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【外伝】クルスク戦車戦

1944年(昭和19年)1月


Side:栗林 忠道(陸軍中将 南部戦線副司令官)、西 竹一(陸軍大佐 第一戦車連隊指揮官)


於:ソビエト南部 クルスク州近郊


我々は2年前に黒海沿岸から上陸して以降は、ウクライナとベラルーシの完全制圧を優先して行ってきた。

その任務も達成できたために、いよいよモスクワへ向けて北上を開始している。

ウクライナにおいては、住民の方々が率先して我が軍に協力してくれたから、本当はもっと早く北上を開始できたのだが、東部戦線との呼吸を合わせないと進軍の効果も薄いから待っていたという事情もある。


それに待っていたことによる成果もあった。


新型戦車が本格的に配備され始めたのだ。

「三式戦車」と呼ばれる機種で、これまでの「九八式戦車」よりも大きく、重厚感あふれる戦車だ。


私は戦車連隊長の西大佐と、この戦車を使った戦術について打ち合わせ中だ。


「西連隊長、どうかね?久しぶりの新型だが、この戦車で思う存分暴れることが出来そうかね?」


西大佐は軽く笑いながら応じた。


「そうですね。従来の「九八式戦車」よりも強力な90mm75口径砲を搭載していますから、T-34など簡単に撃破できるでしょうし、傾斜装甲も車体前面160mm、砲塔前面は200mmに達する重装甲ですので安心です」


うん。この言い方だと、どんな敵でも打ち破れそうだな?

九八型から5年。

なかなか新型が開発されず、心配していたが。


「そうか。そう言えば、昨年末あたりからドイツでも新型戦車の配備が始まったらしいな?」


「はい。タイガー戦車と呼ばれているそうですが、早速イギリス軍が鹵獲した車両を使って試験を行ったところ、「三式戦車」は200mまで接近しなければタイガーに撃破されず、逆に「三式戦車」は700mの距離でタイガーを撃破できたとの報告がありました」


そんな報告が来ていたな。

どうやら敵の新型を上回れそうだな。

後手に回れば厄介なことになったかも知れん。


「そうらしいね。

それなら十分ドイツ相手でも戦えそうかね?」


「はい、現時点では問題ないでしょう。

しかし、兵器というものは日進月歩で進化し続けていますから、キリがありません。

自分としては、愛馬ウラヌス号に騎乗していた頃が一番良かったのです」


そうだった。この人はロサンゼルスオリンピックにおいて、乗馬で金メダルを取ったのだったな。

今でもその時の愛馬ウラヌス号のたてがみを、肌身離さず持っているらしい。


「そうかも知れんな。全く我々はろくでもないものに付き合わされているわけだが、それでも、いやそれだからこそ勝たねば意味がない。

西大佐はソビエト軍の内情をどう見るかね?」


「連日の我が軍の戦略爆撃機による空襲によって、国力と生産力の落ち込みは、目も当てられないものとなっているでしょう。

しかも東部戦線においても、ウラル山脈周辺の軍需工業地帯は既に我が軍によって制圧されていますし、更には敵の生命線とも言える、ヴォルガ川沿いのカザンとサマラ、及びサラトフを包囲しましたから、もはやソ連には後がありません。

よって最後の決戦を挑んでくるものと予想します」


やはりそう考えるわけか。

いや間違いなくそうなるだろうな。


それにキーウを拠点とする、新型の「三式戦略爆撃機 飛鳥」も本格的に配備され始め、連夜にわたってスターリングラード爆撃を敢行して、全ての軍需工場の完全破壊に成功してもいたし、ドン川とヴォルガ川の物流に必須の港湾施設も破壊して使用不能にしている。

