終章ロープブリッジ
ロープ……荷造り囲いにテントや登山、戦闘から自殺まで何でもござれのSM道具のことですか(後半は実体験に基づかない)。
そんな命のクライシスがあった次の日。の朝。
僕は桐那片那に起こされる前に目覚め、残念がられながら(夜這いではなく朝這いのようだ)登校時間までのんびりと過ごした後に家を出て、いつものように朱夏を待って一緒に登校していた。
ここ数ヶ月の経験からして、どうやら朝は僕の方が強いらしい。
「そういえば昨日、遅れて登場してたけど……何してたんだ?」
「どこにいるのか分からなかったから、捜すのに苦労して」
「ふーん、ああ、だからあの崩落でようやく分かったのか」
「……そうだね」
朱夏は両手を伸ばして、欠伸をした。
そして目下僕の一番の焦点(つまり、焦った点)だったずたずたぼろぼろになった制服は、幸運にも(?)筑紫が修繕してくれた。正直、総合的な評価としては母に劣るけど、バレない程度には仕上がり(しかも放課後の時間だけで)、文句など全く出なかった。そしてそれを見たとき、驚いて何も言えなかった。驚嘆に値するってやつだろうか。
「まあ、一件落着、終わったことは済んだことだし、これ以上整理する必要もないか――」
おそらく今回の中で一番の一安心をすると、
「酷いですねー。まだまだ完了形にするには早すぎますよ統那君」
後ろから声がして、腕が鎌のように僕の首に絡まってきた。
絞まる絞まる。
「……何で、ここに――」
「ええ~知らないんですか統那君、今はユビキタスの時代ですよ。つまり私はどこにでもいるんです」
「そんな時代は今も昔も未来も来ない」
僕より先輩のはずの、番鳥がそんな口調で密着してきた。
さすがに気道の確保だけは許してくれたが、纏わられたままの状態は個人的に良くない。
「それよりどうですかこの一体感。胸とか当たっちゃってますよ」
「実はこの制服改造されてて、『背筋矯正ぷろぐらむ』とかなんとかいうコンセプトの下で鉄板が埋められているんだ」
わあ、僕ってクール。
こんなくだらない言い訳を思いつくなんて。
「なるほど! 道理で鋼のような肉体だと思った!」
いや、嘘だけど。
というか、鋼のような肉体と言われても……僕は錬金術師じゃないし(論点が違うなあ)。
「……はっ!? 騙されませんよ統那君。君の背は猫背でも何でもないじゃないですか。そんな矯正聞いたことないですよ」
「ところでなんでそんなに丁寧な喋り方になったんだ?」
くるくるくる~、とラジコンみたいに番鳥に回される……僕。
どうなってんだ?
「それはですねー、伊織ちゃんです」
「伊織?」
『誰だ?』ととりあえずとぼける僕。
「知ってる人だけ知っていればいいのでそれ以上は言いませんよ人識君」
「決定的なことを!」
あれを模倣するのか……さすがにこっちの両手は健在だけど。
「さあ本題へ移りましょう人識君」
「僕の名前は四手統那だ! いい加減にしろ!」
「私、統那君に惚れました。吊り橋効果ですけど」
「……――っておい! それってつまり惚れてねえってことだろ!?」
なんだ!?
一瞬思考が止まった!
「いやいや分かりませんよ統那君。もう既に体を密着させることに抵抗はないみたいです」
とても受験を控えた高校三年生の行動とは思えない。
「おまえに恥じらいはないのか!?」
「無恥の恥、と言いますし」
「字が全然違うし意味が分かんねえ!」
無知の知、だろう。正解は。
自分がいかにものを知らないかを知るという概念をそんな低俗なものに……。
「では鞭の血、ですか」
「何もっともらしく恐いこと言ってんだよ!」
一気にバイオレンスな哲学になった!
「もしかして、正解はムチウチですか?」
「さらに遠ざかった!」
「ムチムチ」
「ばいーん!」
もはや突っ込みですらなかった。
僕はこんな奴に苦手意識を持っていたのか……?
なんだか過去と現在においてやりきれない思いに駆られる。
「ふ~ん? なんだか私のいない間に面白い展開があったみたいだね、と~う~な~?」
あ、朱夏サン!
「――はっ!? 朱夏サン今までどこで傍観してたんだ見ていたんなら早く助けて僕は何か怖い者に取り憑かれて大変なことに――」
「怖いだなんて心外ですね統那君。むしろ喩えるならば私は神妙なる守護霊ですよ、守護霊。エクスペクト・パトローナムと唱えてくれればいつでも駆けつけます」
「生憎僕は吸魂鬼に襲われたことはないから絶対に呼ばないけどな!」
あれは確か、魔法使いじゃないと見えないんだったか。
「……っ、いい加減にするのは統那の方じゃない……!?」
「……(ごくっ)」
と、僕が思わず生唾を飲むぐらい、今の朱夏には静かなる殺気がこもっていた。
……えー、と、これは、僕のせいなの、か?
