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【外伝】ハワイ沖での決戦 前編 

1945年12月6日 午後7時


Side:ハズバンド・エドワード・キンメル ( 海軍大将 アメリカ合衆国 海軍作戦部長 )

於:ハワイ諸島 ハワイ島 東南約500km 戦艦「モンタナ」艦橋


いよいよ、日本との決戦の時が近づいている。

本来であれば私は海軍のトップとして、海軍省に詰めておかねばならないだろう。

だが…今回の戦いが、アメリカ合衆国の国運を左右するのは間違いない。

そのような重要な戦いを、直接現地で指揮しないでどうする!


何より私はハワイをこの手で奪還したいのだ!


私が日本人によってハワイを追われて8年。

あの日から今日までは、私にとってもアメリカ合衆国にとっても暗く、忍耐の日々が続いたが、それも間もなく終わるだろう。


何といっても、今回の「ハワイ奪還艦隊」は、かつてない強力な布陣となっているのだ。

この奪還艦隊は、前衛の本隊と後衛の機動部隊の二手に分かれているが、本隊には最新鋭戦艦が16隻含まれている!


・サウスダコタ級 3万4000トン。

東京海軍軍縮条約を破棄して設計された、最初のクラス。16インチ砲搭載だが、防御力は対14インチ仕様。

45口径16インチ砲3連装3基9門搭載 28ノット。

「サウスダコタ」、「ノースダコタ」、「マサチューセッツ」、「インディアナ」


・ワシントン級 3万9000トン。

サウスダコタ級の防御力を高めて、高速化したクラス。

45口径16インチ砲3連装3基9門搭載 30ノット。

「ワシントン」、「ニューハンプシャー」、「デラウェア」、「オレゴン」


・アイオワ級 4万9000トン。

高初速50口径砲を採用。前2クラスの設計を大幅に強化したうえで、さらに巡洋艦並みに高速化したクラス。

50口径16インチ砲3連装3基9門搭載 34ノット。

「アイオワ」、「ニュージャージー」、「ウィスコンシン」、「ミズーリ」


・モンタナ級 6万3000トン。

日本海軍が誇る、世界最大最強の超弩級戦艦「イキ」クラスを、正面から撃破するために設計されたモンスター。

50口径16インチ砲3連装4基12門搭載 30ノット。

「モンタナ」、「ワイオミング」、「アイダホ」、「ネブラスカ」


本隊のはるか後方を航行する機動部隊においても、空母だけで9隻投入したし、航空隊は600機運用出来る。

もちろん、上空直掩機も必要だから、全機を攻撃に振り向けるわけにはいかないが、それでも500機程度は攻撃隊として編成できるだろう。


対する日本艦隊には、多数の空母が確認されているが、いまだに英仏海峡に小型空母のほとんどを張り付かせたままだし、大型の正規空母が12隻確認されてはいるが、こちらも長らくヨーロッパ方面で行動していた。


よって、整備も必要だろうし、艦載機や搭乗員も損耗し、戦力は相当落ちているだろう。


要するに、ハワイを攻略可能な隙は十分にあるし、狙うのは今しかないと見積もられた。

相手の弱みにつけ込むようで、少し卑怯な作戦とも思ったが、これが戦争なのだ!


かつて、私がパールハーバーで見たように、確かに日本艦隊は、我が海軍が保有していないような不可解な武装を持つ艦が多いのが特徴だが、最近の調査によれば、それはどうやら、攻撃よりも防御のためのものであることが判明している。


駆逐艦に搭載されていた、あの長砲身の主砲は、対艦・対空両用砲らしいと判明しているし、奇妙な大型機械は、詳細な性能は不明なものの、レーダー連動の射撃指揮装置だと判定された。

さらに、対潜専門の駆逐艦と巡洋艦まで揃えており、ジャーマニーとの戦いで、大いなる戦果を挙げたという。


要するに対空と対潜に特化し、防御を目的とした艦隊なのだ。

しかも、かつてあれほど力を入れていた水雷戦隊による夜襲戦術は、捨て去ったらしい。

なぜなら全ての艦艇において、魚雷発射管が全廃されているとの報告があったためだ。


そうであれば対応は簡単だ。


護ることしか出来ないのだったら、こちらは攻めるのが上策だと言える。

相手が想定していないような、航空機の大群で攻め落とすのだ。

いかに対空専門の軍艦が所属していても、自ずと限度はあるだろう。



と…冒頭からここまで記した強気の内容は、全て私の願望であり、部下を鼓舞するために、自らにも言い聞かせているに過ぎないのだ。

日本軍の実力が判然としないのは、正直不安でしかない。


大統領の基本方針は間違っているのではないのか?

私はあの場で、それを明確に主張すべきだったのではなかろうか?

