警告メッセンジャー
歪みは元には戻らない。歪んだまま定まりもしない。
そして定めという事すら歪んだまま定まっていない。
「きみは、朱夏ちゃんのことについて、どんなことを、どれぐらい思っているのかな?」
「…………」
僕は、即答できなかった。
それは、『好きかどうか』とか『想っている』とか、そんな甘い曖昧な話ではなく――辛く辛い話に繋がるであろう、問いだった。
それが、わかった。
「どんなこと……って」
「幼稚園の年頃、きみたちは幼馴染みとして接してきていた、らしいけど」
そうだ。僕と朱夏は幼馴染み。
よくあるかは微妙だけれども、
まあ、ありがちな設定だろう。
「それが一体全体どうしてこんなことになっているんだろうね?」
こんなこと。
こんなこととは、どういうことだ。
その言葉に、僕は『僕はこの人に望まれていないのか』と感じた。
こちとらは僕のことはお呼びじゃないってか?
「……こんなことって言い方はどうにかしてもらえないか」
それまでの友好的な雰囲気を無しにしてまでも、僕は言葉を返した。
しかしそんな反抗も、すぐに掻き消された。
立ち消えた、といってもいいかもしれない。
「こんなこと、こんなことで十分だよ。どうして今更いとも簡単にきみたちは一緒に行動できているのかな?」
「それは、小中は関わりがなかったけど、別に僕達には何も――」
「本当に? 本当に何もなかった? こちとらは全く全然完全無欠にきみたちの過去とは無関係だけど、きみたちが『可笑しいくらいにおかしい』のはね、絶対必ず完璧にわかるんだよ。歪み、つまり正しくないことはこちとらの専門領域なんだよ。そして、こちとらが背景を知らないなりにもきみに一番聞きたいのは、
どうしてきみはそこまでなってなお、朱夏ちゃんを嫌いにならないんだろうね。
ということだよ」
理解したくない、言葉だった。
そんなことを思っている時点で、理解したくないと拒絶しようとしている時点で、僕は既に折れていた。
「……何が言いたいんだよ。僕にだけそんなことを言って、どうしろって言うんだよ。僕は何を言えばいいんだよ」
「だから、こちとらが何を知っていて、何を知らないかを言いたいんだよ。きみにだけそんなことを言って、強制的にはという限定でだけど、何をしろとは言わないよ。きみはこちとらの疑問に答えてくれればそれでいいよ」
「…………」
念押しされる必要が無いぐらい、僕には何も言えなかった。
「きみたちの関係は、とても危うい。車輪は回っていないのに前には進んでいるような危うさだよ。ふざけた言い方をすれば、火どころか、ジェット推進の車、だね。火の車だったらきっと、燃え尽きて崩れてそのままだけど、きみたちはジェットエンジンなんだから、エネルギーが尽きると――尽きるとは限らないけど――、大破しかねない。その大破の鍵が何なのかはこちとらにはわからないけど、そんな不安定をいつまで守り続けるつもりかな? ……ううん、仕方ないけどもう止められないところまで来ちゃっているんだったね。ならこちとらがここで言うのは見当違いの見間違いかもしれないね。最初にもっときつく言っておけばよかったよ。そうすればよかったのに。だめだなあこちとら。これじゃあさっきはきみに聞いているだけでいいって言ったけど、やっぱりこれはもう『きみに頑張ってもらうしかない』と言うしかないよね。いやあ悪いことを言っちゃったよ。でもこちとらがそんなことを言ったからといって状況が好転する訳じゃないし、目に見えて悪化するわけでもないんだよね。何が起ころうともただ刻々と深刻になっていくだけなのかもしれないし、何も起こらないかもしれない。そんな感じに、そんな具合に、そうしていつかは折れて、破滅という名の終わりはやってくる。うまく行き続けない限り、ね。決して波瀾万丈からは逃れられないと思うよ。でも、しばらくはそんな大波もやってこないみたいだし、今からできる限り備えることは当面は有効なはずだよ。ああそれと、なぜきみにだけこういう話をするのか、まだ言ってなかったね。それはきみが――きみだけが――揺らがない、確固たる意志を持っているのがわかるからだよ。きみは凄いよ。凄いんだけど、おかしいよ。可笑しいぐらいにおかしいよ。きみは、きみたちは、やっぱり可笑しいぐらいにおかしい。そしてこれは歪みに敏感なこちとらがふと抱いた単純で純然たる疑問なんだけど、
過去に絶対に何かあった、にも関わらず、どうして何もなかったように存在できているのかな?