モスクワは孤立しているに等しく、彼らはもう本当に後がないのだ。


「では我々は決戦に備えて、もっと『三式戦車』を揃えねばならんだろうな」


そうだ。この戦車を本格的に集めてから動き出した方が良いだろう。

それから、あの新兵器もあったな。

この人にも話をしておこう。


「それと新型の『三式突撃砲』も期待できるぞ。

こちらは100ミリという大口径砲であるのに加えて、これに使う砲弾は、海軍の対空砲弾に使われていた『近接信管』の技術を応用したものらしい」


彼は興味を持ったらしい。


「それは、どんな信管なのでありますか?」


「聞くところによると、最初は海軍の対空砲である100ミリ70口径砲に採用されたらしいが、これは砲弾内部に小型レーダーが搭載されており、敵機に近付くと自動で炸裂するものだそうで、装填前の面倒な調整は不要なのだそうだ」


そう言うと、彼は相当驚いたみたいで、呆れたように言った。


「…そんなことが出来るようになったのですか?

陸軍においても、これまで対空砲という物は、砲弾装填時に目標との距離を予想して、時限信管を設定していたのです。

これは大変手間のかかる作業でしたし、効率が悪かったのも事実です。

それに、榴弾については触発信管が組み込まれており、地面に触れてから炸裂していましたので、効果も限定的だったのです。

つまり、その技術を応用した榴弾は、地表を感知して一定の上空で炸裂するのですね?」


「そうなるだろう。

地面に触れてから炸裂するよりも、敵に与える損害は比較にならんほど大きくなる。

何より、敵に対して恐怖心を与える事ができる」


「そうですね。それも間違いないでしょう。

そう言えば新型の対空自走砲も、間もなく配備されると聞きましたが、間違いなくその信管が使われるのでしょうね?」


そうだ。それもあったな。

その対空砲にも「近接信管」が使用されている筈だから、敵航空機をもっと効率的に墜とせるだろう。




1944年1月


Side:ヨシフ・スターリン


芳しくない!全く戦況は芳しくないぞ!


「状況はどうなっておるか!!」


「わが軍は東部において一方的に押されていますが、南部においては何とか持ちこたえています。

ここは機甲戦力の全力をもって、南部戦線に対処したいと考えています」


「どうでも良いから勝利の報告をしろ!儂は勝利の報告以外は聞きたくない!」


役立たずどもめ!東部の話など聞きたくもないわ!




1944年(昭和19年)3月10日


Side:今村 均(陸軍大将 南部方面軍 総司令官)

於:ソビエト南部 クルスク州近郊


「閣下。大規模な敵軍が集結しつつある模様です」


幕僚が報告をしに来たが、いよいよ決戦も近いかな?


私は決戦に使用する予定の兵器について尋ねた。


「期待の『三式戦車』の数は揃ったかね?」


「はい。何とか計画していた500両が到着し、補修部品も揃いつつあります」


そうか。それは良かった。

戦車というのは思った以上に頻繁に壊れる兵器で、整備要員と部品が無ければまともに使えない。

さて、敵の内情はどんなものだろうか?

既に思い通りの運用は出来ない状態に、追い込まれているのではないかな?

部品の供給も、まともに出来ていそうにないが。


それはともかく…


「敵の戦力はどれ程かな?」


「兵力は300万人規模で、T-34戦車1500両、その他機動戦力が2000両と思われます」


こっちは「三式」が500両で、その他車両が2000両だから、相変わらず向こうの方が戦力が大きい。

これは最初からだから今更だがな。


ソ連の「縦深攻撃」は確かに重厚な布陣であるし、手ごわい戦法だと評価できる。

だが、その一方で悪く言えば「力まかせの突進」とも評価されるわけで、これに対処するには、攻撃正面での戦いは可能な限り避けて機動防御を行い、その側背を航空戦力で叩きのめすのは、理にかなっている。


片や今後相手にするであろうドイツ軍の得意戦法は『パンツァーカイル(戦車のくさび)』として知れ渡っている。

この戦法では、最も装甲の厚い戦車、現在では「ティーゲル(タイガー)」戦車や、突撃自走砲「フェルディナント」がこのくさびの先端の役目をするだろう。

そして、それよりも装甲の薄い「パンテル(パンサー)」や、(4)号戦車がその後方に展開し、更に歩兵が続いて敵陣を突破していく。


これも厄介な戦法だが、とにかく今はソ連軍を撃破することに専念しよう。

それに「三式戦闘機」や、「三式戦略爆撃機 飛鳥」も実戦投入されるから、こちらも戦果に期待しよう。



3月17日


Side:クリメント・ヴォロシーロフ (上級大将 南部方面軍 総司令官)


