逢引スタート
うーん、タイトル通りなのだろうか?
やっぱり違う気がする。
で、ようやく訪れた――とはいえ待ちに待ってた、というわけではないんだけど――当日。
何の日かって?
お客さん、カマトトぶっちゃあ、いけませんねえ。
めっちゃ気まずい日ですよ。
そのためにお互い話題を避けてきたってのに、家を出てすぐの道路で遭遇してる辺りがもう、気まずい。
「…………」
「…………」
なんだ、二人ともこの日を待ちに待ってたのかー、みたいな。
そんな1パーセントも無いような可能性を考えさせてはいけないよなあ……。
朱夏は女子高生らしい軽やかな服装で、僕は長ズボンと半袖の上にベストを羽織っている。
ちなみに夏場でも長ズボンをはいている男子はほぼ脛毛が濃いハズだ。僕が言うんだから間違いない。
「…………」
「…………おはよう、いい天気」
「そう、お天道様に挨拶したの。いいなあお天道様。私もお天道様になろうかな」
「いやいやいやいや! ごめん! あまりの雰囲気に言葉を全て言い切れなかったんだって! これはもう僕の一生の不覚と言っていいぐらいだね! うん!」
初手で明らかに出遅れた。
……ん? これじゃあ僕、彼女に振り回されるダメダメ彼氏みたいじゃないか?
「改めて……おはよう、朱夏」
「うん」
そ、それだけか……。
まあ、気持ちが分からなくてもそうする道理は分かるけど。
なんか、恐妻家の片鱗が齢一七にして見え隠れしてるんじゃないか?
大丈夫だろうか、僕。いや、大丈夫じゃないよな……。
****
……おお、場面が飛んだ。
特に異変が起こったわけでもないからそれでも支障無いけど。
えっと、そんな訳で僕達は地元最寄りの駅から、少し遠出をしてみようかという計画のもと、壁の路線図を見ていた。
「二人で黒町に行きたいって言ったから黒町でいいんじゃないのかよ」
「そーだそーだ」
……おかしいな。さっきまでこんなキャラじゃなかったはずなんだけど。
「いえ、全然ダメダメです。むしろ全然メメメメです」
「メメメメなんて名詞知らねえよ」
……おかしいな。何でこいつこんなところにいるんだろう。
「では全然ダダダダ」
「最初のバランスはどうした」
「然全メダダダダ全ダダメ然全メ然メメメ」
「バグかと思うわコラ!」
早口で読むとどことなく太鼓の達人っぽく聞こえた。
言うまでもなくY.T.氏である。
まあ、発起人だから居てもおかしくないんだけど。
「話が逸れました」
「確信犯だろ、てめえ」
「やはり御把ですよ。間抜けな響きがお二人にぴったり」
「死んでしまえ」
「常談ですよぅ。あっちに最近新しいデパート……だっけ? が出来たんです。カップルならばそんな所でいちゃつくのが冗識!」
「突っ込む気力が失せる意見だな……」
正しくは常識。いわずもがな。
ちなみに冗識という字をそれぞれ解釈すると『ムダ知識』になる。
……どうせ紛らわしいから流行んないだろうけど。
「そして観察人として、私ツヴァイ鳥優子が憑いていきますの」
「上手く自分の名前をドイツ語に当てるな。それと変換ミスをやめろ」
あえてお嬢様口調には触れない。
どうせ後先考えていない設定だ。
「ではドライ鳥でどうでしょうか」
「数を増やすな」
「最終進化形は千鳥です」
「いつから漢数字に戻った」
「はい? 変なこと言いますね。日本人の名前にカタカナが入るわけないじゃないですか。あれですか? 純日本人の息子に『ジョン』って名付ける親ですか?」
「ツヴァイ鳥がそんなことを言うとは思わなかった」
「それよりいいんですか? 彼女を放っておいて」
見れば、なにやらジリジリと、焦れ焦れと、焦げ付くような(言うまでもなく焦点は僕だ)視線をひたすら僕にぶつけ続けている朱夏が廿メートルぐらい離れていた。
……いやいや、一画違うだけだけど『甘い』なんかとは懸け離れてるし!
目からレーザー……?
「ひゅーひゅー。熱視線向けられてますよー統那君」
こんな態度を見ていると僕はこいつが死神のような振る舞いを見せることを忘れそうになる。
危ない危ない。
それから朱夏を呼び戻して、番鳥を含む僕ら三人は電車に乗り込んで御把市へと向かっていったのだった。
零れ話一丁。
一応、『~市』の名付けに由来はあります。意味は無いですが。
そして、ストックが底を突きそう。でも頑張る。だって夏休み。
また明日。