凶弾ディスチャージ
一応、今回の英語には二つの意味が含まれている。はず。
学校の廊下。
「死なない理由の解明……って具体的にはどうするんだ?」
「方法はどうでもいい……時間は有限だけど……私が納得できればそれでいい……」
首を横に傾げ――むしろ折って、沖は淡々と、つらつらと。
納得って、こっちは説得しなきゃいけないのかよ。
…………。
そもそも、死なないことの証明って、それ自体が破綻した命題だよな……。全ての生物に対してそれを調べると、下手を打てば全滅しかねない。
だから、
「悪い」
僕は沖を殺しにかかった。
足は、我慢できない痛みじゃないぐらいには治っていた。
もう少しで手が届く、と言うときに――
「殺害は最大の攻撃……」
ふらり、と僕の切りかかりは脱力状態でかわされた。
「防御は最高の攻撃……」
後ろから足で払われ、再び僕は転んだ。
「しかし何より強いのは……いいや……これは黙っとこうかしら……それと……軽々に悪いと言わないで欲しいわね……」
銃の重く、くるくると回る金属の音が聞こえ、僕はとっさに身をよじろうと動いたが、左肩を弾丸が貫いたのが先だった。
「ぐうっ……」
「一般に物語では剣が銃に勝つのが盛り上がるみたいだけど……これは圧倒的に銃と射手のスペックよりも剣士のスペックの方が高くないといけない……つまり多くの場合……銃の使い手が剣士に比して強いときは確率的に剣士の負けが濃厚ということで……つまり君如きには私は殺せない……それよりも何で創作では銃使いは剣士以上の身体能力を得られないのかというところに私の興味は津々(しんしん)なんだけど……」
下手をすると黙々と、と表現していまいそうな口調で語る沖だが、撃たれた僕は、そんなことを聞いている場合じゃない。
血と一緒に、辛さを顔に滲ませながら今日何種類目かわからない痛みを耐える。
「私の弾丸は〝博徒〟の特別製……さあ……どうなるかな……」
「……てめえ、何しやがった……!」
僕の体に空いた銃創が焦げ付くように熱い。
それとは別に、悪寒が背筋をなでる。
今までのダメージが骨と筋肉、足、背中、左肩にのしかかる。鈍痛、激痛、疲弊が僕の意識を持っていこうとするのを何とか堪えるので精一杯だった。
この場での力関係上、なす術も無く、時間の経過を待つことしかできないのが歯がゆい。
「……そっちは外れみたいね……」
『激しい静寂』の後、言われたのはそんな一言だった。
だけど、僕が気にしていたのはそっちではなかった。
「……………………、………………」
「番鳥……おまえ」
そいつは撃たれて尚、立ち上がった。深紅の中に、さらに深紅を滲ませながら。
「大丈夫、なのか……?」
番鳥は、に~んまりと笑った。
「ん~ふふ~♪ ぜ~んぜん、まぁ~ったく、心配も心配りもいらないですよ~統那君?」
「大丈夫じゃねえ、よな……」
僕が割りと真面目じゃない方の違和感を感じたのもつかの間。
ぬっと、まさしく幽鬼の動きで僕に迫ったかと思うと、そのまま僕の首を真正面から絞め上げにかかった。
「ぐっ……っ!」
「……………………好き好き好き好きうきうき好き好き好き好き好き好きずきずき好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き………………」
「こっちは……当たりなのかな……」
呼吸が、出来ない。
血が、回らない。
「『解放』ね……人の狂気というのは恐いわね……」
……どういうことだ?
僕を巻き込んでいる現状に頭が付いて来ない。
「みんなみんなみんな、皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆みーんな! 全てがお前のせい! お前が犠牲になればこっちに残っていたのはあの人だった! 私もこんなことをせずに済んだ! だけど後悔はしていない! だけど君は殺す!」
「……かはっ!」
「まだだ、まだまだ足りない! 足りないのは君の敵性と適性だ! それを私に見せて見せろ! 君は私に一太刀も浴びせていないだろう! そうでなければ君には意味がない! そうでなければ――」
――私は意味が無くて死にたくなるんだ。
そう言って番鳥は手を解き、引き金を引いた。
拳銃の、引き金を。
パァン。
「うっ……」
しかし、弾丸は、僕に向かって撃たれたものではなかった。
「何ですって……!?」
ターゲットは、沖陽菜野。
「…………?」
全く別の様子で疑問符を浮かべた沖と、僕。
互いに、この『狂い』に付いていけなくなっていた。
「残念でーした、その楽天的な予想ははっずれましたー♪ なんだか今は頭がすっきりしてて気分がとても都合が良いんですよねー。もう笑ってやりたくなりたくなるなるなるなるなる。そして今までの全部が演技の私! 虚飾の私!」
そして、すぅー……と空気を吸って、
「あははははあはははあははっっ」」」」「「はっはっっはあはは「」「」「」ははっ「っ」はあはははっはははははははは「っ」ははははははは「!」
狂った高笑い。
いや、高いどころか、むしろ『ひく』ぐらいの笑いだった。
「やっぱりやっばいぐらいに特殊弾丸は私に効いていますねー。『今までにないぐらい』に『解放』されているのをひしひしびしばし感じちゃってます。しかし、そもそもそもそもが、全て私を誤解しているのが残念ですねー。死に体で解放されれば自滅濃厚もいいところですけど、ところがどっこい残念無念また来世ですよこれがまた。私は死神。斬魄刀でもない限り死なないのですよ!」
……最後のはどうだろうか。
空気までぶち壊すとんでもないやつ、と解釈すればいいのか?
そして、続けて。
躊躇無く。
止め処無く。
パァン、パァン、パァン、パァン、パァン、パァン……。
心臓に悪い音が、とても安く、軽い。
全部、一人の命彩に向かって撃たれていた。
「ぅ……ぁあっ!」
番鳥優子と同じ色の、血が傷口から溢れ出る。
普通なら――まして虚弱に見えるあの体躯で――立っていられるのもおかしな状態、容態だ。
しかし、それでも。
「ふ……ふふっ……とことん興味が出てきた……何なのかしらねその『運』は! ……まるで『あの人』そのもの! ……いいじゃない……観察のしがいがあるわ……さあ来なさい……見極めてあげるわ……」
彼女は番鳥優子に全く――それこそ歩兵だろうがと金だろうが構わないとばかりに――気を払っていなかった。
「…………」
今、ようやくわかった。
番鳥が強くなろうが自滅しようが、あいつの今の興味はそこにはない。
あるのは――僕が死ぬか、死なないか。
それは、ミリ単位ですら揺らいでいなかった。
「いいじゃねえか……そうと分かれば分かつまで、だ。ここまで来たら僕も男を見せてやるよ……覚悟しろよ、沖陽菜野」
……まあ、ぼろぼろの相手にこんな事を言う僕のどこがかっこいいんだってことになるんだけど。
投稿の直前に突貫的に点検してみたけど『お前これは寝ぼけながら打鍵しただろう』な箇所がいっぱいあった……いかんいかん。
もっとふざけなければ(……あれ?)。
ではまた明日。