於:ソビエト南部クルスク州近郊


日本軍への攻撃が始まった。

この戦争においては、我が軍は軍需工場や研究施設を日本の戦略爆撃機による空襲で失い、気付かぬうちに体力を奪われてしまっている。


だが、決して無策であったわけではなく、敵の「tip1(朱雀)」と呼ばれる長距離爆撃機を撃墜出来る性能を持つ、スホーイの「SU-3」やミグ設計局の「MIG13」、それにヤコブレフの「Yak-9」を、少数ながらも実戦に投入して戦況の回復を図る計画だから、今回は何とかなるだろう。


早速戦闘機隊から報告があった。

どんな戦果が得られたかな?


「こちら迎撃戦闘機隊指揮官。

敵の長距離爆撃機は新型!

我が戦闘機隊では速度と高度が及ばず迎撃不能。

繰り返す。速度と高度が及ばず!」


何だと!?日本軍は新型爆撃機を投入してきたのか?

それでは、これまでと同様に手も足も出ないではないか!


更に敵戦闘機と交戦中の、別の戦闘機隊指揮官からも報告があった。


「敵は新型の戦闘機を実戦投入してきており、我が方の戦闘機では全く歯が立ちません。

繰り返します!我が方の戦闘機では歯が…」


通信が途切れた…

新型戦闘機を投入してきたのは、我が軍だけではなかったということか…


そして日本軍による容赦ない爆撃が開始された。


だめだ。


これでは今までと同じように、超高空からの爆撃で一方的に殺戮されるだけではないか。

しかも新たに戦場に持ち込んだ新型の高射砲も全く役に立っておらん。

敵の高度がありすぎて届いていないのだ!


それと新型の戦闘機は、さっきの報告にもあったが、確かにこれまでよく知られていた「tip ノーリ(零式)」ではないな。

こちらも凄まじいとしか表現できない性能を発揮して、片っ端から我が軍の戦闘機を一方的に撃墜している。

制空権を取られているのでは、地上戦で多少優位になったところで結果は同じではないか。


だが、諦めるわけにはいかない。


「敵の中央部隊に攻撃を集中し、何としても敵陣の突破を図れ!」


我が軍の必勝策「縦深攻撃と無停止進撃」が通用しない敵など存在するはずがない。

そう信じて、敵の中央を突破すべく戦闘を継続していたのだが。


「閣下!敵戦車による逆攻勢が始まりました!

防ぎきれません!」


「どうなっているのだ!?」


「敵の新型戦車と対戦車砲です!T-34では全く歯が立ちません!」


続けて更なる凶報がもたらされた。


「敵の新型自走砲が突撃してきます。

この攻撃によって地表付近で榴弾が炸裂しており、兵員に甚大な被害が生じ、戦線を維持出来ません!」


戦車や自走砲まで新型なのか!?

これでは…




Side:西 竹一(陸軍大佐 第一戦車連隊指揮官)


この「三式戦車」の性能は予想通りだ。

あの強固なT-34の装甲を、まるで障子紙のように貫通して破壊しているし、逆に敵側の攻撃を近距離で跳ね返すことも出来ている。


これを期待して今回は、最近ドイツが得意としている「パンツァーカイル戦法」を私なりに工夫して採用した。

「三式戦車」によって開けた突破口を「三式突撃砲」で拡げて、その後を「九八式戦車」や「九八式突撃砲」が続き、歩兵によって完全に制圧する戦法だ。

極め付きが「二式対戦車ロケット砲」だ。

これによって敵の戦車群を圧倒している。


このクルスクを抜けると、モスクワまでの距離はもう500kmを切っており、途中にある大きな街はオリョール、トゥーラ、ポドリスク程度しかなく、遮るものは無いと言っても過言ではないな。


モスクワはもうすぐだ。

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