でもそう言っちゃうと、こちとらこそどうして存在するのか、という哲学の話になっちゃうからあまり話すことじゃないんだけど、これはきみたちにはちゃんと現実問題として現れることだよね。歪んで、歪んで、歪んでいる。それがきみたちなのに、どうしてこうも普通なんだろうね。強いて言えば『普通の異端』に留まっている、というのかもしれないけど。普通はその普通は破綻しちゃって、異端の異端ぐらいには行き着くはずだよ。もっと行くと異端の異端の異端、だよね。三重の歪みというのはそれぐらいに、重いんだよ。第三者としてこちとらは朱夏ちゃんが歪んでいるのを理解しているからいいんだけど、きみは違う。きみは『第三者以上の立場で』どうしてそれを理解していながら踏み止まらずに前に進めたのかな? ……いや、無自覚のままに進んでいるのかな? とりあえず、そういうことにしておくね。うん、こうして見ていると、きみが強いことは――もちろん、戦いが、という意味じゃないよ――強すぎるぐらいに強いのはひしひしと伝わってくる。それでも、決定的にダメなんだ。遅くても早くても、歪んでいる限りはどうしても撓み、軋み、破綻は訪れる。きみがやっているのは何を隠そう、先送りだよね。……正義? それもいいよ。正義は正義と悪のためにある言葉なんだから。あとそうそう、正義と悪は裏表じゃないよ。その根拠はこちとらは同じものは同時に見ることしかできないと思っているという所にあるんだ。それに当てはめると、むしろ反対側こそが、道徳だよ。道徳の観念はいつもそういったものの背景にあるんだから。表の正義を見て、裏の道徳――多種多様な視点の中で選ばれた視点――を見ると、裏の裏は悪だった、なんてことや、その逆があるかもしれない。ううん、実際にあったのかもしれないけど、こちとらは知らないよ。見た目は子供だもん。正義と悪は裏の裏、だね。表々一体、裏々一体。見た目にはひっくり返さなくても変わっちゃうんだよ。それを踏まえて、言わせてもらうと、
最後まで朱夏ちゃんを守れるのは、多分きみだけだよ。
だからきみはどれだけ無駄で無常で無情で無益で無辜で無策で無残で無念で無謀で無理であっても今まで通りのことをやるのをあきらめちゃいけない。こちとらが言うまでもなくね。今まで通りにするためには、あらゆる可能性を試すのが最善なんだ。それでもこちとらごときでは、こればっかりはどうしようもないから、きみたちで頑張ってもらうしかないんだよね。あ、これは同じことを言っちゃったね。じゃあ締めくくりに、こう聞こうかな――以上を踏まえた上で、確認するよ。どうしてきみは朱夏ちゃんを嫌いにならないんだろうね?」
そんなの、
そんなの、決まっている。
「僕が、一番朱夏のことを――――」
****
さて、がっつり言われたところで、僕はようやく朱夏を追いかけた。
目的地は、商店街のとある一画にある店。
どうやら、骨董屋らしい。
空色、二回目。こちとらこちとらうるさいの回、です。
この辺はあんまり真剣に読まないでくれていると、逆に助かります。
今日の一言。
こちとら江戸っ子でい!(言ってみたかった)




