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灰色のバックソード  作者: Hegira
第三者
36/95

非売エルダー

 青かったのに、秀でた。

 踏みつけて、折られた。

 夕方もいいところの、骨董屋。


「ふうむ……さっきからのお二人さんの様子を見る限り、探し物という訳ではない様さね……じゃあどうしてここに来たのさ?」


 轟さんは聞いてきた。


「実はここに行けって言われただけで、具体的に何を、ということは無いんです」

「川井窓枠っていう小学校低学年の案内でここに来たんだけど」


 どちらかというと言葉遣いが荒い方、後者が僕の台詞だ。いや、単に敬語を心得ていないだけなんだけど。

 川井窓枠の名を聞くと、轟さんはいきなり脱力し、溜め息を吐いた。


「あぁあぁ、まったく……何で私をこき使おうとするかねえ……まあいいさ。と言ってもここには見ての通り、物しかないから必要ない人には必要ない所で、例えばそっちのポニーテールのお嬢ちゃんはここには用はないだろうさね」

「「ふーん」」


 同時に言った。というか言ってしまった。

 何やってんだよ僕。


「「何よ」」


 また同時だった。何だこのコント。

 というか僕、『何よ』とか言っちゃってるよ。

 オネエかよ。

 いやだよ。

 やあよ。

 ……ゴホン。


「いやいやお二人さん、ここで喧嘩はやめて欲しいさね」


 大丈夫です轟さん朱夏は物的被害を出さないで僕を討伐することが可……フッ、全然大丈夫じゃないな!


「まあ確かに私にはここはどうでも良いんだけど。……ところで『物』があるってことは、この僕っ子になんか刀とか剣とかないですか? 軽く現代社会の中で携帯できる」

「僕っ子って大分違わないか?」


 僕は朱夏が銃刀法違反を暗に推奨しているのではという疑惑に触れることなく(口は災いの元)突っ込んだ。男が『僕』を使うのはまだ普通のあり得る部類だろう。

 ……僕っ子ってむしろボクっ娘とか綴って女の子の属性に使うんでしょうねきっと。いや、ボクは知らないけどね。


「……残念ながら、一応は大仰な物こそ――あぁ、一応刀剣の所持許可みたいなのは持ってますよ――そういったもんは……辛うじて、っていうものはあるさ。でもそれはとても売り物になるもんではないし、まして携帯できるとなると……隠し武器ってことになって、そんな危ないもんは流石に用意できないさね」

「いやいやそんな危ないもの持ちたくないですよ」


 とてもこの間ナイフを持つどころか人を切った人のものとは思えない台詞だった。

 とんだことを言ってますよ僕の口。


「すいませんねえ。ここにはオンボロな店と、それに見合ったボロ刀や折れたナマクラ刀ぐらいしか伝わっていないさね」

「……ボロ刀?」


 と、ナマクラ刀。

 それは逆に、新品よりもむしろ、僕の興味を引いた。

 というか、普通の刃物ではナイフと何ら変わらない、という僕独特、特有の感覚だった。


「ええ、どうも錆び付いてるらしくて、頑なに抜けようともしないもんで、見ることもままならない。かといって燃えないゴミにポイ、というわけにもいかない。困ったもんさね」

「……もし良かったら見ても「無理さね」」


 言い終わらない内に断られた。


「意地悪で言っているんじゃない。見たところお二人さんは単にあの歪術師(ライアー)の紹介でここに来ただけで、確固たる目的は無い……と。これは当たっているね? 沈黙ならイエス。ノーなら何か別のことを言うといいさね」

「…………」「…………」


 僕らは黙りこくった。


「よろしい。そんな何の目的もない人に、私は『武器』を渡すわけにはいかないのさ。わかるね?」

「……はい」

「というわけで、少なくとも今、渡す物は何もないのさ。必要ができたらその時来るといいさ。わかったら一旦お帰り。川井窓枠の紹介に免じて、必要な時はいつでも応えて見せるさね」

「……どうも」


 もうこれ以上ここにいるべきではない。さすがにそれはわかった。

 僕より先に朱夏がお(いとま)しようとお辞儀をした。


「どうもおじゃましました」


 続いて僕も後ろに向いて出るべく(お辞儀を忘れて)振り返ろうとしたが、


「ああ、ちょいと待ちなさ」


 瞬きほどは、あっただろうか。


 その間に、轟さんを中心にずっ、と白と黒が、広がった。

 丁度、家を包み込むように見えたところで、外の果てが見えなくなった。

 封陣。

 通算6度目、か。

 そのどれも、使う人は、色採だった。

 轟さんは、正座そのままの姿勢でゆったりとしていた。

 外に出ていた朱夏(言うまでもなく紅蓮バージョン)が恐ろしい速度で戻ってきたが、何の敵意もないのを見てすぐに、矛を収めた。

 その色は、黄色のようでいて少し違い、山吹よりほんの僅かに明るい、鬱金(うこん)色。

 決して光らず、輝かず、しかしはっきりと目に映り、静かに輪郭を蠢く。


「あっしも一応こういうもんなんでさ。あぁあぁ、安心するさ。敵じゃあないさね。それにもうこんなおばさんさ。(ろく)に戦えやしないさね……。そしてこれをやった理由はというと、二人が本当に『こちら側』なのか、確認したかったのさ」

「で、ちゃんと色採と確認できた、と」

「ん……まあ、そうさね。予想通りの結果ではあったさ。……それと坊やの方、萌葱(もえぎ)さんによろしくさ。いや、むしろ私の子供の方がよろしく、かな? まあ、どうやら坊やとは縁が薄いようにも見えるがね」

「……僕の父親のことを知っているんですか?」


 萌葱なんて名前で、男という存在、僕は父親以外に知らない。名前に萌え〜、とネリチャギ……違う(何この定番のような言葉)、名前に萌えとネギが使われてる、バカな父親だ。馬鹿な父親だ。莫迦な父親だ。むしろ祖父ちゃんが馬鹿なのか?

 まあ名前に『萌』が付いてる男のキャラクターは既にいるし、有りっていえば有りなのか。

 ……話題が逸れた。とりあえず僕が言いたかったのは父親の名前が萌葱だと言うことだ。

 けれど、轟さんはそんな所を気にしているのではないらしい。


「四手なんていう『ヤバい』名字、そうそう忘れるもんじゃないさね」

「…………」


 どうもこの人も普通とは視点が違うらしい。

 後ろの朱夏はこれをどうでもいい話と判断したのか、さっさと出ていった。

 それに合わせるように、轟さんは封陣を解除した。

 商店街の喧騒が、戻ってくる。


「それと、あのお嬢ちゃんを大事にしてやりな」

「なっ……僕たちはそんな関係じゃ」


 純情ぶる僕だった――と誤魔化す僕だった。

 ストレートは僕の弱点ですよ。

 その代わりジャブは全力で防ぐ!

 何のことだ。


「ふふふ……冗談の一種さね」


 轟さんが笑った。


 そして、僕は店を後にしたのだった。


鬱金の力……こういう表記だったら売れないんでしょうね。文字の入れ替え(アナグラム)をするともっと売れな……という小学生の考え。


ところで突然ですが、次回で三章終わりです。

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