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灰色のバックソード  作者: Hegira
第四介
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連続ディスメンバー

そう言えば最近書店のメンバーズカード……ではなくポイントカードが多いですね、という意味の無い話。

「あ……ぅおあああああああ!」


 あれよあれよと火達磨に変化していく小間は、何も派手な行動を起こさずによろよろ、ふらふら、おっとっと、揺らいでいた。


「あ、朱夏。あれは(画的に)やりすぎじゃ……」

「だったら何で倒れてないのか説明してくれないと私は納得できないよ。それにこれでもさっきの大技で意外と消耗したし……。ふぅ」


 通り一遍の事を言った僕に、朱夏は全く意見をねじ曲げずに燃やし続ける。が、


「――ごほっ、ごほっごっほ! うっわ、ちょっとおっさんの酸素が足りませーん! 誰か助けてくれぇーい!」

「「…………」」

「あれが死ぬまで直らないタイプ、なんだろうな。馬鹿かどうかはともかくとして、だが」


 それほど時間は経たなかっただろう。いつしか小間の体にまとわりついている炎が散り散りにすぼみ、小さくなり、消えていった。焦げた服も、巻き戻して再生されるように穴を塞いでいた。


「あ~、きっつー。おっさんボスキャラじゃないんだからさぁ、あんま虐めないでくんない? おっさんお金ならあげるから」

「なら倒してから奪ってやる」


 なんと、僕の台詞である。


「強盗!? 容赦ない!?」


 僕にうんざりしたような驚きの目を向けた小間。


「統那、だめだよ強盗は」

「朱夏……」


 うんうん、やっぱり朱夏は僕より弁えている。


「賠償請求しないと」

「僕よりもハイエナがここにいた!?」


 ……朱夏は僕より『おっさんへの対応を』弁えていた。


「おっさんの運命や如何に!?」

「幾何にしてやる」


 ぎらり、と手刀を構えた僕。

 とっさに混ぜっ返す事ができたのは筑紫との特訓の腸物……いや、賜物だろう。

 ……字面で臓物みたいなものを連想した僕は馬鹿か。


「お前等楽しそうだな」


 打葉が言った。

 いや、だって小間が簡単な話題振ってくるし、しょうがない。


「はい質問」


 朱夏が手を挙げた。そして誰の返事も待たずにそのまま続けた。


「そろそろ無駄話はやめない?」

「…………」

「致命的な事言うねぇ、嬢ちゃん」


 そこまで空気を読まないのはどうなんだろう。


「なら、まずは俺だな」


 再び打葉が手を振った。こするどころではなく、地面を軽くえぐりながら小間を打った――――ように見えた。

 小間の手が、打葉の『よくわからない攻撃』に当たったと思うと――


「早速で悪いけど弱点候補見つけちまったわ――」


 ひゅっと、どうやってかすり抜け、


「――接・近・戦!」

「!?」


 平手で振り抜いた打葉の腕を押さえつけたまま、


 バリバリッと、


 雷を纏った掌底をそのまま顎に打ち上げた。振り抜いた姿勢でコートと和装をなびかせて、小間が高らかに告げる。


「〝昇雷拳〟、ってな。本家の十分の一ぐらいしか出せないのよねぇ。でもまあ脅しには十分っしょ」


 その傍ら、力無く打葉が倒れた。その間際に見えた、焦げたような痕が痛々しく、また恐怖であった。

 思わず足が竦みそうになるが、止まるわけにはいかない。

 僕はこんな理由では止まれない。


「さて次は嬢ちゃんかい?」


 拳で反対の掌を叩いて残滓のようにパチパチしていた電気を散らし、「手加減出来たら良いんだけどねぇ」と(うそぶ)いた。


「どうかな? ご期待に添えるかはわからないけど」


 朱夏にしては珍しく、挑発するような台詞を言った。

 それに乗ったのか、はたまたその逆なのか、小間はこれまでの口調を変えた。


「……そうか。ではここまで来た以上改めて名乗ってみよう。〝魔法拳士(ウィカフィスト)〟小間険静。柄にもなく、参る」


 纏う空気と共に、小間の動きが急変して気付かない内に朱夏の前にまで接近して朱夏の腹を狙って拳を真っ直ぐ正確に突き出した――――が。


「はずれ」

陽炎(かげろう)による目眩まし……か」

「〝炎技・挫然(ざぜん)〟。逆上(のぼ)せないように注意してね」


 ……これまたよく見たことがあるようなオリジナリティの無い技が出てきた、と言っては台無しだろうか。


「早く当てないともう一回必殺技擬きを撃つよ?」

「いいや、それはご遠慮願う」


 静かに広がった害意が朱夏を捉えて『何か』をしようとする――のを僕は感じた。


 ――獅子島朱夏!――


「〝        〟」


 感じた次は、いつの間にか小間の背後で〝形無刀〟を振るっていた。同時に口が勝手に何事かを呟いたが、不思議なことに自分で自分の声を聞き取れなかった。


『   』という音。


 ――この時の事を振り返ると、僕が人並み外れたのはこの瞬間だったんだろうな、と思う。


 まるで、誰にも気付かれないような。


 呼吸と言うのだろうか。気配と言うのか、それとも色採独特のオーラ、とか未知の単語で言い表せばいいのか……それら生気が、僕の中で虚となっていくのがわかった。白黒の世界では存在し得ない影ができたかのような、虚の存在感だった。自分の足で立っているのかすら判断の付かない、まるで浮遊しているみたいな逸脱感、というか虚脱感――だった。自分で実在を疑ってしまいたくなるような虚。すっかり隠し切っていた。

 まるで、


 このまま『隠れ切る』事もできそうな感覚だった。


 今の僕を見ても、誰も何もできない。

 そうして僕は何も言わずにただ消え入るように、音を殺し気配を殺し、暗鬼のように隠れ、切り裂きジャック。


 本当の所は何も分かっていないんだけど、


 とにかくやる、切る。

 やり切る。

連続殺人(シリアル)


「……!?」

「統那!?」


 僕は、小間を、切る。


 一切(いっさい)


「な――」


 双切(そうさい)


「に――」


 切三(さいさん)


「を――」


 切四(さいし)


「し――」


 切五(さいご)


「た――」


 切六(ぜつむ)


「!?」


 切七(せつな)


 ……これが、僕の今の限界だ。


「連続して切った……八つ裂きになるまで」


 首、縦に頭、右手、左手、右足、左足、横に胴。

 時間差で、それぞれがバラバラのタイミングで好き勝手に離れた。

ウィカフィスト……超適当ー! 才能を感じられねえ! という心境です。今の所。

シリアル……超単純ー! ちゃんと考えているのかよ!? という心境です。この所。

昇雷拳……超真似ー! どこかで聞いたことある響き! という心境です。この頃。


という訳で、また明日。

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