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灰色のバックソード  作者: Hegira
第六連
76/95

木の実オブレイションズ

久々に真面目に考えた気がするけどひらがな使っちゃってる……まあいいや。

語感がよければ全てよし!

 さて、そんなこんなで僕達は電車に揺られて十数分、目的の場所に到着するに至った。

 手始めにゲーセンで遊ぶ、ということになり、手近な所にあったエアホッケーでまず勝負という運びに。

「さあ来い! 我が二刀流、見せてくれるわっ」

「おまえオンブズマンとか言ってなかったか……?」

「そのような些事はとっくに忘れました」

「あっそ……」

「ちぇいやぁー!」

 テンションが上がっているらしい番鳥は僕と朱夏の二人を相手取り、自分は両手に一つずつマレット(いや、マレットなんて単語、後から知ったんだけど)を持って戦うという選択を取り、奇声を上げてサーブを放つというある意味定番をやってくれた。

 風圧で宙に数ミリぐらい浮いているパックが丁度僕の正面に向かって来る。

 それを弾こうと少し前に力を向けると、

「うりゃっ」

 朱夏に邪魔された。

 …………。

 いや、味方だし、結局向こうへ返したのだから邪魔という言い方はないのかもしれないけど、あからさまに僕の出番が潰されたのは覆しようのない事実だ。

 その上返球は番鳥の二刀流にいとも容易(たやす)くあしらわれ、見事にこちらのゴールに吸い込まれた。

「うぇへへへへへへー」

 かなり不気味な笑い声で得点を喜んでいるが、果たして頭は浮世に留まっているのだろうか。

「油断した……!」

 僕はおまえに油断したよ。

 こちらに入れられたので、今度はこちらのサーブ。

「こぉぉぉぉ……」

「なんなの? そのヴェイダー郷みたいな呼吸音」

 朱夏が文句を付けてくるがこちらは無の境地だ。そんな雑音は脊髄反射でカットされた(聴覚って脊髄通ったっけ?)。

 無言で一閃。

「うおぅっ」

 抜刀をイメージしながらのバックハンドは思いの外鋭く決まり、あと少しで入りそうな所で番鳥に阻まれはしたものの、勢い余って空中に放り出されるほどの威力を持っていた。

 それは番鳥の横をくるくると飛び抜け、未だ放物線の落ち目が見えないところで、

「あだぁっ!?」

 人にぶつかった。

 本当だったら平均的な背の高さでは当たらない高さの所にそいつの顔があったもんだから、何とも不幸な事故だった。

 ぶつかった額をさすりもしないそいつの体つきはかなりケンカ向きで、肩を怒らせれば相当な効果が出そうだった。ただ、何となく中学生だろうというのは分かる、幼さの残った面立ちだった。

