蹴撃チェイサー
どーも『ちぇいさー』に蹴りの雰囲気が入ってるなあ、と思ったら、完っ璧にあのビリビリのせいでした。
さあ、みんなも自販機の前に立って「ちぇいさー!」だ!(法律よりも短パンを忘れずに! おっとその前にプリーツスカートか!?)
ともあれ、以降は特に問題なく、いわゆるデートは終わり、今は電車に乗って帰っている所。
まあ、あったことと言えば、『「あーん」して見せて下さいよぅ』『何でだよ。普通に――』『あーん』『朱夏サン!?』とか、別の場面では『統那っ、今!』『え、どれ?』『あららー、統那君音楽センスゼロゼロですね』『…………』といった普通の出来事ぐらいだ。ロマンチックっぽさなんてほとんど無かった。
そんなデート、だった訳だけど、番鳥の評価は「もうしばらく様子見しますので、その時は世呂氏九」だそうだ。
ずいぶん簡単なヨロシクだ。
まあとにかく、そんな評価を貰ったわけで今日の用事は済んだので、僕は二人に先に帰るように言って(普通は彼女を家に送るものでは、という反論もあったがそれはむしろ弱っちい僕が送って貰いたいぐらいだとガキらしく駄々をこねて叫ぶことで封じた)、今、ある人を追っている。
ストッキングと言われれば、それは誤解も良いところだと大声で否定するけど、ストーキングと言われればそれまでだ。
そんな犯罪者扱いされかねない行動を起こしてまで誰を追っているのかというと、その人がその筋の人だからだ。
「♪〜♪〜♪♪」
「…………」
荒井雲雀。
自称、探偵。
まあ、スキルはほとんど探偵に近いし、違いないんだろうけど。別に探偵じゃないからって僕に不都合も不利益もない。
それにしても軽快な足取りだ。
何か良いことでもあったのか? ていうか、どこに向かっているんだ?
「これで単に家に帰ってる途中とかだったら嫌だなあ……」
警察に見つからないことを祈るしかない。
と、信号待ちをしているところで荒井が誰かに話しかけられていた。
あれは……。
あれ?
うーむ。
アイツじゃん。
数時間前、ゲーセンで絡んできたアイツ。
どうやら遠目で判断する限り、ナンパしているようだった。なんてベタな。
荒井の反応はというと、バイバーイという感じに立ち去ろうとした――つまりフッたと言えるのだろうけど、信号が青になって歩き始めてもそいつがついてくるのであまりきっぱりと拒絶できているわけでもないようだ。
自然、僕の足もそれを追う。
荒井は無視することに決めたらしく、すたすたと逃げているが、男もなかなかしつこくそれを追いかけ続けている。
……これは、ひょっとするとマズい方向に傾く、のか?
そう思いながら追跡を続けている内に、ついに動きがあった。
肩をつかんだ。
振り切る。逃げる。
追いかける。
追いかける。怪鳥蹴り。
主語すら省略した最低限の言葉で表現すれば、こうなる。
……それに怪鳥蹴りっつーかただの跳び蹴りだし。
怒りの怪鳥蹴り。
「てっ、めえ……さっきの……!」
「いや、ただ奇遇にもこの周辺に住んでいて奇遇にも君と住んでいるところが近くて奇遇にもあの子との知り合いで奇遇にも現場を見かけただけの一般人ですが何か?」
「ただの一般人はあいさつ代わりに蹴って来ねえよ!」
「普通の常識人はそこまでしつこいナンパはしないな」
「見てやがったのか!?」
「年下は見守るものだろう?」
「手ぇ出してんじゃねえか!」
まさか、ここで足を出したとかいう小学生以下なレベルの発想はすまい(空気を読め、空気を)。
「とにかく、『彼女欲しいな〜ちょっと遊んで貰うだけでもいいからナンパすっか〜』という思考は止めて、さっさと帰れ」
「……ちっ。あーあ、命拾いしたな。さっきもう釘刺されちまったからってのと、飲みモンの代金で今日の所はカンベンしてやる。次に会った時、お前だけは絶対叩きのめす」
いかにもデカい中学生の言いそうな偉い言い方だ。
「不思議と君に負ける気は中々……ね」
「ハイハイ背伸びしてろ。じゃーなっ」
元気のいい捨て台詞を残してそいつは立ち去っていく。
うーん、不思議と言えば、不思議と『あいつら』とはあまり縁が無さそうだと思ったということを記しておくべきだろうか。
なんか、僕の知り合いの知り合い、ぐらいの関係な気がしてならないんだけど……。
「ありがとうございました四手さん。かっくいかったです」
距離を置いていた荒井が戻ってきていた。
「……何? その『かっくいかった』って」
「かっくいかったはかっくいかったですよ。変なこと言いましたか?」
「もしかして……格好良かった、とか?」
「そうです」
「何でそんなややこしいことを……」
「そっちの方が可愛いじゃないですか」
……完全に何かの制作者側の理由だぞ、それ。
「遠目で確実な判断は出来なかったんだけど、あれってナンパだったのか?」
「そうですね。『ヘイ彼女! 俺とお茶しない?』なんて話しかけてきていましたから間違いないですよ」
なんと!
「おまえが食い物で釣られないなんて……!」
「驚くところはそこですか!?」
そこしかないだろう。
ベタな台詞? なんだそりゃ。知らん。
そんなものに構っていられるほど暇じゃないんだ。
「しかし、私と四手さんってよく会いますね。……はっ、もしかしてこれが運命の赤い血塗られた糸!?」
妙に危険な修飾語が混じってる。
「何で僕とおまえが殺し愛する関係になってるんだ」
「あっ、『殺し合い』と『愛する』をかけているんですね! 面白いです」
「解説すんな! それにそれはあまり面白くないから!」
「そうなんですか?」と荒井は言う。「話を戻しますけど、十分に私は四手さんのことは好きですよ。もちろんライクの意味で、です」
「どこの話を戻せば僕のことをライクなのかディスライクなのかに戻るんだ……」
なんつーか、懐いているっていう点では、片那と近いタイプだよな。二人で一緒にいたら遊び出すんじゃないか?
と、片那について触れた時点で、ここでの話は次への展開を見せることになる。
『榊? 誰そいつ?』ってな感じで統那の記憶には残ってないですよ。
それと、何とかこの章は仕上がった……今日が休みで良かったね。
また明日。