「ごめんなんだか知らないけどごめん僕が悪いのか番鳥が悪いのか分からないけどごめんもしかしたら朱夏はいま全人類の怒りを背負ってるのかもしれないけどごめん!」
やられる前に、謝る。
僕にだって学習能力はあるのだ。
「謝るっていうことは、責任を取るって事?」
「……え? えーと、多分、そうなるんじゃあ、ないかと、思われまし――」
「あーもーうっとおしい!」
「ひいぃ!」
――、
…………、あれ?
「朱夏サン、何故に手をつないでおられるので?」
折角殴られやすいようにヘタレキャラを演じたのに。
「…………うぅ」
「……もしもー……し亀よ、亀さんよ――」
「う、うううるさいっ! よし決めた! 引っ張る!」
童謡(動揺)モード。
びんっ、と腕にいきなり張力がかかった。
そして僕はアスファルトの地面の上を引き摺られて――
「痛い痛い! なんていうかこの道でカーリングしても勝負にならなさそうなぐらい摩擦力あんのになんてことを――痛ってえ!? 石ころが尖ってた――ってぅおお!? ちょっと待って服破けたかもしれない!」
「途中下車無効!」
「素晴らしく応用の利かない人力車だ! ああ! バッグが落ちた! ……そうだ! こんな時こそ助けてくれ番鳥!」
「甘いですねー統那君。ここで助けてもときめきはやって来ませんよ?」
「来る来る! めっちゃ感謝する!」
「本当ですか~?」
と言いつつその面白がっている眼差しはもしかしてあなたドサディスト!? と思わずにはいられなかった。
「本当本当! バナナにずっこけたけど尻餅ついている間に少し前に落とし穴があった事に気付けた時ぐらいに感謝する!」
まあ、僕は僕で適当に言っているだけなんだけど。
「え~、なんか微妙ですね~。朱夏ちゃんはどうします?」
「とりあえず、学校に着く頃には、棺桶状態にしようかなと」
「ザオリクは!?」
「その後でメガザルをやってくれるなら唱えてあげる」
「確実に死んだ!」
復活して自殺!
この上なく無駄だ。
メガンテすらさせて貰えない。
ざっ、ざっ、ざっ、と一マスずつ歩むのは僕にとってはまるで毒沼を歩いているような心地だった。そう、まるでカバディ、カバディ、カバディ、カバディ……違う。
どうやら僕はインドを勘違いしている。
「そうだ! ではこうしましょう」
今度は何を血迷っているのか(絶対こいつは常に何かに血迷っている)、言うなり番鳥は両足を掴み、僕を宙ぶらりんの状態にした。
「………………」
ここまで来るともう、羞恥心とかそんな言葉で心境を言い表すのはあまりにもキツいが、あえて言えば、僕の男子高校生としての尊厳はここですっかりゼロになった。
「さあ今日も一日元気に行きましょう!」(番鳥)
「…………」(朱夏)
「……もう、帰りたい」(僕)
そうして僕はきっとおそらく史上初の女子に運ばれての登校をしたのだった。
****
…Progress Report.
“Backsword”is continued.
“Flame-Soul”has survived.
“??????”would be animate.
“Deeper-Leaper-Reaper”ran off the rails.
《If“Irony of fate”is true,can you play with your fate?》is the end.
いやはやなんというキャラクターを作り出してしまったのだろうか。書きやすいけど使いづらい。普通の狂っているってこんなもんなのか……? いや、そもそも狂っているということに正解はないんであろうということは感じているのですが、同じく狂っている印象がある不知火とはやはり狂い方のベクトルが違っているようで、いないような……まあ、その内折り合いが付くでしょう。きっと。
さて第五章ということですが、なんと大学とバイトが忙しくて連続更新(中一ヶ月)が上手く行かないのでは? という作者の危機感に呼応するかのように彗星の如く登場した昨日……ああいや、機能! その名も予約掲載! マーベラスをあなたの周りにはべらせます(駄洒落が気持ち悪い)。めっちゃ助かる。
特に……
6:00 起床。メシ。
7:00 学校。メシ。
17:00 帰宅。メシ。
18:00 バイト。
23:00 再び帰宅。
という日に役に立ちました(日付変更直後に投稿する手も無くはないけど……)。
まあ、そんな中で書き上げているのでおかしい所も多々ありますが、無事に済みました。
ところでアクセス数が先月より倍になっていますね。4万。
四万十川……もとい、四万十三を超えてますね(この思いつきは何でしょうね)。
さて、来月は試験期間とまるかぶり。
予約掲載、また君のお世話になるよ。
というわけでまた来月。