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【外伝】近衛文麿 ③

続いて陸軍の新兵器をご紹介しますね。


私は今、陸軍技術工廠(陸技廠)に来ています。

以前ここは「陸軍技術本部」と呼ばれていた部門で、東京市小石川区にある陸軍砲兵工廠内に設置されています。


案内をしていただくのは、陸技廠長の多田礼吉少将です。


「では現在開発中の兵器をご紹介させていただきますが、陸軍における新兵器に対する考え方も、以前とは様変わりしました。

何故なら、日本軍が相手をせねばならないドイツ軍とソ連軍は、共に世界有数の陸軍大国なのですから、しっかりとした装備で臨まねばならぬのですが、それがようやく実現できそうなのです」


本当にそうですね。

とてもではありませんが、「気合い」で何とかなる相手ではないのですよ。


「まずご紹介しますのが陸軍の花形、正面装備となる戦車で、主力戦車と位置付けられるのが、先ごろ完成した『九八式戦車』です。

こちらは55口径80mm砲を装備した強力な攻撃力と、不整地でも40km/hが発揮可能な性能を併せ持つ優秀な戦車であり、防御構造も100mm装甲を砲塔前面に、80mm傾斜装甲を車体前面に採用して生残性の向上を果たしていますので、当面は独ソの主力戦車と互角以上に戦えるでしょう。

ソビエトの現行主力戦車は、T-26という形式名を持つ軽戦車ですが、この車両を2000mの距離で撃破可能と判定されていますから、敵に新型戦車が登場しない限りは無敵と言って良いでしょう。

ドイツも最近になって、Ⅲ号戦車と呼ばれる新型車両を開発したとの情報が入ってきましたが、こちらもソビエト製と同じく、この『九八式』が勝ると思われます」


いやいや。従来の帝国陸軍の戦車では考えられないくらい力強い印象です。

これまでは車体に比して砲塔が小さく、砲自体も小口径で貧弱でしたが、砲身長も4m以上ありますから、とても立派で禍々しさすら感じさせるものです。


「従来の帝国陸軍の戦車と比較して、大きさはもとより、性能も格段に向上していますが、これの理由は何でしょうか?」


「はい。それはエンジンの性能が向上していることが非常に影響していると言えるでしょう。

総参謀長閣下は、M&B社という企業をご存じですか?」


「……航空機用発動機の開発を行っているユダヤ系企業ですね?

最近知ったばかりですが、もしかして、このエンジンはそこで開発されたのですか?」


「おっしゃる通りです。

ユダヤ人技術者たちの設計は素晴らしいのですが、そもそもエンジンを製造するには、精密工作技術を高める必要があり、その点においては、イギリスより購入して技術指導も受けた工作機械の性能が素晴らしく、結果として壊れにくいエンジンが出来た点も特筆すべきでしょうが、こちらの水冷V型12気筒ディーゼルエンジンは、大出力な為に車体の大型化が可能となりました。

更にはイギリス人技術者により考案された懸架装置の性能も優れていますから、不整地での走行も全く問題なく行えるようになったのです」


なるほど、こちらでも国際協力の成果が出ているのですね。


「次にご紹介するのが、『九八式突撃砲』と命名される予定の車両で、先ほどの『九八式戦車』と同じ55口径80mm砲を採用していますが、こちらもつい最近制式採用されることが決定しました。

開発の目的は、敵陣突破用の砲兵として使用するためです。

先の大戦において、ロシア陸軍は常にドイツ軍に対して倍以上、時には数倍に達する兵力を動員したにもかかわらず、勝利を得ることが出来なかったのは、砲兵の差が表面化したためというのが世界各国の共通した認識ですので、主力戦車のみならず支援用の機動戦力の充実が求められたのです」


その為に開発されたのが、この「九八式突撃砲」というわけですね。

この車両は簡単に言えば、これまで砲兵が扱っていた大砲を機械化したものです。


従来であれば大砲というものは、人間あるいは牛馬による牽引で移動させていたのですが、目的地到着後に、牽引状態から射撃状態に移行させる手間が発生して、無駄な時間がかかっていたのです。

しかも、任務終了後は移動させるために牽引状態に戻さねばならず、迅速な陣地変換はできなかったのです。


それに大砲そのものが、牽引による移動が困難なほど大型化してきたのです。

それであれば、戦車の車体を利用して、そこに大砲を搭載してしまえ。

少し乱暴な表現ですが、そういった動機で開発されたのが突撃砲なのです。

名称は自走砲といっても良いのでしょうが、将来的には砲の口径が大型化し、使用する砲弾も徹甲弾よりも、榴弾専門の車両になることが予想されます。


現実問題として、海軍の10cm対空砲弾を改良した砲弾が開発されており、これは、敵陣地手前で地面を検知して爆発する砲弾ですから、破片の雨を降らせて敵陣と人員に損害を与えることを目的とした対地榴弾です。

つまり、戦車を撃破することよりも、敵陣地や歩兵部隊に対して使用する頻度が上がるものと考えています。


主力戦車との外見状の違いは、左右に旋回させることが可能な砲塔を持たないことですね。

この突撃砲も、80mm傾斜装甲を車体前面に施していますから生残性が高いです。


「次にご紹介するのが、歩兵随伴用の『九八式駆逐戦車』です。

こちらは小型の主力戦車とも言える存在で、攻撃対象は敵陣地、歩兵部隊です。

60口径40mm砲を搭載していますので、移動可能な大型機関銃とも言えるでしょう。

特筆すべきは、約75度まで仰角を上げられる点です。

つまり、対空機関砲としても使えるのです。

それもそのはずで、この砲は海軍で制式採用されている駆逐艦用の対空機関砲を改良したものなのです。

閣下もご存知のように、戦車といえども、平面部はどんな国の戦車でも装甲など無いに等しく、航空機に襲われてしまうと極端に脆い存在となってしまうのですが、この車両があれば、ある程度は対抗できるようになることを期待されてもいます」


