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【外伝】ハワイ沖での決戦 中編 

1945年12月7日(ハワイ時間)午前6時


Side:ハズバンド・エドワード・キンメル ( 海軍大将 アメリカ合衆国 海軍作戦部長)


攻撃隊がパールハーバーに向かっていく。

大統領との約束を果たせるのも、間もなくのことだろうと信じよう。



しかしホワイトハウスに呼び出され、作戦を命じられた時には驚きと同時に怒りを覚えた。


-------------------------------------------------

今から3か月前。


「大統領閣下、命令により出頭いたしました」


「よく来てくれたね。まあ楽にしてくれたまえ」


大統領が直接私を呼び出すとはいったい何事だろうか?

かなりリラックスした雰囲気で話し始めたが、まさか雑談だけなのか?

それに、大統領の隣にいる人物に見覚えがないが、誰だったか…?

軍関係者ではないはずだが。


やがて大統領が本題に入った。


「ところでキンメル君。君に預けている艦隊の状況は把握出来ているかね?

麾下の艦隊は私が命令すれば、いつでも出撃は可能な状態と言えるだろうか?」


ここからは職責に関わる話だから、気を引き締めて答えた。


「大統領閣下。

我が国の周囲は敵しかいない状況ですし、いつ情勢が変化するかも不透明ですから、艦隊はいつでも運用できるよう待機させております」


残念なことにそれが現実だから、本来であれば整備や改装のローテーションにあるべき艦艇も工事に入っていない。

これはかなり問題であるのは間違いないのだが。


だが、大統領の反応は、私の懸念とは全く違うものだった。


「それは頼もしいね!

いつでも全力で戦闘状態に入れるわけだね。

…ところでキンメル君は現在の世界情勢をどう見るね?」


大統領は勘違いしている。

やはり現場の状況には関心がなさそうだが、そんな私の意見など聞いてどうするのか?

ただし、聞かれたからには答えなければならんか。


「ユーラシア大陸における戦争も終わり、平和が訪れるものとは考えます。

しかしながら、アメリカ合衆国の周囲の国々がどう動くかは未知数です」


大統領はわが意を得たりとばかりに言った。


「そうなのだよ。まさにそこが最大の懸案事項といえるね。

これまで同盟軍は、ソビエトとジャーマニーの相手をするので手一杯であったわけだが、状況が完全に落ち着いてしまうと、その凶悪な牙を我がアメリカ合衆国に向けかねない。

更にはCSAやテキサス、メキシコやカナダがこれに追随すれば、我が国は不利な状況に追い込まれてしまうだろう」


大統領の持っている危機感と焦りは、状況的には否定しない。

しかし、日英は積極的に動かないだろうし、そのような悲惨な戦争を回避するのは、まさに我が国を取り巻く国々に対する、大統領の外交的手腕にかかっているわけだが。


変な事態にならないよう、遠回しに忠告しておこうか。


「…お叱りを覚悟で申し上げますが、周辺諸国が野合するのは我が海軍にとっては悪夢と言えます。

我らは太平洋と大西洋に分割配置せねばなりませんから、最初から兵力を分断されているに等しいのです」


私は、だからこそ大統領には適切な外交的対応をして欲しいとの意味で言ったのだが。


大統領は私に返答する代わりに同席している男へと視線を向けた。

それを受けてか、大統領の傍らに座っていた男が間髪を入れずに口を開いた。


「海軍を預かっている責任者が、そのような弱気では困りますぞ!」


私もその男に視線を向けたが、なぜか挑発的な態度と表情をしている。

なんだ急に?私が何か気に障ることでも言ったのか?こちらは事実を伝えただけのはずだが。


私はこの男に何者なのかを問うた。


「…失礼ですが、貴方は?」


「財務次官のハリー・デクスター・ホワイトです」


畑違いの財務官僚が、なぜ軍事に首を突っこむのだ?

外交や軍事は素人だろう?

これは…嫌な予感しかしないな。


大統領が私に言った。


「ホワイト君は私の優秀な外交ブレーンでね。

主に対日政策に関して意見を貰っているんだが、彼が言うには、最も危惧をせねばならんのが日本だそうだ」


えっ?いったい何を言っているのだ?日本だと?


対策せねばならない優先順位はCSA、テキサス、カナダ、メキシコ、パナマに次ぐ6位がいいところだ。

日本やブリテンが、アメリカ合衆国にわざわざちょっかいを出すとは思えない。


ここは大統領であっても訂正せねばならんな。


「…本当にそうでしょうか?我が国には、CSA、テキサス、メキシコ、カナダと国境を接する敵国が4カ国存在しますし、彼らの方が厄介でしょう。

一方で日本とは国境線を共有しておりません」


するとホワイトが言い放った。


「君は粗雑で無骨な軍人らしく視野が狭いね!

