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【外伝】陰謀の始動

1932年11月 


Side:フランクリン・D・ロウズヴェルト(ルーズベルト)


やりましたね!大統領選に勝利して、私が次期アメリカ大統領となることが確定したのです。

選挙戦そのものは大変でも何でもありませんでしたが。

なんといっても現職のフーヴァー大統領が失政を重ねた末に、アメリカ経済を地獄のどん底に叩き落してしまったのです。


いったいどのくらいの人間が職を失い、家を失い、果ては命まで失ったのか分からないくらいの傷跡を我が国に残してしまったのです。

既に倒産した銀行の数は6000行にも上るのですよ!


そんな無能な共和党大統領が相手なのですから、勝利するに決まっています。

いや勝てない方が不思議なのです。

現実問題としてごく一部の州以外では圧勝しました。


むしろ我が民主党内において、大統領候補に選ばれるのが大変だったのです。

今なら共和党に勝てることが分かっていましたから、10名以上の候補者が乱立しましたからね。

理念も理想も無いくせに・・・まったく汚い人たちです。


さて、それはともかく、これからどうやってアメリカ経済を立て直すかですね。


共和党の唱えるような小さな政府による自由主義、放任主義をやってしまうのは最悪ですから、政府による統制が必要です。

それには「大きな政府」とする必要がありますから、職員の大量採用をしなくてはいけません。

志を同じくする優秀な人物が大勢必要なのです。


そして私が考えていたニューディール(捲土重来)を、政策の軸に据えるのは確定ですが、具体的なやり方、中身について検討しなくてはいけませんね。

捲土重来(けんどちょうらい)と言っても、やり方はいろいろあるでしょうが…

ですが大統領選挙中のラジオでの演説で「大統領に就任したら1年以内に恐慌前の物価水準に戻す」と宣言してしまったのです。何としても約束は守らねばなりません。


これについては、最近仲良くなったアメリカ共産党のブラウダー書記長が言っていたことが印象的でした。


「政府による計画経済がもっとも有効でしょうから導入すべきです。

民間や資本家に任せっきりですと、彼らは利潤を追求するのみで民衆の不幸など意に介しません。

政府による事業を興して、労働者に仕事を提供するのです」


なるほど。確かに有効な施策であり、私が考えていたことにも近いです。

しかしこれは私の嫌いな日本人が既に実行している政策では?

だから実行し辛いと考えていたのですが…


私は確認しました。

「まるで日本人のようなことをおっしゃるのですね?」


すると彼は大げさに両手を挙げ、断言したのです。


「いいえ完全に違います。

日本人はアメリカの保護関税をかいくぐるという、ただそれだけが目的で、金本位制から脱却するという掟破りを行いましたが、貴国においては銀行の圧力から脱出するために金本位制を止めるべきです。

すべての銀行はきびしく連邦政府が監査を行い、健全な再建ができる金融機関のみに政府から資金を貸し付けるべきで、市場に任せっきりは良くありません。

これによって金銀貨や硬貨は銀行から回収して政府が管理し、政府当局の発行する紙幣に切り替え、銀行が持つ合衆国の通貨発行への支配力を無くすべきです」


…確かにこれまでは銀行の支配力が強すぎて、政府の通貨発行にまで影響力を及ぼしていましたから、何とかせねばとは思っていましたが。


「…それは正しい方向性でしょうね。

とにかく銀行の圧力を制御しつつも、同時にその体力を復活させねばならないのは至上命題ですからね」


「その通りです。

また、農業分野においては農民の救済を目的として小麦、とうもろこし、綿花、食肉などの余剰産物をこれまでのように外国に売りさばくのではなく、生産そのものを削減し、それによって生じた減収は補助金で償うべきです」


ほう…これが計画経済というものなのでしょうか?


「それは画期的ですね。市場原理にすべてを委ねるのではなく、政府による統制や計画に基づいた生産とすべきという話ですね?」


「その通りです。

ほら日本人のやっている政策と全然違うでしょう?

彼らは資本主義の何たるかを、全く理解していないサルなのですぞ?

表面で見えることと実情は全く違うのですよ。

そして閣下の斬新な政策で人類を救うのです。

黄色いサルが行っている我々の真似事なんぞに後れを取ってはなりませんぞ?」


そうですね。おっしゃる通りでしょう。

自信が湧いてきました。


そして更に有難いことに有能な人物を多数紹介していただきました。

・アルジャー・ヒス


・ハリー・ホプキンス


・ハリー・デクスター・ホワイト


・ヘンリー・モーゲンソウ


・ヘンリー・アガード・ウォレス


・ネイサン・グレゴリー・シルバーマスター


・ローレンス・ダガン


他にも多くの人物を推薦してもらいましたので、私の政権にて活躍してもらいましょう。

アメリカ政府内では共産党を嫌う風潮がありますが、この不況から脱却するためには利用できるものは何でも利用しない手はないですし、原理原則は二の次なのですよ。




Side:アール・ブラウダー(アメリカ共産党書記長)


ふふふ。ロウズヴェルト氏はあっさりと我らの策にはまったな。

あの男の日本嫌いは本物であったらしい。

これはあの男が敬愛する、ウィルソン大統領の仇討ちでもするつもりなのかな?


