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灰色のバックソード  作者: Hegira
第四介
47/95

剣呑ディセンバディード

カタカナから単語を推測するのにもそろそろ限界が近づいてきておる。

「ああ、もう来たのかい? 案外早かったねえ」


 いつかと同じようにして、骨董店には(とどろき)(あわい)が座布団に(すわ)っていた。


「ちょっとおっさんに襲われちゃったんで、もう仕方なく強くならざるを得なくて……」

「ふん、確かにあんたは修行で強くなるタイプでは無いだろうさね」


 轟さんはゆったりと居直った。


「さてさあ、シデトウナ君。名字だけでなく名前を聞いた時からかなりヤバそうな雰囲気は感じていたさ。そのちぐはぐさといい、ね」


 この人は見ただけで見た目ではない変化がわかるようだ。


「今回は、大丈夫ですか?」


 刀を貰っても。


「ああ、好きなのを持っていくといいさ」

「あ、いや、持っていきません」


 僕の発言にわずかに怪訝な表情を浮かべる轟さん。あと二十年ぐらい若ければ(まあ中学生のお子さんがいると言うことでそのぐらいの年齢差が妥当だと思う)僕はその表情に見蕩れていただろう。と述べることに何か意味があるとは思えないけど。


「触らせて貰うだけでいいんです」


 それだけで、僕には十分だ。


「まあ、そっちがそれでいいって言うならあたしゃあ止めはしないさね」

「ありがとうございます」

「二本とも触っていくのかい?」


 僕は首を振った。


「いや、とりあえず一本でいいです」


 一本ずつならともかく、片方は、多分僕の手に負えるかどうか……勘だけど。


「賢明さね」

「じゃあ、ボロ刀の方でお願いします」

「折れ刀は、止めとくのかい?」

「いいんです。そっちは……まだ荷が重そうなんで」


 少なくとも片手間で扱いきれる代物ではなさそうだ、ということが何となくわかる。

 妖刀、というわけでは無さそうなんだけど……。


「そうかい。じゃあ、こっちさ」


 立ち上がった轟さんに案内されて、奥の間にたどり着く。掛け軸や壷が飾られた典型的な和室の壁に、二本の鞘に納まった刀がそれぞれの台(あれだ、あの支点が二つあるやつ)に置かれていた。

 僕はどっちがどうという説明を受けずに、一本を手に取った。

 それは僕が力を籠めるとしゃらん、と滑るように滑らかに抜け、下がった切っ先から水滴がぽたりと落ちた。

 横で轟さんは感心したような声を漏らした。


「やっぱり、使う奴は抜けるもんさねえ……」

「じゃあこっちがそのボロ刀で正解だったんですね」

「折れてないからそうに違いないさ。どっちかというと錆刀というのが正しいようさね。そのせいで抜けなかったのかい……」


 轟さんの言う通り、その刀には全くもって光沢がなく、それどころか表面はざらざらで、刃は(こぼ)れ峰は崩れ、(しのぎ)がどこにあるのか全くわからないぐらいの赤錆だった。

 抜けないのも仕方がない話だった。

 だからといって、無論僕だったから抜けた、という訳ではない。

『この刀』だったから抜けたのだ。

 轟さんが説明を付け加える。


「銘だけは伝わっているさ……それは〝村雨丸(むらさめまる)〟。あるミーハーな刀鍛冶が打った刀さ」

「いつの時代だ……」

「江戸時代ぐらい、と聞いているさ」


 三国志クラスのミーハーっぽい。

 ちなみに中国人は三国志を詳しく知らなかったりするらしい。外国から見たニンジャ・サムライの認識だろうか。


「……これ、使い物にならなくなるけどいいですか?」

「そんなのは今更さ。それは譲るのさ」


 気前の良さに僕は器の違いを痛感するばかりだった。


「じゃあ頂きます」

「どうぞ、召し上がれ」


 剣呑な感覚、とでも言えばいいのか。

 比喩ではなく――間違えた。比喩で、僕は刀を呑んだ。


 ****


 さて、

 これから話すのは僕の精神世界での話であって言うならばそんなに本編に関わらない、ギャグパートに近いものだと言える。

 一つ前提として言うと、決して全ての、ではないという前提こそ必要だけど、僕――この時点での僕――は基本的に大量生産されていないような刃物との意志疎通ができる。つまり人格ならぬ、刃格(じんかく)を感じることができる。

