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【外伝】謎は解けた! 前編

1938年(昭和13年)3月


Side:高橋是清


ようやくお役御免となるか。

大蔵大臣を拝命し、途中首相を挟みつつ国政を主導した後にまた大蔵大臣を務めて、結局ここまで約20年か…

世界恐慌の荒波を乗り越えることが出来たのが最大の業績だと、世間では評価してくれているみたいだし、頑張った甲斐があるというものだ。


だが、退任する前に最大の疑問点である「あの件」だけは解決させて、すっきりとした気持ちで余生を送りたいと思う。

これについて、私は最近ある結論に至ったのだが、それが正解なのか確認したいとの欲望を抑えることが出来なくなってきたし、最後の機会だから当たって砕けてみるしかあるまい。


そこで私は首相に対し、二人だけで話したいと面会を申し込み、長めの時間をもらう事に成功した。


さあ確認してみよう!


「国防大臣。いや…もう首相閣下でしたな。

お忙しいところ申し訳ないのですが、私が退任するに当たりまして、是非とも教えて頂きたいことがあるのです。

秘密はあの世に持って行きますので、出来れば包み隠さずにお話しいただくと有り難いのですが」


「改まってどうされました?

私でわかる範囲でしたらお答えしますけれど」


彼はいつも通り穏やかな態度だが、次にこれを言ったらどんな顔になるだろう?


「それでは、お言葉に甘えて単刀直入に伺いますが、貴方はこの時代の人ではありませんよね?」


表情は変わらんか?


「はい? 高橋さんのおっしゃっている意味が分かりかねますが…」


当然そう返答するしかないだろうが、ここは頑張って押し込もう!


「いやいや、お隠しにならなくとも、私には分かるのです。

最初の頃は、貴方には未来が見える能力が備わっているものと思っておりましたが、近頃はそうではなく、貴方はいつの時代なのかは分かりませんが、遠い未来から意識だけがこの世界に来られたか、若しくは迷い込まれたかの、どちらかだろうと確信を持つに至りました」


少し顔が引きつってきたか?


「……間近(まぢか)…そのように確信された理由をお聞かせいただいても?

あ、いや…聞かずとも、なんとなく察してしまいます。

きっかけはジェイコブ・シフの1億円追加融資ですね?」


そうだ。

確かにあの件が最初だったな。

もう何年前になるだろうか。日露開戦の前年だったから35年ほど前になるのか?

まずはこの件の真相から知りたいものだな。


「まさにその通りです。

とてもではありませんが、あのような離れ技は常人には不可能で、シフの弱みを握ったか、逆に希望を与えたのだろうとの、私なりの結論には至ったのですが、あれの真相とは一体どの様なものだったのでしょう?

更には、関東震災直前の貴方の行動もそうですし、疑問が決定的となったのは、世界恐慌直前の株式売却と空売りです。

…もっとも、空売りは私の判断が大きいのですが、あなたの存在が無ければ実行は不可能でした」


「…そうですか。失敗しましたね」


「そして最近まで、私はあなたは未来透視、あるいは予知の能力を持っているのだと思っていましたが、アインシュタイン博士との会話をきっかけとして、もしかしたらあなたは、肉体ではなく意識だけがこの世界に飛ばされてきたのではないかと考えるようになりました」


「…全てをご存知というわけですか…

では洗いざらいお話しましょう!

まずは、ジェイコブ・シフの件からお話しするべきでしょうね」


「よろしくお願いします!」


「私はあの時……シフに対して、ユダヤ人の国家を建設しようとの提案を行いました」


やはりそうだったのか!


「ただし、具体的な場所の提案は行いませんでした。

当時はまだ日露開戦前でしたから、ロシア革命は発生しておらず、強大なロシア帝国が健在でしたから、東パレスチナの場所を伝えたところで信じてもらえないと判断したからです」


「すると当然ですが、ロシア革命の発生日時も事前にお分かりだったのですよね?」


「そうです。ただし、当時は既に私の存在による影響は日本国内にとどまらず、戦争の帰趨(きすう)にもかかわるようになっていましたので、ロシア革命の発生も日時がずれて二か月ほど早まりましたし、皇帝一家の件も、史実より五日ほど早まりましたが」


史実!史実だと!やはりそうか!


「それで皇帝御一家を救出できたというわけですか…

時間と場所が、ある程度事前にわかっておれば手配は可能ですね。

ところで、いま『史実』とおっしゃられましたが、ぜひ教えていただきたい。

その『史実』における、日本の現状とはどのようなものなのですか?

どうも昨今の世界情勢は、日本に都合よく物事が運び過ぎており、とてもではありませんが『史実』では、そのようになっていないのではありませんか?」


「その通りです。

『史実』における日本は、現時点で既に孤立化を深めています。

まずは関東『大』震災により、未曽有の死者と大火災による被害を出してしまい、世界恐慌を待たずして不況の波が襲いました。

それは、あの鈴木商店、現在の鈴木財閥が破綻してしまう程の金融不況だったのです」


「それはまた随分と状況が違いますな。

あの鈴木財閥が破綻?

