公園ペナルティ
「負けた奴は罰ゲームな」と言う人はお笑い芸人に向いているんじゃないだろうか。
少なくとも政治家にはなれないだろうなあ。
そんな事を言っても結局、戯言なんだけど。
夏休みのまた別の日。
まあ、前回から一日たりともズレちゃいないんだけど。
「ねえねえ? どこに? 行くの? ねえ?」
「だから、そんなに目をキラキラさせても僕に行き先のアテはないんだ」
一体何回このやりとりをすればいいんだ。と何回思っただろうか。
下手に家に帰る訳にもいかず(こんなやつに住所を突き止められたくない)、僕は更にワンダリングを続けていた。
この状況……本当にどうすればいいんだ……!?
「僕の年齢で誘拐犯に間違われることはまずないだろうけど……」
「? いま何か言ったの?」
「いつまでついてくるつもりなのかなー、と言ったんだけどなあ……」
「うん! 一生懸命がんばる!」
全然全く会話通じてないし。
……改めて思うけど、何なんだこの人懐っこい子犬(番鳥とは印象が大違いだ)のようなやつは。
それに、さすがにこの見た目(中三か高一)で『親御さんは?』とか聞けないよなあ……。種島じゃないんだから尚更。
公園で未だ駆け回っている子供を見ながらそんなことを思っていると……ん?
…………。
えーと、何なんだろうな、アレ。
「きゃー! やーめーてー!」
普段の雰囲気とは似つかわしくない足の速さで逃げているのは小振りなリュックを背負っている川井窓枠。両手で大事そうに、そして必死に抱えている風船が相変わらず印象的だった。トレードマークと言っていいかもしれない。
「さあさあさあさあさあさあ! ルールは絶対だぜ! 早くその風船を割らせろぅい!」
普段の雰囲気というものが存在しないが故に普段通りとしか言い様がない変人……いや、変人……間違えた、変人……もとい、変人の不知火筑紫。もっとも今は変人より変態よりな感じと言えそうだ。何のひねりもなく、怪人のように両手を広げて小学校低学年に襲いかかっていた。
「それだけはやめてー!」
「靴飛ばしに負けた分際で言い逃れ泣き落としなど通用しない! それが社会! それがカンパニー!」
「カンパニーは会社だと思うー来ないでー!」
……おお、逃げ突っ込み。
ていうか、筑紫にとっての社会は靴飛ばしにシビアな社会のことなのか……嫌だよ、そんなソサイエティ。
「ふふふ……あたしはまだ本気を出していないのだ、川井窓枠……!」
アニメ風に表現すれば目尻に涙をためた状態で逃げている窓枠ちゃん(確か呼称はちゃん付けだった気がする)に大人げなく迫る筑紫はさらに言葉で追いつめようとしていた。
朱夏といい番鳥といい、僕も含めた周りにはガキが多すぎる気が……。
嗚呼、打葉、帰ってきてくれ!
……ゴホン。
話を戻す。
筑紫は必殺技のように叫ぶ。
「三倍迦束!」
「しんにょうが移動してる!」
僕はカウンターで突っ込んだ。というか突っ込んでしまった。
「おりょ、デトックスだ」
走りながらどうやら僕に気づき、どうやら僕の名前のような単語を言った。
「僕は解毒作用と訳されるような単語じゃない! 僕の名前は四手統那だ!」
「あ、統那君、助けてー!」
そんなやりとりより何よりも窓枠ちゃんが僕を呼んでいる!
大事なことだけど二度は言わない!
「今すぐにでも!」
自称よい子の味方・四手統那は窓枠ちゃんと筑紫の間に割って入り、両手でバーン、と筑紫の肩を弾き飛ばした。
……フッ、キマったぜ(悪い意味での格好付け)。
筑紫はわっとっと……と歌舞伎っぽく片足を浮かせながら後ろに三回ほど跳ねた。
「うぇい! 何をする口手統那」
「二画減らすな!」
くちでとうな。
「では……何をするロ手統那」
「力タ力ナにするな!」
ろでとうな。
そして、
「ボケ突っ込みならぬ突っ込みボケだと!?」
二つ前の台詞は『ちからたちからなにするな』と書いてある。
「うん、これは僕の癖かもしれない」
「変人だな!」
「お前にだけは言われたくない!」
「恋人だな!」
「…………」
……なんだ、このベタな流れ。らしくないぞ、筑紫。
「うぇい、間違えた。愛人だな!」
「だろうと思ったよ!」
いや、愛人は愛人で問題発言だけど。
というか、それじゃあまるで僕が不倫しているかのような語弊がある。
語弊……。
……やば、疲弊が蘇ってくる気分……。
番鳥ショックだ。
「アイジンって何?」
カタカナにすると点眼薬みたいだ。
「窓枠ちゃんは知らなくていいことだ!」
僕と筑紫は知ってて悪い。
「さて、嫗は何で我らが罰☆ゲームの邪魔をする
のだという論点に戻ろう」
「僕が申し立てたい異議は『T』を抜いて老婆扱いされたことと靴飛ばしごときが闇のゲームと同等になっていること、最後にそんな話題は初めて出てきただろうということの以上三つだ!」
本当はそんなにボケを詰め込むなとも言いたいけどこれぐらいなら僕のキャパに収まっている。
「今日は調子が良いみたいだな、トナー」
「もうそれは僕のあだ名って事でいいけど……まあ何で僕がここにいるのかって言うとここにいる――」
と僕の後ろの気配を探ったけど、窓枠ちゃん以外に誰もいなかった。
……あれ?
「いや、とーなんがどこで何をしようとあたしは構わないけど」
「なんてことだ!」
冗談とは言え複雑な気持ちだ。
それにしても……どこに行ったんだ?
未だに筑紫に怯えている窓枠ちゃんをなだめながら、そんなことを思った。
やっぱり不知火さん書きやすいよ。細かいこと考えなくて済むし。
また明日。