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第九話 まずは米の改革だ!


早速、脚気(かっけ)対策について父と相談した。


「脚気についてですが、なぜ海軍では死者がいないのに、陸軍では多数出てしまうのでしょうか?」


父も情報を集めたが分からないらしく、困惑した表情で言った。


「陸軍では細菌が原因だと言っているが、確定はしていないらしい」


まあそうだろう。

だが答えを知っている俺は、父を正解へと誘導していく。


「細菌が原因なら、日の当たらない暗く湿った軍艦内のほうが、陸上よりも環境が悪いのは素人でも分かりますよね?

にもかかわらず、海軍では死者はおらず、逆に風通しの良い環境である陸軍でしか発症しないのは、おかしくありませんか?」


「…確かにそう思うが…ではお前は原因は何だと思うのだ?」


「はっきり申し上げて栄養の偏りだと思います。

白米だけではなく、肉や魚や野菜を食べさせる環境では発症しない筈です。

海軍は白米より栄養のある麦を食べさせているとの話ですので、その事実が証明しています。

騙されたと思って実証実験をしてもらえませんか?

具体的には、脚気患者に麦を主体とした食事を与えて、症状が改善するか確かめて欲しいのです」


「…そうだな。国家国民の行く末を案じるなら、こういった病気の根絶も重要だな」


実に素直で操り甲斐のある父だ。

しかも日本有数の権力者なのだから、軍に協力させることもたやすい。

簡単な実験をするだけで症状が改善するのは確定している。



三ヶ月後には見事に結果が証明され、脚気患者が治癒することで脚気に対する国の方針が固まり、無駄な死者が激減していくことになる。


これにより、陛下をはじめとする政府要人からの父への評価と、国民からの人気は爆上がりだ!

原因が特定されるのは更に先の話となるが、そんなことは重要ではない。

無駄な死人が出ないのは正義だ。


お陰で父の俺に対する信頼も爆上がりだ!

これで当面は父を通じて国政を操れそうだとの感触を得た俺は、次の改革を父に提案することにする。


「寒い土地でも、たくさん米が採れるようになると素晴らしいとは思いませんか?」


「そうだな。それに越したことはないが、米は暖かい地域で植えるのが常識だな?」


「しかし、日本の国土は北部のほうが平野が多く広がっています。

もしこの地域での稲作を強化し、寒冷地に適した品種を導入できれば、国民の暮らしもより豊かになるのではないでしょうか」


「もっともな話だな。もしかして何か当てがあるのか?」


「新聞で読んだのですが(本当は平成時代に資料で読んだ)、山形県庄内地方の阿部亀治という人が寒さに強い米の品種を見つけたらしいですよ」


「なに!?それは本当か!?もし本当なら、北日本中心に大々的に広めようではないか!

現地に行って確認し、効果がありそうなら政府を動かして国策にさせよう」


早速、父は山形へと視察に出かけ、現地で実際に確認することでその品質の高さを確認出来た。


こうして史実では「亀の尾」という名前になるはずの品種は、父により「亀の王」と名付けられた。

父のゴリ押しと政府の奨励もあって、少々の冷害をものともしない「亀の王」は、新潟以北の北日本全域にわたって大々的に栽培されることになり、安定した米の生産が軌道に乗ると、父の名声は更に上がることになる。


また、父が視察に出発する際に、明治30年代から徐々に広まったはずの「正条植え」という栽培方法もついでに耳打ちしておいた。


正条植えとは、規則正しく間隔を空けて苗を植えることで風通しを良くし、劇的に収穫量を増やすやり方だが、当時はこんな簡単なやり方も確立されていなかった。


「亀の王」の登場と正条植えにより、史実として起こった昭和の東北飢饉は回避されることになるだろう。

これで1936年(昭和11年)に発生するだろう、二・二六事件の重要な原因の一つは排除されることになりそうだ。


もう既に歴史改変にズッポリ足を踏み入れているな。

う〜ん。ここまで父の名声が上がり、影響力が強くなるなら、やはり俺は父の影に隠れて世の中を動かしたほうが効率的だな…。


とりあえず国内問題の次は対外政策だ。


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― 新着の感想 ―
戦国なろうでは定番の正条植え、この時代でも通用するとは勉強になりました。
[良い点] テンポ良くて素晴らしいです。 [一言] 大東亜戦争中に開発され、昭和30年台に全盛期を迎えた保温折衷苗代や室内育苗法なら明治期でもできますので是非採用下さい。早植えは米の品種よりはるかに効…
[気になる点] 亀の尾、亀の王…今は酒米ですな。 呑みたい
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