そうですね。攻撃一辺倒ではなく守りも大切です。

この「九八式駆逐戦車」には、移動型の小型電探搭載車両が随伴して、対空目標を捕捉する予定らしいです。


ここまでは無限軌道(キャタピラー)を用いた車両で、未舗装路や泥濘地でも使用可能な戦闘車両でした。


「次に紹介しますのが、『九七式機動車』と命名された車両で、タイヤを用いた6輪車です。

兵員の輸送も可能な、機関銃搭載の装甲車両となっており、舗装路であれば80km/hで走行が可能です。

更にこれを大型化して兵員だけでなく、兵站物資の輸送も可能ならしめたこちらの車両が、『九七式兵員輸送車』であります」


これは昨年度に制式採用されて量産化が進んでいますから、頻繁に目にする日も近いでしょう。


「今まで帝国陸軍が得意としてきた、歩兵戦術に適した武器も充実させています。

まず歩兵の携帯武器は、『九八式軽機関銃』という高性能銃の制式採用が始まっています。

こちらは簡単に言えば、超小型化に成功した機関銃で、最近では『突撃銃』とも呼ばれ始めました。

狙撃銃のような精密な着弾性や、遠距離射撃に適した射程距離は持っていませんが、敵兵の頭を上げさせない効果、つまり面制圧を目的とした武器で、弾倉が空になるまで全自動で射撃が可能です。

要するに、辺り一面にお構いなしに撃ちまくることを前提としていますが、このようにレバーを切り替える事で単射も可能となっています」


これは…意外に軽くて、持ち運びがし易いです。

欧米に比べて小柄な日本兵向きの装備と言えるでしょうね。


歩兵が運用する対戦車兵器の進歩も凄いんです。

紹介していただきましょう。

まずは「九七式対戦車砲」です。


「こちらは50口径60mmの移動式対戦車砲です。

比較的軽量で、装甲自動車によってけん引される事を前提として設計しました。

かなり初速は速いですから貫徹能力も高いです」


こちらは先ほど紹介した『九八式突撃砲』の補完目的で、55口径80mm砲ほどの威力を必要としない目標、装甲車両や軽戦車などが対象となりそうですね。

混乱した戦場で使い分けが可能なのかは、研究しなくてはならないでしょうが。



対戦車地雷も格段の進歩を遂げました。


「こちらは『九七式対戦車地雷』です。

炸薬量は2.5kgですから、中戦車までは撃破可能と考えています」


そうですね。先ほども触れましたが、戦車といえども、車体下面の装甲はほぼありませんからね。

しかも履帯(キャタピラー)を切るには十分な炸薬量と思われます。


「それから現在開発中なのが、携帯式の対戦車噴進砲…ロケット砲ですね。

それと、それに装填する砲弾であります。

これは国防大臣閣下からの指示によって、研究が進んでいる兵器なのですが、『モンロー・ノイマン効果』を最大限に活かした兵器で、成形炸薬効果ともいう現象を発生させて、分厚い装甲板も撃破可能との実験結果が得られています」


これがそれの試作品なのですね。

話には聞いていましたが。


一般的に、装甲板を破壊する目的で使用される弾丸に求められるのが、それなりの重量と強度、そして速度であり、物理的に穴を開けて装甲を貫通させるのが、これまで主流の考えでしたが、モンローの「成形炸薬効果」を使って破壊力を一点に集中させ、更に「ノイマン効果」を使って得られた超高圧により、瞬時に固体が液体の振る舞いを行うという、通称「メタルジェット」によって分厚い装甲板を一瞬で破壊する事が可能となったのです。


そしてこれは、初速の遅い砲から発射しても同様な効果を得られるのが判明しておりますので、今後は急速に発展するでしょう。


もちろん敵がこれを使用した場合の防御も考えなくてはならず、現時点ではメタルジェットでも溶けない陶器製の装甲板を戦車の車体に貼り付けたり、装甲板の手前に薄い鉄板を設置するという対策も考えていますし、もっと簡単な方法としては車体に金網や鎖を設置して、成形炸薬効果を得られる有効距離を離すことにより無効化させる方法が取られる予定です。


これは…完全に「矛盾」ですね。

いつ果てるとも知れない泥沼にはまった。と、表現してもいいでしょう。


ですが、攻撃面では常に敵の考え出す「盾」を打ち破り続けるよう、「矛」の性能を高め続けねばなりません。


とにかく陸上戦力については、これらの正面装備や補助装備を使った訓練を開始しており、既にロシア軍へも供給を開始するとともに、日本軍の一部もロシア軍や東パレスチナ軍との共同訓練を行っています。


そうなのです。

ここまで紹介した兵器は、日本国内での使用は想定しておりません。

全てシベリアなどの大平原で使用されるのを前提としていますので、帝国陸軍で使用されるだけではなく、ロシアを始めとする同盟国に大量に供与されるでしょう。


次回は、海軍の主要艦艇や兵器についてご紹介いたします。


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