第十四話 大日本帝国憲法を強くしよう!②
Side:近衛高麿
珍しく、父が暇そうにしている時を見計らって相談をもちかけた。
「帝国憲法について質問がある?どういう質問だ?」
「はい。すべての条文を読んで、様々な場面を想定してみたのですが、内閣総理大臣の権限が弱いように思います」
「…私は松方総理にも、大隈総理にも相当噛み付いたからな。今にして思えば悪いことをしたと少し反省している」
あんたは総理大臣をいじめてたのかよ…
「いいえ。そういう意味ではないのです。
総理を含む各国務大臣が横並びになっていて、総理大臣が権限を振るうことが出来なくなっているのです」
「…そうか。しかしそれが問題になるかな?
今は問題となっているとは聞いていないがな」
やはり気付いていないか。
「総理大臣が各国務大臣に命令すれば済むのに、そうなっていない状態では将来内閣の全てが弱くなります。
例えば総理以外の国務大臣にしても、総理がこう決断したのだから実行しろとは官僚達に言えなくなります。
もし言えるようなら、そこから下への命令系統が生きてきますが、現状ではそうなっていません。
無論、官僚は責任を取りたがりませんから、物事が滞りがちになります」
「………」
こりゃ理解していない顔だな。
「今はそれほど表面化していなくても、将来必ず大問題に発展します。
例えば、内閣が軍部に相談なく物事を決めた場合、陛下の統帥権を干犯していると騒ぐ阿呆が必ず出てきます。
それでは正常な国家運営に支障を来たし、国の未来を危うくします」
顔色が変わったぞ!
統帥権干犯問題は実際に大騒ぎになったからな。
「!!そうか!確かにそれはまずいな!考えたこともない穴だ!対応策はあるか?」
子供を頼りにするのか…
「過去の実例を出しますと、徳川綱吉は自分が将軍となった際に、側用人という役職を活用し、将軍と老中の間に挟むことにより、老中からの直接干渉を避け、逆に自分の意思を政策に反映しやすくして将軍をお飾りから実権のあるものへと変えることに成功しました」
「………つまりどういうことだ?」
「制度を修正するのです。実際にこの憲法を作った伊藤総理に、まず確認をとっていただきたいのですが、おそらく総理もこの欠点に気付いているはずですから話はしやすいと思います。
具体的な対策としては、憲法の下に新たに内閣法とでも言えるものを作り、議会と陛下の承認を得られれば憲法に手を付けずに済みます」
「なるほどそうだな!それが良い!後は憲法学者のお墨付きを付加すれば乗り越えられそうだな!」
早速父は伊藤博文と面会して、第55条の問題点を鋭く詰問し、密かに自責の念を持っていた伊藤博文に対策を約束させ、実際に内閣法を追加して難問を解決したのだった。
伊藤としても、自らが責任者として作った憲法の欠陥に気づいてはいても、今さら正直に言い出せるはずもなく、悶々としていた所に父から指摘されたので動きやすかった。
この件により、伊藤博文は父に深く感謝し、以後協力者になる結果となったのである。
やったぞ。これで悪夢の史実は回避だ。
軍部が暴走して亡国に至る恐れは低くなった。
これで後顧の憂いはある程度は消えたぞ。
それにしてもなんて使い勝手のいい父だろう。
俺はやっと10歳になったばかりだというのに、憲法の欠陥を修正しちゃったよ!
こんな家庭の実態が世間に知られたら大騒ぎになるな。
しばらくは書庫の整理と勉学に集中しよう。
それから世界情勢の分析だな。
西欧列強の国力を比較してみよう。