おおたこをおしえられ ~タコあげでのひとまく~
小学生のソヨカちゃんとミキオくんは、冬の公園に凧あげをしにやってきました。
霜月透子様のひだまり童話館だより*「さくさくな話」参加作品です。
別の小説『ランコ推参! ~キャンプ場での一幕~』等の登場人物がでますが、前作を知らなくてもお楽しみいただけます。
雪がちらほらとまいおりています。
その公園では、子どもたちがタコあげを楽しんでいます。
「ほら、レミちゃん。これでタコあげをやってみようか」
大学生のランコさんは、女の子にちいさなタコをわたしました。
ビニールでできたタコにビニールの足をつけたものです。
やわらかいタコで、ほねは2本のストローです。かわいらしいタコの絵がペンでかかれています。
糸のはしをレミちゃんにもたせて、ランコさんはビニールのタコをなげあげました。
「はしって!」
レミちゃんがかけだすと、タコはレミちゃんの頭よりも高く上がりました。
それを見ていたレミちゃんのお母さんは、クスッとわらいました。
「レジぶくろのタコでも、ちゃんとあがるのね」
「ポリぶくろとストローで作ったけど、思ったより上がりました」
「ランコちゃん。いつも、レミとあそんでくれて、ありがとうね」
レミちゃんは、きゃあきゃあ言いながらかけもどってきました。
そしてレミちゃんはランコさんのせなかにとびつきました。
ランコさんはわらってレミちゃんをおんぶしました。
そこへ小学生の女の子と男の子が近づいてきました。
ランコちゃんの知り合いの、ソヨカちゃんとミキオくんでした。
「こんにちは、ランコさんと……レミちゃんだっけ」
「こんにちは。ランコちゃん。オレたちもタコあげをしにきたんだ。ほら」
ミキオくんは手づくりの大きなタコを見せませた。
上の方が三角で、下の方にたくさんの足がついています。
ランコちゃんにおんぶされているレミちゃんがいいました。
「ミキオくん。これって、タコじゃなくてイカだよね」
「そうそう。イカの形のタコっておもしろいだろう」
ミキオくんはとくいそうです。
「あいかわらずだよね。ミキオくんって、すぐへんなものを作ろうとするの」
ソヨカちゃんは、ミキオくんのタコをゆびさしました。
すると、ランコさんがいいました。
「へんなものでもないよ。むかしはタコといわずに『いかのぼり』ってよばれていたんだ」
ランコさんがいうには、江戸時代には『やっこダコ』に足をつけたものがイカににていたので、『いかのぼり』とよばれたそうです。
「じゃあ、なんでタコになったの?」
レミちゃんがききました。
「どれだけ高く上げられるかで、ケンカになることがふえたんだ。それで『いかのぼり』をあげるのが禁止されたんだよ。それでも、町の人が『これはイカじゃなくてタコだ』って言いだして、タコあげをつづけたんだ。それからタコとよばれるようになった」
「なんか、ズルいよね。でも、それでタコあげができるようになってよかったね」
ソヨカちゃんが言いました。
それから、ソヨカちゃんがイカの形のタコをもって、糸のはしをミキオくんがもちました。
ミキオくんの合図でソヨカちゃんがタコをなげ上げて、ミキオくんは走り出しました。
イカの形のタコはぐんぐんとあがりました。
その時、風のむきがかわって、イカの形のタコは空中でひっくりかえりました。
ななめにおちて、木のえだにひっかかりました。
「あー……しっぱいしちゃった」
「ミキオくん、むりに糸をひっぱらないほうがいいよ。木の下までいって、ゆっくりと糸をゆるめるんだ」
ランコさんに言われて、ミキオくんは木の下にいきました。
木に近づくと、ミキオくんの足の下でさくさくという音がでています。
芝生が霜柱でもち上がっているようです。
「あ、このへんは霜柱がいっぱいあるんだ。あたしもふんでみよう」
「レミもやるー」
ソヨカちゃんもレミちゃんも霜柱をふみました。そこに足をのせると、さくさくと音がしてしずみこみます。
その間にミキオくんは木のえだからタコを外して、ランコさんに声をかけました。
「ランコちゃん、霜柱ってへんだよね。霜って草の上にできるのに、なんで下の方でつみあがるんだろう?」
「ミキオくん。霜と霜柱はちがうものだよ。霜っていうのは、空気の中の水が氷のこなになって、つもったものなんだ」
「え? 霜柱も水がこおったものだよね」
「霜柱は、土の中の水分がこおったものだよ。土の表面で小さな氷のつぶができて、その下にしみ出た水がまたこおって、だんだん氷の柱ができてくるんだ」
「へー、そうなんだ。早めにふんでおかないと、ここの霜柱もすぐにとけちゃいそうだね」
ミキオくんは、のこった霜柱をふんでいきました。
「そういえば、ランコさん。このあいだ、おもしろいタコを作ったって言ってたよね。レミちゃんがもっているやつ?」
ソヨカちゃんがきくと、レミちゃんはビニールのタコをもち上げました。
「これ?」
「いや、レミちゃんにあげたやつのほかにも作ってたんだ。ちょっとまってね」
ランコさんは近くのベンチにおいた大きな手さげぶくろからタコをとり出しました。
そのタコはすこし変わった形をしています。
ミキオくんがびっくりしたように言いました。
「へぇー。船の形なんだ。それでほんとにあげられるの?」
「たぶんね。はじめて作ったから、ちゃんとあげられるかがわからないんだ。ミキオくん、ためしてみる?」
「うんっ。やってみたい!」
ランコさんは糸のはしをミキオくんにもたせて、船のタコをソヨカちゃんにわたしました。
「それっ!」
ソヨカちゃんのかけ声で、ミキオくんは走り出しました。