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灰色のバックソード  作者: Hegira
第五泥
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早退ウィズドロウル

あんまりタイトルが当てになっていないです。

 その後鞄を届けてきてくれた朱夏によると、どうやら僕は無断早退をした馬鹿者として担任様に盛大に吹聴されたらしくて、今や僕の評判は水準に比べて深海魚と遭遇できるレベルには落ちているらしい(とはいえそれぐらいでは日本海溝の四十分の一のスケールにしか満たない、という点がこの学校の不良(ていへん)に対する基準がいかに深いかを示している)。

 ……ここだけの話、僕のこれまでの所行をすべて(つまび)らかに明かされてしまえば、僕は本来こんなところにいられるようなステータスの人間ではないので、そこで理不尽だなあという気持ちをアピールするつもりはあまりないのだけど、まあ、思わない点がないというのは嘘だろう。

 何というか、諦観のような、『あーあ……』と口から漏れそうな気持ちである。

 僕の前世がどうだったか知らないが、後世にはカルマによって報いを受けて貰うか……あーあ……申し訳ない。

 ここまでの叙述でわかる通り、僕は未成年とはいえ傷害罪に問われても仕方のない経歴なので(なにせ××××××だ)これはどうでもいいと言えばどうでもいい。

 とまあ、

 そんな話を枕にして、話を進める。

 ただし枕とここでの話は関係ない。


「だから明日からしばらくの間、僕は隠遁生活をするから学校には行けないんだって」

「行って」


 断定のようにも聞こえる朱夏の要請だった。


「何で」

「行かなきゃいけないから」

「殺されるよ、僕」

「殺されなきゃいいでしょ」

「そんな向こう見ずな見通しで言われてもなあ……」


 まあ、あの話を知らないというのもあるんだろうけど。


「というか、学校じゃないとかえって狙われたときのリスクが高まるかも……」


 ……ん?


「どういうことだ?」

「……ほら、いつも私が一緒にいるとは限らないわけだし」


 じーっ、と。

 怪しいので、僕は『おまえ、なんか誤魔化してないか?』と、表情だけでアピールした。

 僕からすれば朱夏が嘘を()いているかどうかは見落としようがないぐらい簡単な事だ。

 その代わり、


「じゃあ結構な頻度で一緒にいてくれるのか!?」


 とはしゃいで、蹴られた。そして蹴られまくった。

 二桁に突入して十数発食らった辺りで僕は数えるのをやめた。


「……バカ」

「……………………」


 痛い、というかほとんど遺体。

 くさった死体のごとく倒れていた僕に、朱夏は言った。


「むしろ毎回気を張ってる私の方がバカみたいじゃない……」

「いやいや朱夏、僕の方が歴とした莫迦であるという自覚があるぞ」

「だからなんだってば……」


 何でか、僕を見てため息をついた。

 ……時々思い出したように僕を揶揄するなあ、朱夏。


「とにかく、明日は一緒に学校に行くこと」

「え、決定……?」


 どうやら僕の主導権は複文における従属節並に無いらしい。

 僕は頑として要求を拒み続けたが、朱夏はそれを退けた、みたいな。


「従わなければ焔の錬金術師が明日この部屋を焼く」

「刑法二二二条!?」


 脅迫罪である。ゾロ目。

 というかやってる事がなんら放火魔と変わらない……。

 朱夏サン、おまえは今どこに向かっているんだ。


「ところで統那」

「なんだよ朱夏」

「たまに不知火さんとおかしな事しゃべってるけど、あれって何なの?」

「ラブコメのコメ成分でおにぎりを作ってるんだ」


 おざなりにほとんど真実半分冗談半分を告げる僕であった。

 そして、やっぱりおかしな事って認識だったか……残念びんしけんだ。

 十哲。


「かといってラブ成分がある訳じゃあないんでしょ」

「虐接的だ……」

「は?」

「いやいやいや、逆接だったか」


 そんなまさか、虐待と招待じゃないんだし……。


「逆説じゃないの?」


 一見ラブコメのように見えて、そうではない。

 いや、パラドックスなんて高尚なものじゃないんだけど。


「うぅ……僕としたことがミスを繰り返すなんて」


 末代の祟りだ。


「それは末代の恥、かな」

「また一つ僕は賢くなった!」


 また一つ馬鹿が露見したとも言う。

 グラスに半分残ったカクテルを、半分もあると見るか、半分しかないと見るか、だったか。

 ポジティブとネガティブの違い。


「なんか付き合ってるって噂も出てるみたいだけど」

「……ああ、筑紫?」


 方向修正。

 一瞬朱夏の事かとも思ったが、そんな思い上がりはとっさに打ち消した。


「あれは単に馬鹿な掛け合いをして遊んでいるだけで、まあ大抵は一学期が終わればみんな免疫ができてくるからその誤解は解けると思うよ」


 すると朱夏はこっちが気付くまで僕を見ていて、何事かを考えるように顔をうつむけた。


「あのー、朱夏サン?」

「不知火さんのことも名前で呼ぶよね」

「ん? ああ……それはちょっと事情があって……」


 それははっきりと覚えている。

 筑紫は、最初から『不知火筑紫』だったわけではないのだ。

 その頃を詳しく知っているわけじゃないからそれについて僕が半可に語るわけにはいかないのだけど、単純に両親の間に何かの問題が起こった結果、そうなったようだ。


「別に僕に限らず、名字で呼ばれることをあいつはどうも好きじゃないみたいだからなあ、本人は口に出していないみたいだけど」


 そのとき筑紫の表情は僅かに微かに、悲しそうになるのだ。本人は気付いていないんだろうけど、あの物憂げな表情は……たまんないね!

 ……とんだ最低人間だった。

 人類最低。


「とにかく、仲が良いんだね」

「……何で朱夏サンが僕と筑紫の関係にこだわるんだ?」


 どうもさっきから様子が変だ。妙だ。


「実は……統那の友達の数が心配になって」

「余計なお世話だ!」


 よりにもよって僕のコンプレックスを!

 フレンドコンプレックス。略してフレコン。


「学校で親しいのは私を除いて……二人だけ? 少なすぎない?」

「そういう朱夏サンはどうなんだよ!」


 犯人はお前だ! っていう感じにさした指に、


「…………(シュボッ)」


 点火(イグニット)

 勿論、僕が。


「あ……っちぃぃいいいいいい!? 暑い厚い篤い熱い!」


 何とかして熱さを表現しようとして失敗している僕。相当テンパってる。

 temper。


「待って確か爪は焼いちゃうと臭……っせえええええ! っていうか焦げるし! も、もう言わないから! 一生のお願いだから殺さないで!」

「…………………………はぁ……」


 三六個も点を打ってようやく火は収まった。


「一生のお願い、これで聞いたからね」

「……なんか言わされた気分なんだけど」


 まあ、実際自分から言ってしまったんだけど。

 段々と、僕の立場が無くなっている気がする。

 ふと携帯の時計を確認すると、結構話し込んでいたらしく、朱夏は後ろで一本に束ねられた、黒く艶の光る長髪を翻しながら(なんと驚くべきことに)普通に玄関から帰った。

まあ、今回の話は……どうなんでしょう?


とりあえず、また明日。

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