し詳しく説明すると、本来お坊さんは女性と結婚してはならない。

それが許されるのは、開祖が実践した浄土真宗だけのはずだ。


キリスト教では、ルター派に相当するのか。


だが、明治以降は、いつの間にか多くの宗派で結婚が許されるようになった。


政府が許可したからだが、宗教とはそんなものではないはずだが、実におおらかだ。


しかし、世界と比較すれば日本人の宗教観は特殊だ。


だいたいが一神教だし、厳格な教義に基づいて行動し、過激な原理主義に走る人達も一定数存在する。

特に一神教同士の反目は深刻で、終息する気配がない。

実にアンタッチャブルな存在であり、世界の平和に対する重大なリスクとなっている。


その中でもイスラエル問題は、第三次世界大戦の主要な原因となった。

これがこじれたことで、アメリカの意識が中東に向き、その隙を突いて中・露・北が侵攻を開始したのだ。


このイスラエル問題の根本的な原因は、第一次世界大戦前後のイギリスによる「三枚舌外交」だ。

それぞれアラブ・フランス・ユダヤに配慮した協定を結ぶが、それぞれに矛盾した内容だった。

つまり「あちらを立てればこちらが立たぬ」状態に陥ってしまったのだ。

それをやった理由の一つが、第一次世界大戦継続に必要な莫大な戦費をユダヤ人から引き出そうとしたことにある。


カネが欲しかったのだ。


このあたりで既に大英帝国の威信は相当揺らいでいる。

これがきっかけとなり、自身の国家を渇望したユダヤ人によるパレスチナ帰還運動(シオニズム)に繋がり、イスラエル建国に至った。


けれども2000年にわたり空き家にしていたのに、いきなり戻ってきて「ここは神と我々との約束の地だから出ていけ」と言われたパレスチナ人が黙っているはずがない。


混乱の始まりだ。


以上長々と書いてきたが、第三次世界大戦の惨禍を避けるためにも、なんとかこの問題を解決させたい。


そして俺はこの問題に対する一応の解決策を持っている。

パレスチナの地にイスラエルを建国するのは無理筋だから、違う形にするのだ。

現時点での成功率は高くないのだが、時期が来て、環境が整い、ユダヤ人が条件を受入れれば解決可能と考えている。


受け入れるか否かは彼ら次第だが、実現すれば日本にとっても利益は有形無形合わせてかなりのものとなるだろう。


そしてこの案を実現させるために、キーパーソンの一人とは早めに接触したい。



イギリスとの同盟は史実通りにうまくいきそうだから、これから俺が考えなければならないのは時系列順に次の五つだ。


1、日露戦争に勝利する。


2、ドイツ包囲網を完成し、第一次世界大戦勝利に大きく貢献する。


3、ロシア革命の結果を史実と違うものにする。


4、パレスチナにおけるイスラエル建国を阻止する。


5、ソ連を倒すための戦略構築を開始する。


やや遠い未来ではあるが5、は特に重要だ。


それが最終目的だから。


それには2、も3、も4、も絡んでくる。

俺がこの世界に飛ばされてきたのは、レーニンとスターリン、そして共産主義と戦うためだからだ。


日本とアメリカの双方が憎しみあい、戦争に至るよう誘導された結果、スターリンが高笑いするに至ったあの歴史を繰り返させない。


彼らの思い通りにはさせない。

などと考えながらお参りしていると、日が西に傾いてきた。


文麿も腹を空かしているみたいだし帰るか。


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