確率エスタブリッシュ
なんで、『ひきいる』と『たつ』を間違えるのか、と。
なんだか知らないが(知ってるけど)、沖を相手しないといけなくなった。
そのためにも、まずは(若干頭がふやけた)番鳥。
「番鳥……悪いが僕に任せろ」
「何で何故何ふーあーゆー?」
「あいつの敵じゃないからだ」
僕は間断なく断じた。
そして、沖に話しかける。
「というわけでいいか? 僕とお前の一対一で」
「私に文句はあるはずもない……それより普通……そう言う時は恰好良くサシとか言うものじゃないかしら……?」
「僕の流儀じゃないんだよ。『刺し』に通じるから」
僕は切るんだ。
刺しでも、ましてや斬るでもない。
「そういうものかしら……」
「いやいや待ってよ。ここに存在したる私はどうすればいいのでしょうか? この高ぶる士気ならぬ死気はどうすればいいんですかね? あとで君にぶつければいいんですか四手統那君」
ぶつけられたら確実に死ぬような気がする。
「溜め込んどけ。その分だけ他人が幸せになれる」
「身勝手なこと言いますね~。いいですけど」言っちゃってなんだが、いいのかよ。「ほんじゃーちゃちゃっと乳繰り合ってきなさいな~。私はここでゆったりたっぷりのーんびり見させていただきますよーっと」
本当、投げやりだな……させていただきますを万能だと思っているあたり。
これも『解放』の副作用、か?
……はあ。
「さて、死なない証明の時間だ。命題の準備はいいか」
「命題も何も……最初から命題は決まっている……」
「あはは、かっこわるいですね~はははあああああああああああっ! ごほっごほっ!」
「無理な笑い方をしてむせてんじゃねえ! そもそも笑うな!」
「失礼しました」
あーあ、締まらない。
まあ、どうせこれが僕だ。
『まったく、だらしないわね……よく今まで生きてこられたと呆れかえるばかりね』
うるせえ。
頭の中ですら罵倒される始末かよ。
今まで以上に使ってやる。
「〝村雨・凍〟――」
右手の意識を発散させ、放射。
刀の造形を、放棄する。
「――〝刃走〟」
右手から人の全力疾走世界記録ぐらいの勢いで薄氷が生え、樹氷を連想させるように広がり、沖に襲いかかる。
僕の視界が、巨大な氷の枝分かれで埋め尽くされる。
コンクリートに、氷の切れ込みが無数に走る。
「ひゅーひゅー。かっこいー♪ だけど私ならそんな攻撃生きられる、かもしれない!」
ギャラリーうぜえ。お前はエクスカリバーか。
さて、話の流れの都合上かどうか知らないけど、沖はやはり、生きていた。
「○ルキーはママの味……他人の不幸は密の味……」
「何故その二つを並列する!」
やってはならないことをこいつは!
「もったいない……」
「もう意味が分かんねえよおまえ!」
折角の戦闘ムードだったのに、ここに来てさらにコメディーを入れるか!
周りの空気も物理的に冷えてきて、床には既に霜がついていた。
「ほらほらー、次の新技いかないなら私が殺しますよ統那君?」
「おまえは空気を読まねえと人気キャラ投票で殺されるぞ!」
「え……ホントに?」
「天地神明に誓って――」
――嘘だと言える(心、の声)。
人気投票なんてここでやるだけむなしいだけだ。
「やばいね……お口にチャックしないと……チャパパ」
「うるせえ! しかもその笑い方は既に使われてるんだよ!」
有名な漫画で、お口にチャックが付いているやつが。
「痴話喧嘩は終わり……?」
僕達の台詞について鼻持ちならない台詞を宣いながら、沖はざり、ざりともう延びることのない砕けた氷と霜を踏み砕いてこちらに接近する。
「痴話喧嘩してねえよ。僕は」
「いやですねー統那君、まるで私がチワワ喧嘩しているみたいじゃないですか」
「なんだそのカワイイ戦い!?」
ちくしょう、突っ込んじまう!
話の腰をへし折り過ぎだ!
ここまでくると序章で語った内容を改めた方がいいんじゃねえのかとすら思えてくる。
「統那君、チワワを舐めてないですか? 咬まれると痛いよ? きっと」
「せめて言い方に説得力を持たせろ!」
「よくよく考えれば咬まれても痛くない犬なんて豆柴ぐらいですよね」
「嘘をつけ!」
「私は正直物!」
「二重の意味で嘘つきだな!」
私はしょうじきもの(嘘つきの反対)。
私は正直、物である(者ではなく)。
「嘘をつけって言ったのは統那君じゃないですか。なかなかの非道ですよ。その行為」
「僕は命令形の文のつもりで言ってねえ!」
「分かってるよそんなこと」
「分かってるついでに邪魔してくんのをやめろ!」
「むー、仕方ないですね」
番鳥はようやく止めてくれた。
「ああ……台無しだ」
僕は形無しだけど。
「そろそろ……私の攻撃ね……」
「…………」
沖の首が前に倒れていて、表情が見えない。
よし……四手統那、油断だけは……するなよ。
結局のところ、こいつは今まで能力を発揮していない。
攻撃は全て失敗し、それどころかダメージが蓄積されていった。
「ところで……私の攻撃が何なのか……気付いている……?」
「いや、知らねえし……って、気付いて……?」
……待てよ。
嫌な予感が、する。
周りのコンクリートに、
ピシピシと、亀裂が走る。
このタイミングで。
まさか、そんなことがあるのか。
「おまえ……そんな、証明の出来ないことを」
ふざけてやがる。
自分でふっかけた問題を自分が解けねえなんて。
「私の行動は……全部偶然で片付けられてしまう……」
「あるのか……そんなことが」
胴体をぐらん、としならせて、首を後ろに持っていった。
「逆よ……そんなことしか……人生には無い……」
断続したひび割れの音が終わり、一気に崩壊する。
真上から、天井が、落ちてきた。
まあ、こんな能力でも大した驚きなんてあるまい(という、自虐)。
はてさて、また明日。