夢幻オブリヴィオン
眠れぬ森の美女。
見た目には、何の変化も無い。
しかし、〝それ〟は既に装備されている。
「あーー、増加。層異う異も亜るか」
ちょっと淡白な反応。
……なんかしくじる予感。
「もう少し驚いた反応をしてくれても罰は当たらないだろ?」
「なーら、遣るだけ遣って看たら? 病者は都バス言を煤める依」
「その減らず口がいつまで持つかなぁ!?」
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その数分後。
どかっ、と地面に背中から打ち付けられて僕はマゾヒズムに目覚め……ない!
しかし、痛ってえなあ……。
まるで敵わなかったと言うか、通用しなかった。
当たってすらいないし、この間の小間の事を考えると、致命傷を負わせるというのは、途方も無い任務に思える。
「法ー螺、滑て夢忌み」
「……何だよ、それは」
助言に従って素直に描写を飛ばして見たが、正解だったかもしれない。
「墓ー場傾いで症? 気味のこ憂げ騎馬飢餓内ん頼?」
偉そうに、得意げに話している間(しかし能力をバラす真似はしない)、僕は隙を窺い、見た目には分からない程度に口内を動かした。
「……!」
口から複数、剃刀の刃を吹き出す。
いつか話したかもしれない技、〝銜〟……と、名付けたが結局の所は含み針の発展なので、あくまで小技の一つだ。まあそんな小技でも、悪足掻きぐらいは出来るだろう。
さて、この攻撃の利点は、始点が読めないという一点に尽きるのだが、
「汚ー棚いなぁ。堕疫が吐いたら初る菅黴っちゃう邪ん」
やはり悪足掻きでしか無いのか、予め分かっていたようにかわされてしまう。
……何だろう、この無力感。
「行動が……読めるのか?」
「嫉ーって炒るんだよ。魅た殻」
阿木本は、当然のように言った。
一体何を見たんだと、問いかけるまでもなく言葉が帰ってくる……というのは変な表現だろうか。
「裏ーら疚しいよね。喪って膿まれた塞悩に目汲まれてるって」
その字面だと何だか僕が不幸みたいだ。
そして、阿木本はさっきの反撃を警戒して鳩尾を踏んづけて僕の動きを押さえつけながらも、目をつむって片手で顔を一部だけ隠して何やら考え事をしているようだった。
勿論その間も僕は身じろぎして拘束を逃れようと悪戦苦闘するのだけど、いかんせん武術の心得の無い僕ではそれは無理な相談だというもんだ。
しかしもう一つ、僕にはできる事があったはずなのに何故だかこの時に限ってはそれを実行する事に、どうしても思い至らなかったのだった。
判断力が、暗に明らかに、都合の悪いように鈍っていた。
「くそっ……どけよ!」
返事は、阿木本の方からは聞こえなかった。
代わりに、もっと拙い状況に発展……衰退した。
……流石にそろそろオリジナリティを発揮した方が良いのか? パロディは程々にするか?
……ゴホン。
さて、拙い状況になったという事だが、簡単に言えば敵の増援だ。
そしておそらく、味方はやられたかもしれない。
「おいおい、どけよだと? 何を言っているんだ。退いて欲しいのならまずは自分が退くべきなのは人間にあらざる者としては常識なのは知らないだろう? だが確実に〝〟だろうがな」
もう一つの通じないモノ、吉田桔梗が会った時より血色を悪くして現れた……って。
「何でこの場面で登場しておいて死にかけてるんだよ!」
口は回ってるのに血は回っていないとか、シャレにならねえ!
おまえはクールな敵キャラじゃないのか!?
「異な事を言うな。主人公の前に現れて無事に済む敵役などという惨めでそれはそれで因果応報な形式しか用意されていないものを引き受けるのは、単なる愚か者だろう。しかしそんなものはほぼ〝〟だろうがな」
「じゃあお前は、何のための敵役なんだよ?」
言葉の意味を汲んだ上で、尋ねる(当然、ふざけはふざけ、真面目は真面目だ)。
少し会話をすると分かってくるが、どうもこいつの話し方は天邪鬼で、しかも最後の方で言葉が削除されるという、かなりややこしいものだった。
この時、僕はもっと警戒すべきだったのかもしれない。
大変なものを、気付き逃していた。
「強いて弱めるならば、悪よりも正義の方が世界の為だろう。俺は正義の味方ではない。世界の味方だ。しかし将来〝〟んだけどな」
こいつがここに来てるとなると……あいつらは失敗したのか?
無礼を承知で表現すれば――存在が失敗の極みのような番鳥はともかく、生き様が失敗の極みのような荒井もこいつを止められなかった、っていうのか?
「そんな目で見るくらいならこんな目で見ろよ(嘲笑)。俺は唯の唯一の〝最終定理〟なんだぜ。忘れるなよ? ただ、それも永劫に〝〟なんだけどな」
そして、続ける。
「知らせない方がいい知らせだが、敢えなく知らせよう。お前はこの阿木本未遂により、全ての技を失った。結局〝〟だろうがな」
あの二つはまた別の機会に……。