思いは空回りして、焦燥感だけが残る。


そんな思いに駆られていると、通信参謀が私に報告した。


「閣下。敵電波の発信を確認しました。

恐らくは潜水艦に発見されたものと思われます」


…やはり警戒はしていたか。仕方あるまい。ここまで来て引き返すわけにもいかんのだ。

それに…明日の朝には後方に配置した空母から攻撃隊を発進させるからな。

いまさら計画変更は出来んし、無線封鎖中だから連絡手段もない。


私の心は重い。

指揮官としての誇りと責任が、今や政治の策略と未知の危機に翻弄される重荷に変わりつつある。

部下たちの不安そうな視線、そして己の中に潜む『本当に私は真実を知らされているのか』という疑念が、夜ごと心に忍び寄る。

大統領は『これは正義の軍事介入であって、全面戦争ではない』と言っていたが、そんな理屈が相手に通用するとは思えない。


だが、もう後戻りは許されない。果たすべき任務の重みが、私に静かなる覚悟を強いるのだ。




日本時間12月7日 午後11時


Side:近衛文麿 (元帥 統合作戦本部長)

於:首相官邸 執務室


哨戒中の潜水艦から夕刻にもたらされた、アメリカ艦隊発見の報ですが、その後も針路は変わらずハワイに向けて航行中です。

いよいよ日米開戦が迫っていますね。

決して我らが望んだことではありませんが、こうなれば受けて立つしかありません。

兄上に許可をいただき、全軍に作戦発動を命令しましょう。


私は首相官邸に向かい、執務室に一人でいた兄上に話しかけました。


「兄上。アメリカ艦隊の針路は変わらず、ハワイに接近中です」


兄上はいつも通り、冷静な表情を崩すことなく言いました。


「そうか…では、やるしかないな」


「はい。それで…全軍に対する作戦発動を命じるにあたり、符牒を用いて発信したいのです」


「符牒の中身はなんだ?」


「はい。フジヤマノボレ一二〇八(ひとふたまるはち)です」


ん?兄上が一瞬、笑ったように見えたのは気のせいでしょうか?

笑うような要素は微塵もありませんが?


「…そうか。

戦争などしたくないし、やらずに済むならそれが一番良い。

だが、こちらが望まずとも、今回みたいに仕掛けられたらやるしかないし、やるなら勝たないと意味がない」


「…はい。そう思います」


本当にそう思います。

やるからには勝たないと意味がないのです。


「特に今回はアメリカ合衆国が相手だ。

万が一にでも日本が敗れたら、どんな扱いをされると思う?」


「…最悪は陛下の退位を迫られる恐れがあります」


「それもあるかもしれない。

だが、覇権主義の権化のようなあの国は、日本を軍事的にも経済的にも支配しようとするだろう。

最初は精神面での緩慢な死を画策するだろう。

日本が古来から守ってきた、文化・伝統・精神性は破壊しようとするはずだ」


「彼らなら…やりかねませんね」


「次は日本の地政学的位置を利用して、世界への覇権を確立しようとするだろう」


「その場合、彼らが欲する最重要拠点はどこでしょう?」


「間違いなく沖縄だ。

あそこはアメリカから見て、東西交通の要となる場所にあり、千島列島から南下する列島線との交差ポイントだ。

しかも長距離ロケット弾が実用化されたら、世界の主要都市をその射程内に収めることが可能となる位置にあり、極めて重要な拠点になり得るんだ」


「なるほど…そうなってしまうと、沖縄の人々を不幸に陥れてしまいます」


「その通りだ。

そしてその上で、日本領内であれば、日本政府との協議を経ずに、勝手に米軍基地を置ける特権を要求してくるだろう」


「…」


「これも仮定の話だが、千島列島や樺太がロシアに奪われている状態だったとしよう。

長く粘り強い交渉の結果、そこが日本領に復帰したとしても、アメリカは日本政府の許可無く、喜んでそこに基地を置くだろうし、我々にはそれを拒否することもできないだろう。