 そして今は、ある一つの刃格と対話している。リアルには全く表れないけど。


「僕の精神世界にようこそ。村雨……ちゃんかな?」

「ふん、何よ」


 返事は素っ気なかった、というより尖っていた。


「いや、だから……」

「だから何!? 数百年振りに私を使える人が現れたと思ったらそこまでイケメンじゃなくて幻滅~、とかしてるんだから放っといてくれない!?」


 第一印象。とってもとっつきにくいです誰か助けて。


「別に君に好かれようとか思ってないけど、友達ぐらいにはなれないのかな?」


 努めて慣れない口調で対話を試みる僕。


「ふん、どの道主従関係は覆らないんだから私がどうしようと関係ないんでしょ。『もう一人』もかなり悔しがっているみたいよ?」


『もう一人』って言うのはあいつのことだ。あいつって言ったらあいつの事だ。


「無意識での技とは言え厄介なことをしたなあ……」


 まさかあれにあんな副作用があるとは……。


「で? 現実的な話――精神世界でこんな事を言うのも滑稽(こっけい)だけど――あなたは私をどこまで使えるのかしら?」

「さてね。とりあえず〝一の型〟を何もない基本型として、〝二の型〟〝三の型〟〝四の型〟……ぐらいしか思い付いていないかな」


 精神世界でカッコつける僕。無意味だ。


「……へぇ」

「1へぇ、か。あんまり驚きじゃないのか……」


 本当、無駄知識。

 ……いや、冗談だけど。そこで20回も言われたって困るし。

 どっかには100回『はい』と言った馬鹿もいたんだけど、はて、誰だったか。


「ううん、正直に驚いたの。……その辺の才能はあるみたいね」

「光栄だね」


 精神世界でカッコつける僕(その二)。サムい。イタい。


「べっ、別に――」

「あ、僕はツンデレお断りだから」


 どう考えても作り物っぽいから。

 ……じゃあ何で深夜番組見てんだよ、僕。

 萌えてないのか。

 萎えているのか。

 萌えるゴミと萎えるゴミ。

 どっちもくさかんむりが無ければ賢そうなイメージがあるのに残念な漢字になってしまってまあ……。

 ……ゴホン。


「……それだったら私はいいんじゃないの?」


 (つくりもの)の、刃格。


「あ、そうか。じゃあオッケーで」


 毎週金曜日の夕方にすげ替わる新しい顔(の、ヒーロー)並みに意見が見違えた僕。もう白々しさしか残っていない。


「ふんっ。しょうがないわね!」

「まあ頑張って」

「……調子狂うわね」


 明らかにあきれた村雨ちゃん(ビジュアルは和服少女だ! 僕だけ見える特権バンザイ!)。

 はっはっはっ。僕相手に本気で取り組む人――あくまでも人だけど――は例外を除いてみんな逝くから、まだそういう人がいることはありがたい事だ。

 まあ、関わる人が片っ端から死んでいくどっかの人(僕ではない)よりは格段に生温(なまぬる)いんだろうけど。


「じゃあ、これからよろしくって事で」

「だから、私に選択権は無いって言わなかったっけ?」


 いわゆるジト目で僕をにらんだ。元々刀であるせいか、ぶった切られそうに感じる。


「それはほら……あれだよ。強制的に従わせるより協力した方がより強力になるっていう王道パターンだよ」


 普通の親父ギャグに加えて普通以下のコメントだった。


「そんな理由で私と対話してるの……!?」


 気分的には僕の喉に刃が少し切り込んでる雰囲気だ。

 頸動脈。


「まさか。そんな事を至極真面目に企んでいる奴の面を僕は鏡の中にしか見たことがないなあ」


 すっとぼけた僕。


「自白したようなもんじゃない……まあいいわ。協力してあげるわ。所詮刀の運命なんてそんなものよ」

「正確には〝形無刀(かたながたな)〟だけど」

「そう言えばそうね。無形の可能性って言えばいいのかしら?」

「そんな大袈裟なものじゃないって」

「そうね。形無しの可能性かもしれないわね」


 僕の世界が一瞬(こご)えた。


「どっちかって言うと、ツンドラ……?」

「キャラの確立が大変なのよ……」


 ツンデレ成分はもう朱夏が微量ながら持ってるし、確かに大変だ。

 さて、

 こうして、僕の頭は中々に愉快なことになってきているのだった。

 ……なんつーまとめ方だ。


前回の話がレベルアップだとすれば、今回の話は装備品が手に入った感じの話です。さすがにドラクエ5のカジノでメタルキングの剣やグリンガムが手に入ったレベルではありませんが、まあそんな感じです。


あと、今回のも更新が日付変更ギリギリで申し訳無いです……誰が期待しているのかもわからないですけど。


というか、剣呑ってこんな意味違う。

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