国境線を接していない?国境線は何も陸地だけではないのだ。

アラスカの先、アリューシャン列島の目の前は、日本の勢力圏と言えるカムチャツカ半島だし、海の上にも国境線は存在するのだよ?

その意味でハワイは実質的に日本領なのだから、国境線を接しているに等しいのだ」


何を強引な屁理屈を並べるのだ?

大統領は黙って聞いているだけか?

もしかしたら日本と無理矢理に戦おうというのか?


大統領が私に言った。


「そんなわけで作戦部長。私は状況が完全に落ち着いてしまう前に日本を叩きたいのだが、そのためには、まずはハワイを奪還しないと話にならない。

君に与えている海軍戦力のすべてを傾注した、ハワイ奪還計画を立ててくれたまえ」


無意味だ。ここは大統領に翻意を促すしかない。


「お言葉ですが、それでは他国に対して国土防衛の義務が果たせません。

肝心な本土が、がら空きになってしまいます」


大統領は怒気を含んだ表情で私に言った。


「何のために新鋭戦艦を16隻も建造したのかね!?

それと空母もそれなりに保有しているのだから、ハワイの奪還など容易なはずだ。

本土の防衛は旧式戦艦群でも対応可能ではないのかね?

何といってもCSAが保有するのも、旧式戦艦なのだから」


お前に預けている新鋭戦艦は、役立たずの玩具なのかと問われているに等しいが、軍人としては反論しづらい。


「……」


私が黙っていると、大統領は慰めるような、なだめるような口調で私に告げた。


「この戦いが終わったら、私は現在の陸軍と海軍に加えて、空軍を設置するつもりだ。

そして、それらを統合した制服組の頂点を新設しようと考えているが、君がその初代の最有力候補だ。

よって頑張ってくれ給え」


そんな飴まで用意しているのか。

仕方あるまい…


「…では微力を尽くします」


それほど日本と戦いたい理由は何なのだろうか?


-------------------------------------------------


あまり思い出したくない出来事だったが、大統領は的確な外交戦略を持っているのか疑念を持った。

最初から対応が間違っているのではないのかと。


その後に知ったのだが、どうやら外交の素人である大統領は、側近の意見に従っているらしい。


軍人の私が口を出す話ではないが、良識ある軍人たちはそのことに対して憂慮しているらしい。

何と言ってもロウズヴェルト氏の対日政策は、敵意と憎しみが前面に出るものだったのだ。

妙な方向に偏った外交政策では、国を誤る原因にしかならないのではないか?

しかも議会との対立が原因で、対日宣戦布告を行わず、大統領権限で戦争に突入するというのも不安だ。


作戦が成功しても、日本人は激怒するだろう。


だが、私は目の前の事に集中するしか方法がない。

作戦会議の結果、ハワイ攻略は戦術的には十分実行可能と判定されているが、健全な戦略とはとても思えないし、大統領を後ろで操る集団の意図には懸念が残る。


いや。今はそんなことは忘れてこの作戦を実行あるのみだ。




12月7日(ハワイ時間)午前7時


Side:菅野 直(空軍大尉 ハワイ駐留 第501航空隊 隊長)


オアフ島カアラ山のレーダーサイトが大編隊を探知し、ラナイ島の領海上空に侵入したことが確認された。


オレは迎撃隊を率いて南に飛行しているが、このままだと本当に戦争になってしまうな。

つい最近まで、ずっと戦っていたから戦争には慣れている。

だが、相手がアメリカ合衆国とは…


やがて前方、こちらより低い位置に大編隊が見え始めた。

高度は5000mくらいか?

情報では敵は二波に分かれてやって来ているらしいが、オレの航空隊が対応するのは当然ながら前方の集団だ。

どうやらオレたちが一番乗りらしい。


オレは無線を通じて相手に警告を発した。


「接近中のアメリカ編隊に告ぐ。君たちはハワイ王国の領空を侵犯した。

今ならまだ間に合う。直ちに引き返せ」


これに対して、相手は戦闘機隊がこちらに向けて上昇を開始した。


本当に…やる気か?


そして…相手が先に銃撃を開始した。

これで自衛権は認められるが、遂にアメリカと戦争とは…だが、覚悟を決めよう!