「何しやがる!」

 最初から喧嘩腰なのでどうやらこれは相当な手練(てだれ)だというのがよく分かる――少なくとも気質は。

「ゴメン。わざとじゃないんだ」

「わざとだったらぶっ殺してんぞ、おい」

 穏やかじゃないなあ。

 簡単にキレても不幸しか飛び込んでこないのに。

 よしよし、ここは僕が大人になろうじゃないか。

「じゃあ、お詫びに何かその辺の自販機のドリンク一本奢るよ」

 別にそのぐらいで痛む懐じゃない。

「まぁーそんぐらいで勘弁するかー……ん?」

 今気が付いたのか、駆け寄っていた僕の後ろに見える番鳥と朱夏を見ていた。

 まさか一目惚れとかいうありがちな展開にはならないだろうけど、そいつは三秒ぐらい呆然と二人を眺め、そして僕の方へ目線を戻した。

 その目は、確固たる敵意のこもったそれだった。

「てめぇ! 死ね!」

 いきなり殴りかかってきた。

「何でだよ!?」

 受けるわけにもいかないので僕は距離を取って避ける。

「モテる奴は死ね!」

(ひが)みかよ! ていうか誤解してるし!」 

「男の風上に置けない奴だ!」

(ねた)(そね)みも同じぐらい置けないけどな! おまえ何なんだよ!?」

「ハッハァ、さっきまでの丁寧な態度はどこ行ったぁ!? 年上か年下かわかんねえツラしてややこしいんだよ! それとも実は年上を装ってたってか――ぶへぇっ!?」

 なんだか挑発されてるっぽかったので一発殴ってみた。

 血を出しながら吹き飛ぶなんて野暮な描写は無くて、単純に彼が顔から弾き返されて尻餅を突いただけだ。

 ということでR-15じゃない、ハズ!

 ……ゴホン。

「な、なかなかいいモン持ってんじゃねぇか……いいぜ、俺もこっからは本気で――」

 立ち上がってファイティングポーズを取ろうとしたその時。

「何やってるの、莫迦」

 パシン、と後頭部を手の甲で(はた)かれ、そいつは振り向いた。

 そこには普通の女の子がいた。

 取り立てて特徴のない容姿、どうやら同年代の知り合いらしいそいつのケンカの仲裁に入る性格、ぱっと見でも普通で、どこかにいそうな印象を持たせる女子だった。

「うるせえ(しきみ)、邪魔すんな! つーか何でここにいんだよ!?」

「だからアンタは莫迦だって言ってるのよ、(さかき)。何が自分探しの旅よ。最近出来たゲーセンで喧嘩することが自分探しだとでも思ってるの? 何様のつもり? お客様のつもり?」

 パシパシパシ、と連続で自分より三角定規二つ分高い頭を叩き続けていた少女はやがてこちらを向いた。

「済みません。どうも弟が迷惑かけました。この莫迦には私からきつく言って置きますので、これで勘弁して下さい」

 言って、ぺこりと頭を下げた。

 後ろで「お前のが下だろ!」とか言っているのが気にならないぐらい礼儀正しかった。

「いやいや、こっちも全く悪くなかったとは言えないんで、さっきも言った手前、その額に物をぶつけた代わりにお茶か何か払わせて貰えますか?」

「そうですね。ではご厚意に甘えて有り難く……あれ? 多くないですか?」

「いえ、あなたの分もですよ。こうして迷惑かけてしまったので」

「そんな、気を使わなくても良いのに……じゃあこれで気分でも落ち着かせて貰いますね。有り難う御座います。ほら、榊も謝るの」

「ちっ、わーったよ。……ドーモスイマセンデシタ」

「済みません。意地は悪くないんですけど――底意地も悪くないんですよ? ただ礼儀がなってなくて……」

「いえいえ、気にしてませんよ」

「それでは、さようなら」

「はい、さようなら」

 ……という、日本人特有の回りくどい(その分思いやりを表現しているのだが)やりとりで気持ちよく始末をつけられたところで後ろを振り向くと。

「な、なぜに朱夏サンは金剛力士もビックリのオーラを放って構えておられるので……?」

 しかもにこやか。

 にこにこにこ。

 うん、スマイルは大事だよね!

「いやー、統那があんな風に気遣いが出来る人だとは今の今まで知らなかったな、私」

「私も初耳ですよー。あっ、言うなら初目ですね。それとも初見?」

「…………」

「ああいう風に奢られたら悪い気はしないだろうなぁ」

「そうですねぇ。あの時のジェントルマンなお方は何処(いずこ)に? 少なくともここには居なさそうですね」

 ……どうやら遠回しに僕の奢りを期待しているらしい。


 と言うわけで、少し早めの昼食を取ることになった。

梻。


『しきみ』って本当はこの『木』に『(ほとけ)』を使いたかったんだけど、例によってシフトジスさんに載ってないので断念しました(一応後書きの一番最初に置いてみたけど、正しく表示されるのかなあ……?)


という機械オンチの悩みでした。


また明日。

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