曲解スタンダード
作者の私生活も急転直下。
このタイミングを逃すと今日中に投稿できなくなってしまいそうだったという緊急事態。
という訳でボケは無し。
いきなりで悪いんだけど、現在僕は見知らぬ人物二人に遭遇している。
向かって左、性別女。
一体何のつもりなのか、道端にも関わらず、一般的な大きさ、形の抱き枕に頬を押し付けながらこっちを見ている。
右、性別男。
ほぼ白いカッターシャツに白いネクタイ、大体白いスラックス、それらを覆う概ね白衣と言える物。さらには白髪。肌も日焼けしていない。さながら医者のような格好、と言うにも語弊がありそうだが、とりあえず、形は医者のそれだ。
まあ、ただ。
どくどくと。
ぴくぴくと。
ぼたぼたと。
どろどろと。
ぐさっと。
だらりと。
右手になにやら古めかしい本を持っている。
本と、既に赤黒い手が、真紅の液体にどんどん上書きされてゆく。
その源泉である五指の付け根にはそれぞれ、真っ直ぐに尖った針金……千本――ナルトで見たことあるやつだ――が一本どころではなく、複数刺さっていた。
まるで関節で千本を束ねているようで、さらにそれが本をも貫いているのを見てようやく僕は痛みを想像し、忌避を覚えるのだった。
「さーってっと。やーっと者語に登城できた所で盲し訳するつもりも薙いんだけどさーあ? 永ーい遠に寝むってーえ?」
……ヤバい。
ヤバいヤバいヤバい!
別に食べ物が美味しかった訳じゃない。
ただ本能で『関わってはいけない』のだと感じたのが思考に繋がっただけだ。
それと封陣が展開されるのは、同時だった。
ネガの風景とも違う、暗くて無機質な世界が白い輪郭を伴って訪れる。
そこに、二つの色が見える。
縹と、桔梗。
単純に濃淡で言えば、縹の方が淡い色をしている。
「えーい」
と、言い終わる前に。
さっきまで抱えられていた抱き枕が放物線を描かずにこちらに飛んできた。
それを僕は反射的に切り払おうとしたのだが、それは敵わなかった。
より正確を期すならば、切ることはできたが払うことはできなかった。
真正面からぬっと迫り来る寝具を片手で切った瞬間の手応えに、僕は目を見開いて驚いた。
……重い!
先んじた手の動きに巻き込まれるようにして頭部と胴体に二つの衝撃が突き抜ける。
「事ー故紹介がまだまだだったねー? 童はねー……あっ、違った。渡しはね、阿木本未遂。こーんな素晴らしい名前を漬けて苦れた漁師んは転したからあ鉈の手を患わせる琴は薙い空ね」
今すぐにでも逃げ出したい心境だった。
だけど、おそらくここで逃げても無駄なような、そんな気がする。
そして蛇足だが、これ以上無駄なルビは振らないと、読者のみんなにも覚悟して貰おう。
こんな奴の事、僕はこれ以上分かりたくないんだから。
「……ああ、俺もまだだったな。しかし、おそらくだろう。吉田桔梗だ、以前宜しからず。どうせ、ほとんどだろうけどな。俺の事なんてのはこの手ぐらいにどうでもいいから、忘れてしまえ。楽しく楽して生きたいのならな。まあ、貴様の場合は必ずなんだが」
だらだらと。
手をぶらぶら振って血を撒き散らす。
まともな心、ではない。
これが、強靭な精神なのか、判断はつかない。
痛みから遠ざかりたいという、人間の弱さが全く感じられない。
そもそも何物なのかすら分からないこいつらを強弱で語ってしまって良いのだろうか?
僕はいつの間にか意図せず騙っていないだろうか?
……どういう事だ、この共役不可能な存在は!
僕とこいつらは同じヒトなのか?
人なのか? 他人なのか?
赤の他人なのか? 真っ赤な他人なのか!?
分からない。
分からない分からない分からない。
分かんねえ!
出会ってすぐに分かってしまうことが、それが分からない!
僕とこいつらは決して分かり合えないと、どうして分かる!
諦めるな、諦めるな、諦めるな、諦めるな!
何か、糸口が、あるはずだ。
もしくは切り口が。
「あーれ? 生絵を炒っただけなのに、騙っちゃったよ?」
「確かに可笑しいな。こちらは礼儀に則って先に名乗ったと言うのに。ただ必然だ。なあ四手統那よ」
「……? ……、…………。………!? ……?!?!!??」
もはや僕は言語を放棄したと言ってもよかった。
それ以上は思考もできず、分からないなら一引いて切ればいいんだとか妙な論理の残滓に従って抱き枕をまずずたずたにしてそのまま隙だらけに阿木本に切りかかり――
「こー我鱈ぁ、祟いて名折せぇ、これ飲酒うぅ」
骨なんて軽く壊れるんじゃないかという鉄拳を、ほとんど自分から突っ込んで行った頭に貰った――んだっけ、か?
「やーっほー。置きたぁ?」
……あれ?
ここ、どこだ?
こいつ、誰だ?
僕は何をしていたんだ?
「まーっ坂ー。未遂ちゃんだよ? 多分。祟いただけで気後を倭刷れたなんて、さ見知い琴逝わないで? じーゃあ、鬼ごっこを使用よ。渡しが鬼で、あ鉈が鬼を対峙する桃太郎と鬼に転される民間人の独り散薬ねー」
『見知らぬ誰か』は、そんな事を言って、封陣の闇に溶け込んで消えた。
僕が前後関係を思い出したのは、それから十分な時間をかけてからだった。
まあ、時間があればそれだけど持て余すんですけどね。本当、鬱にすらなれないダメな作者でいけない。