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灰色のバックソード  作者: Hegira
第五泥
55/95

遭遇ハプレス

最近プレスしてないなあ(何だ)。

 番鳥優子。

『ばんちょう』って読みたいけど、『つがいどり』。


「という危険人物がふよふよしているから気を付けるように」


 僕の忠告に朱夏は答えた。


「と言われても私にはどうしようもないんだけど」

「だ・よ・ね〜……」


 その通りである。


「さて今は帰り道な訳だけど……」

「それは私も知っている」


 ……あれ? 地の文を言ったつもりだったのに口に出してたよ。ごめん朱夏。


「……なに? なんか言った?」


 そして逆転現象。

 まるでテレパシーか腹話術を失敗した感じだ。


「で、その帰り道、僕は獅子島朱夏という幼馴染みと――」

「……救急車呼ぶ?」

「是を非にして呼ばないで!」


 もし是が非でも呼ばないで!

 ……このままじゃ僕がおかしな独り言をつぶやく人間だと認定されてしまう! 早々とこの流れを排除しなければ!


(しばし精神統一……)


 ……ふう、よし。オッケー僕はフツーフツーフツーフツー……ツー、ツー、ツー、ツー(電話が切れました)。

 オッケーいつも通り!

 ……ゴホン。


「なんか逆に呼びたくなってきた……」

「国民の皆様の血税をそんなことに使うな! そして携帯を開くな!」


 そんなんだから無闇に警察イコール便利屋の認識を持っているバカが1%(身勝手な推測)ぐらいは存在するんだ!

 ……思いつきで言ったけど一億の1%って結構膨大な数だ!


「……携帯、やっぱり繋がらない?」


 開いたままの携帯のディスプレイを眺めながら、朱夏がつぶやいた。


 麻倉打葉。


 ……まあ、気にしていないっていうのは無いよな。

 そんな朱夏に朗報。


「実は繋がるんだ」

「そうだよね、やっぱりつなが――ええっ!?」


 うん、僕も驚愕だ。

 吃驚仰天(びっくりぎょうてん)だ。

 驚天動地の心地だ。


「さすが通話料無料サービス。僕の親友は抜け目が無い」

「これまでの前提が一気に覆ってない!?」


 どの辺が前提にあったのか僕にはわからないな、ははははは。


「この間なんか『おう、こっちにもゲームとかあるぞ。しかもラインナップもそっくりだ。想像だにしていなかったが結構気楽だな』とか調子良く喋ってたし……」

「心配が一つ減ったよ……」


 良かったね。

 いや、良い事なのかわからないけど。


「と言うわけで五体満足無病息災で生きてるよ」

「もしかして、減ったから損した……?」


 僕の言は多少スルーされ、朱夏は独りごちていた。


「なるほど、それで心配すると損するのか……。風が吹けばイケアが儲かる、みたいだな」

「……違うんじゃない?」


 正解は桶屋が儲かる、だ。

 風が吹けば塵が舞い、塵が舞えばめくらが増える、めくらが増えればめくらの商売道具・三味線が売れ、三味線が売れれば材料の革のために猫が減り、猫が減れば鼠が増え、鼠が増えれば桶がかじられ――とまあ、こんな流れの話なんだけど、イケアの場合は風が吹けば凧が良く売れ、凧が売れると和紙も売れ、和紙が売れると伝統工芸ブームが起こり、伝統工芸が流行ると京都に足を運ぶ人が増え、京都に人が増えると古い建物に落書きをする人が出てきて、落書きする人が増えるとテレビで子供に悪影響が及び、壁や家具に落書きをする子供が増える、家具が落書きされると交換したくなる人が出てくる、そこで組立式(購入者自らが組み立てる)の家具を販売するイケアが儲かる……伝統工芸を伝統芸能とゆがんだ形で解釈するとか落書きとか、滅茶苦茶だな、現代日本と僕。