オレは自隊に命令を下した。


「発砲を許可する。撃ち落とせ!」


撃墜目標は艦上攻撃機のダグラスTBDデバステイター、そして急降下爆撃機の同じくダグラスSBDドーントレスだ。

我が空軍の機体と比べたら古色蒼然の趣きがあり、デバステイターの最高速度は300km/h、ドーントレスでも400km/hだから話にならない。




12月7日(ハワイ時間)午前7時30分


Side:黛 治夫 (海軍大佐 第八十二防空戦隊 指揮官 防空駆逐艦「梅」艦上)

於:真珠湾南方 22.2km沖合


レーダースコープを凝視していた見張り員が声を発した。


「レーダーに反応あり。

12時の方向。距離3万。高度3000。数およそ100機です。

更に後方、距離4万にも同規模の航空目標が接近中」


アメリカの攻撃隊がやって来た。オアフ島の領海に侵入する意思は明白だ。

既に迎撃戦闘機隊が戦闘状態に入っている。

それにしても数が少ないな?


私は参謀長に尋ねた。


「かなり数が減ったな?

確か二波の総数は500機前後に上るという情報のはずだったが」


参謀長が答えた。


「迎撃に出ていた『三式戦闘機』の餌食となった模様です。

アメリカの主力戦闘機は、未だにグラマンF-4Fですから勝負にならなかったのでしょう」


そうか、確かにそうだろうな。

私は記憶を辿りながら言った。


「F-4Fワイルドキャットか…初飛行からそろそろ10年ほどになるな?

アメリカ合衆国が分裂する前に採用された機体のはずだが、ゴタゴタのせいで新型機の開発が出来ていなかったのが不幸だな。

それとも予算不足かな?」


参謀長は推測を交えながら答えた。


「アメリカ合衆国海軍は、分裂騒動以来、急速に艦隊戦力の復活を目指していましたから、予算不足に陥って後継機の開発が止まっていたというのは十分に考えられるでしょう」


そうだな。

それにしても古すぎて諸元を思い出せないな。


「最高速度はどれくらい出せる機体だったかな?」


「改良型が出ているかどうか不明ですが、以前のままですと500km/hそこそこが限界だったはずです」


そうなのか?

それでは…


「それは酷いな。こっちの『三式戦闘機』は700km/h近くは楽に出せるのだろう?

話にならないじゃないか?」


「はい。全くその通りで、『零式戦闘機』でも十分に対応可能でしょう」


何ということだ。

少し気の毒になってしまうが、これは戦争なのだ!気を引き締めるぞ。


私は気持ちを切り替えて命令を発した。


「全艦に命令。第八十二防空戦隊は敵針路に対して横腹を向け、全対空砲による迎撃を行う。

2万mで発砲開始。5000mまで近づいたら40mm機銃も使用せよ」


こちらの戦力は防空専門の「秋月」型5隻と、4500トン級の新型防空駆逐艦「松」型が10隻で構成されている。

特に、この「松」型の防空力はすさまじい。

レーダー連動の射撃指揮装置が6基も備えられているから、同時に6つの航空目標を捕捉可能だ。

しかも当然ながら「近接信管」付きの砲弾を使用するので、極めて効率よく敵機を撃墜出来るだろう。


「敵機接近。間もなく2万mです」


「よし、全艦、撃ち方始め!」


全艦に備え付けられた、レーダー連動の射撃指揮装置によって得られたデータは、長射程の九八式70口径10cm連装砲に伝達され、発砲が始まった。

何といっても1門あたり1分間に20発も発射可能な高性能砲だ。

発砲開始から20秒ほど経過すると、早くも黒煙を上げて墜ちていく敵機が現れ始める。

期待通りに、近接信管が効率よく作動してくれているみたいだな。


さっきまで晴天だった空が砲弾の炸裂と敵機の被弾によって生じた黒煙に覆われ始めた。

しかも敵機の進撃速度が遅い。

F-4Fより更に鈍足の爆撃機や攻撃機が含まれるからだろうが、こちらとしては射撃時間が長くなるから、それだけ敵機の被害もまた大きくなっていく。


やがて距離が詰まってくると、40mm機銃の射撃がそこに加わり始めた。

この段階ではもう空は真っ黒といった状況で、とんでもない量の銃砲弾が投入されたことを表している。


最終的に残った敵機は数機程度で、あれでは基地を攻撃しても、何の被害も与えられないだろう。

基地にも対空砲が設置されているのは言うまでもないからな。


「第二波が間もなく3万mに近付きます!」


おっとそうだった。


「全艦。再度撃ち方用意」


私の任務も、あと数分で終了だな。

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