まあいいだろう。

あの男が日本人憎しの感情に流されて周囲が見えなくなるのであれば都合がいい。

それこそ我ら共産党インターナショナル(コミンテルン)の目的である、ソビエトの外交政策を擁護する方向へ各国政府を誘導する役割を果たすには、ちょうど良い隠れ蓑になるのだからな。


更には同志をアメリカ政府内部へ送り込む作戦も成功しそうだしな。


しかしあのロウズヴェルトという男は大馬鹿者だ。

大きな政府を作って政府主導でニューディール政策に邁進するなどと言っているが、急ぐ余り身元確認もろくにやっておらぬ有り様なのだからな。

私が紹介した人物たちも政府中枢で活動できそうだから、上手く利用してアメリカにおける我らの擁護者となるように誘導せねばならん。


だが、念には念を入れて別方面からも協力者を作らねばならんだろうが、ファーストレディとなる予定のエレノアは淫乱で貞操観念に欠けるから、こいつを利用してロウズヴェルトを操るのも一計だな。


ロウズヴェルトの奴は病気の影響で歩くことすらままならず、車いす生活を送っておるから既に『男』の機能は失っておるだろうし、あの女は夜が寂しくてたまらんはずだ。

よって若い二枚目をあてがって懐柔しよう。

ロウズヴェルトのほうも自身の身体について妻に対して引け目を感じているだろうから、案外簡単にエレノアの言う内容を受け入れる可能性があるしな。


とにかく使えるものは何でも使って、同志スターリンを助けなくてはならんのだ。




Side:ヨシフ・スターリン


アメリカ共産党の連中から吉報が届いた。

無事にアメリカ次期大統領となる予定の男に食い込めたとの報告だった。


実にめでたい報告だな!

儂の日頃の指導の成果と言えるのだから、これは儂の手柄なのだ!


まず手始めにやってもらわねばならんのは、アメリカ合衆国による我がソ連の国家承認だ。

既にドイツには承認させたが、アメリカにおいても実現させたい。

これが出来れば、我がソ連が国際的に孤立している現状から脱却できるだろう。

何といっても日英露仏をはじめとする大国は、国際連盟なる仲良しクラブを作って世界を支配し、弱小国には有無を言わさぬ強権でもって介入して、我がソ連の国家承認を妨害しておる有り様なのだからな!


その次に必要なのは、憎き日本とロシアに対してアメリカが敵対するよう誘導し、日露へ復讐せねばならん。


特に日本軍は手強く、敵に回すと非常に厄介だ。


先の大戦において儂はそれを嫌というほど味わったのだ。

これを打破するにはアメリカを利用して日露と争わせ、奴らの背後を我が赤軍が襲えば勝機は出てくるだろうし、それしか方法は無いのだ。

同時にロシアへの工作も継続せねばならん。

ロシアなど真っ先に潰してくれるわ!


それは良いとして…


「おいベリヤ。ロシアに送り込んだ皇帝暗殺部隊はどうしておるのだ?」


「へい親分…それが全員返り討ちにあったみたいです」


「何!?どういうことか!詳しく説明しろ!」


「へ、へい!それがロシアは最近になって専門の諜報組織を編成したみたいでして…しかも他にも得体のしれない組織が存在するみたいで、こいつらが裏で手を組んでおるみたいです」


「…なんだと?…では日本に送り込んだ暗殺部隊はどうした!?

確かお前のGUGB(国家保安総局)でも、選りすぐりの腕利きを送り込んだはずだな?」


「そ、それが、その…そちらも日本に入国して早々に連絡を絶ちました。

あの国では我々のような人種はとても目立つので、活動がしにくいのです」


それは以前にも報告があったな。少し出歩くだけでも常に尾行者の気配がするという内容だった。


「特に痛かったのが、我々の出先機関である日本共産党を壊滅させられてしまったことです。

日本人の協力者がいないと、あの国での活動は至難のわざで、ロシアとは事情が違うのです。

それから相手も腕利きともなると、我々が尾行されていることすら察知できないらしく…あの国には『忍び』と呼ばれる集団が存在したそうですが、そいつらの末裔なのかもしれません」


…実に不愉快で忌々しいが、やられっぱなしでは話にならん!

コミンテルンの連中も、役に立たんのであれば収容所に送るしかあるまい。


それは良いとして…


「ベリヤよ。お前は最近また幼女をあちこちからさらって来ては凌辱しておるらしいが、本来の任務を忘れるようなら…寒い場所へ移り住んでもらうが、わかっておるのだろうな?」


「へ、へい親分!全力で対処しますです。はい!」


日本の諜報組織か…実に忌々しい連中だが、そいつらを率いている者が日本にいるはずだな?

誰だ。いったい誰が儂の邪魔をするのだ?

そいつを消さないと日本で満足に活動できないのか?


見つけ次第消してやる!


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― 新着の感想 ―
なんだこのベリヤwww 小物感がものすげぇwww 俺の知ってるソ連ってもっと同志同志言ってスターリン=サンを恐れまくってる印象だったのだが…
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