それが分かっているなら、ロシアは絶対に領土を返還しない」


「そのような悲惨な状況は避けねばなりません」


「もちろんだ。

では発信を許可する。文麿、勝つぞ!」


「お任せ下さい!」


いよいよアメリカとの戦いが始まります。




ハワイ現地時間12月7日 午前6時


Side:ハズバンド・エドワード・キンメル


夜が明けた。

いよいよ、後方を航行中だった機動艦隊から攻撃隊が発艦し、本隊の上空を通過していった。


「閣下。攻撃隊全機、発艦しました」


「よし。では航空隊の攻撃で混乱したパールハーバーを本隊で制圧しよう。

上陸準備に入りたまえ」


「イエッサー!!」


航空隊は二波に分かれて、その総数は500機。

あとは攻撃隊を信じて任せるしかない。

まずはパールハーバー周辺に点在する、ヒッカムやホイラーといった飛行場にある敵の航空戦力を撃滅し、制空権を確実に確保するのだ。


事前の偵察と現地諜報員によって、有力な艦隊は駐留していないことが判明しているから、その後の攻略そのものは難しいとは思われない。

敵の水上艦艇が出撃してきても、こちらには「モンタナ」級以下の新鋭戦艦群があるのだ。

対空・対潜専門の艦艇では手も足も出せまい。


一気に勝負をつけるしかない。


後はこの本隊と輸送船群に乗せている海兵隊によって、ハワイ王国宮殿や政府施設を押さえたのちに、各島を制圧すれば、ハワイを再びアメリカ合衆国のものとできるだろう。


その後どうするのかは知らんが。

そもそも、この作戦にどんな意味があるのか、私自身が理解していないからな。

自分の任務を信じたいが、本音では何かがおかしいと感じている。


それは事実だ。


しかも、大統領は日本に対して宣戦布告を行う意思がないらしい。

事前に作戦内容が漏れることを恐れての判断とも言われているが、果たしてそれだけだろうか?

私には、もっと根本的な理由があるように思える。


その理由は、アメリカ合衆国憲法にあるだろう。


憲法において、戦争に関する権限は、大統領と議会のあいだで明確に分担されている。

大統領は最高司令官として軍を指揮するが、宣戦布告の権限は議会にある。

これは憲法第1条第8節に明記されており、議会こそが戦争を正式に開始する力を持つのだ。


だが、野党の共和党が多数を占めている下院において、大統領が宣戦布告を議会に要請しても承認されるとは思えない。

そんな大統領の焦りの気持ちは理解できるのだが…


大統領は議会の正式な承認を得ずに、軍事介入を始めようとしている。

そして、そのような前例を作ってしまえば、後世においても宣戦布告無しで戦争に踏み切るようになるのではないか?


呼ばれてもいないのに世界各地の紛争に首を突っ込み、人類に不幸を撒き散らすようになってしまうのではないのか?


知り合いの国務省の役人が漏らしていた言葉が印象に残った。


「議会に諮らず、国際法を踏み越え、勝手に攻撃を決定する。

おまけに『これは全面戦争ではないのだから許される』と大統領は信じているらしいが、それを正義と信じて進む国は、果たして過去の『侵略国』とどこが違うのか?」と…


それを聞き、私は思わず言葉を失った。それと同時に心の奥底に、重い鉄板のような嫌悪が沈んでいくのを感じた。


思い起こせば、この国はいつもそうだった。

相手が納得しない理由で開戦に至る歴史を繰り返してきたのだ。


1846年のメキシコ戦争は、まさにその典型だった。

自国が仕掛けた戦闘を「防衛」と称して開戦し、ポルク大統領は「アメリカ兵の血がアメリカの地で流された」と主張して、戦争を正当化した。

その結果、カリフォルニアやニューメキシコを含む広大な領土をメキシコから奪い取った。


1898年の「メイン」号爆沈事件は、より露骨な世論誘導と情報操作が伴っていた。


スペイン領キューバのハバナ港に停泊中だったアメリカ軍艦「メイン」号が、弾薬庫の爆発によって沈没し、260名以上の乗員が死亡した。


原因は不明だったにもかかわらず、ジョーゼフ・ピューリツァーとウィリアム・ランドルフ・ハーストが発行する新聞は、「スペインの陰謀だ!」と大々的に報道。

“Remember the Maine, to Hell with Spain!(メイン号を忘れるな、スペインを地獄へ)”というスローガンで、世論を戦争へと導いた。


米西戦争の結果、アメリカはスペインからプエルトリコ、グアム、フィリピンを割譲され、キューバも事実上の保護国とした。


だが近年では、この爆沈は自然発火による事故だったという説が有力である。

つまり、都合のよい「事件」をきっかけに国民感情を煽り、戦争へと導く……それが、この国の常套手段なのだ。


そしてハワイを併合したのもそうだ。

ハワイ王国の政情不安・王政の専制打倒を名目としたが、こちらも海兵隊が「治安維持」と称して派兵され、軍事力を背景に併合を押し通した、典型的な『事後的正義』だろう。


立場の違う人間が見れば、これらは「卑怯」と映るかもしれない。


だが、今回の相手は、これまでのような弱小国家ではない。ハワイ王国の背後にいるのは軍事大国日本だ。


一時的にはともかく、最終的に戦争に勝利し、ハワイを奪えるとは限らない。


ましてや宣戦布告を行わない戦争なのだ。

当然だが、日本やその同盟国から、激しい反発と非難を招くのは避けられないだろう。


それは「宣戦布告が遅れた」という事態が、取るに足らぬ過ちに映るほどの、国の品位と統治の正統性を自ら貶める、歴史的な汚点につながる。


国家の正義を語るに値しない、歴史の闇に刻まれるべき背信ではないのか…そう思わずにはいられなかった。


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