失礼だが、私もこの状況以外でお聞きしたら笑い出すでしょうな」


「そうでしょうね。しかも現時点で我が国は、既に国際連盟を脱退していますし、日英同盟は、東西から日英に挟まれるのを恐れたアメリカの陰謀で、とうの昔に破棄されております」


えっ!?そうなのか?


「…当然『四カ国同盟』なんて、影も形も無い。と?」


「ロシアは滅びましたからね…そのような孤立無援の中にあって、我が国は経済的にも世界恐慌の痛手から完全には立ち直っておらず、政党政治は適切な舵取り機能を既に失い、飢えた国民を食べさせるという大義名分にて、軍部が暴走を開始してしまって、もう誰にも止められなくなっています。

そもそも、国際連盟から脱退せねばならなくなったのも、軍部が大陸にて政府の制御を外れて独断で暴走し、国際的な信頼を失ったためです」


「あなたが軍部を統制しようとしたのは、そういった『史実』があったからなのですね。

…確かにあのままだったら危なかったでしょうな」


「はい。そして…ソ連の、スターリンの策謀によって踊らされたロウズヴェルトは、日本を盛んに挑発し、事実上侵略を開始して、日本を戦争へと追い込んでいきました。

まともな歴史家ならば、“戦争の原因を作ったのはアメリカ合衆国である”と、断罪するような方法を用いて日本を追い込んだのです。

その結果、追い込まれて窮鼠と化した日本は、遂にアメリカをはじめとして、イギリスなどの連合国に戦いを挑み、既に始まっていた第二次世界大戦に参戦したのです。

日本の同盟国は、ドイツやイタリアなどです」


私は思わず大声を出してしまった。


「ドイツと同盟ですと!?

まさか、あのヒトラーと手を組んだのですか!?」


「その通りです。

ですがお分かりのように、この同盟に前向きな意味など無かったのです。

そして…陸海軍の奮闘も空しく、最終的に主な都市は(ことごと)くアメリカ軍の空襲にて焼き払われ、新型爆弾によって、20万人以上の無辜(むこ)の民衆が虐殺されたばかりか、敗戦直前にはソ連の裏切りによって、とどめを刺されてしまいました」


「………」


「これによって、世界秩序が固定化し、覇権を握ったアメリカに対して日本人は文句も言えず、それどころかアメリカ人に媚びを売る者まで現れる始末だったのです」


「………」


「このように、完膚無きまでに敗北して、大日本帝国は滅び、アメリカによって『二度とアメリカに逆らいません』という内容の憲法を押し付けられた上に、武装は放棄させられ、アメリカに軍事占領されて属国となったばかりか、日本固有の領土は周辺諸国、米ソと朝鮮に(かす)め取られたままだったのです。

樺太や千島列島、竹島もそうですが、沖縄を筆頭に日本全国に米軍基地が存在し、費用負担まで要求されたのです。

日本の土地を貸してやっているのですから、アメリカは日本に賃貸料を支払って然るべきでしょう?

にもかかわらず、『思いやり予算』などという意味不明な出費を強いられたのです。

しかも!信じられないでしょうが、東京の都心、山王や六本木ですら、日本人が立ち入れないアメリカ軍施設があったのです」


「………」


「米軍から事後通告を受ける為に存在した、『日米合同委員会』というものは更に酷く、日本国憲法の上位に置かれるもので、内閣総理大臣ですら詳細を把握出来ていないという、恐るべきものでした。

そして、そのような状態が80年以上にわたって継続したのです。

ここまで虐げられた結果、良いことあったのかと言えば…最終的に日本が中露に攻められた際には、アメリカとの条約は役に立たず、危うく見殺しにされるところでした」


「…なんと無残な…それでは、兵士や犠牲者は犬死にではないですか」


「私が最も許せないのが、外国人によって国民を大量に拉致されても、自力で取り戻せなかったことです。

かつて、パーマストン子爵ことヘンリー・ジョン・テンプルは、たった一人のイギリス人を助けるために、ロイヤル・ネーヴィーを動員してアメリカを恫喝し譲歩を引き出したり、『ドン・パシフィコ事件』にてギリシャを屈服させたのに比べて、なんと情けないことかと憤りを覚えました。

おまけに、『北朝鮮にさらわれた同胞を助け出してほしい』とアメリカ大統領に懇願するなど、本末転倒の悲劇でしかありません」


なんだと?それは、そんな憲法を押し付けたアメリカの責任ではないか!

だんだん聞きたくない気持ちになってきたが、この話はまだ続きそうだ。


これは聞かずに済ませたほうが正解だったか?



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