「何かの論法を言いたいのはわかったけど、風とイケアにどんな関連があるの?」

「さあ」


 そして朱夏はつっこみ力は磨いていないはずだから、この反応は予想内だ。そーてーのはんいないだ。

 自己満足。


「まあ、お互い無事だったら僕達はそれでいいんだよ」

「私には判断できない事だから深くは言わないけど、なんか変な友情だね……」


 別に最初から僕は普通じゃなかったし、と言うのは軽い逃げだろうか。

 そんな風に、

 会話を続けていた僕達の目の前に、ふわり、と一人の人が現れた。


「ふうん……」


 女性。まずスカートは口がばっさりと斜めになっていて、切り揃えられているのに違和感バリバリ。片足は膝下数センチまで見えているが、もう片方は(くるぶし)ぐらいしか視認できない。一応、色調はともかく、全体的なデザインとしては今風とも言えそうな黒いドレスで、所々にふわふわしたレースやらフリルやらがくっついている。そして基本的に袖は長いのだろう、左はすっぽり隠れ、右手首から先だけが切り口のような袖口から覗いていた。そして、頭は……表情こそ見えるが、マネキンを取って付けたような不気味さがそこはかとなく漂う。陰気百倍、みたいな感じだ。

 それは不健康に青白い左足、そして右手首から先、何も見ていないような目を宿した頭部――首根っこが折れているかのように傾いでいる――を露出し、負の空間を醸し出しながら、僕達が歩いている歩道の右側を通り抜ける。


「べったり……」


 ちょうどすれ違うタイミングで、彼女はそんなことを言い、僕は鳥肌が立ち、思わず「ぞわっ」と口に出してしまった。

 いや、実際ぞわっとしたんだけどなんだか間違ったリアクションをしてしまったようで、嫌な気分だ。


「な、何……?」


 不審者じみた黒いドレスに気を取られていた朱夏がびくっとしてぞわっ、と口に出した(ふしんしゃ)を見た。そして僕はと言えば、二度見の為に、彼女に向かって振り返っていた。


 彼女は、にっこりと、幸せを薄めるような……そう、薄幸の笑顔でこう言った。


「こんにちは……私は(おき)陽菜野(ひなの)……よく他人からはある意味名前勝ちしていると言われているわ……」


 それだけを言って、再びのそのそと、ひたひたと僕の視界で徐々に、ゆっくりと小さくなっていくのを――見終える前に、振り返って、僕は背中の悪寒から離れるように歩いた。初夏にも関わらず――それこそかき氷すらまだ食べていない時期に――歯が震え出すのを止める、という動作がひどく不釣り合いだった。何かのバランスを崩されたのではないかと(うたぐ)りたくなる。

 そんなものに(さいな)まれている僕の表情を見てか、朱夏がただならぬ心配をかけてくれた。


「……統那、大丈夫!?」

「…………う、うん。ああ。少し落ち着いた」

「なんだか尋常じゃない震え方だったよ?」

「困ったことに僕は暑い時はかえって寒いと思いたくなる癖があるんだ。それで、季節の変わり目のこの時期は特に症状がひどいんだ」

「……嘘つき」


 びしっと見抜かれた。

 断言された。

 いや、ごまかせるとも思っていなかったけど。


「ちょっと待っててあいつに問いただしてくる!」

「いやいや待った朱夏! 向こうの方が単にオカルトチックなセールスをしたいだけだったとしたら、あいつはかなりの手練(てだ)れだ! 下手に手を出すとお金とか何か大切なものが巻き上げられる!」


 という冗句で朱夏を留まらせようとする僕。というか、絶対にこういう時に朱夏みたいなタイプのキャラクターが関わっても事態は好転だけはしない、と相場は決まっている。

 ……もちろん、それだけじゃあないんだけど、


「……それだけ元気になったんなら、大丈夫かもね」

「うん、僕はいつでもお天気元気だ」


 何だよお天気元気って。

 どうせ朱夏は突っ込まないだろうから自分で突っ込んでしまった。


「…………」


 案の定、朱夏は黙った。

 多分、いい意味では、ないんだろうなあ……。


(ロマンティックが止まったような……)微妙な空気の中、僕達はいつものように帰宅と相成った。

オカルトといえば幽霊を信じるか信じないかというのがありますが、自分は『いたらいたで、まあ面白いだろうなあ』という中途半端なスタンスで見ております。まあつまり、これの作者なんてのはお金をかけてまでそんなもの見ようとしない方がいいなーと思っているただの一般人でして、また、戦争するぐらいなら宗教(見えないものを見ている点では一緒だと思う)も捨てちゃっていいや的な思想――――ってこれありきたりな話だよな~、と今日も人並み十把一絡げであることに満足しております。


今日は良い天気です。

ではまた明日。

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