序章カッター
僕は日常を送る。
二度と戻ってくることのない日常を。
順当に、僕こと四手統那は自分の教室で慎ましやかに生きていた。
しかし、そんな僕の大人しさも『不知火筑紫がいる』という付帯状況の前では塵芥のようなものだ。
というか同調してしまう。シンクロ。共振。レゾナンス。共鳴。
「おはようとーなん愛してるぜ!」
「応! 僕も愛してるぜ!」
「しかし体以外だけの関係で」
「純愛か!? 僕らの愛は純愛ですか!?」
ということを朝っぱらから叫ぶ僕らの周りには当前……ああもう間違えた、当然ながら人がいない。
ある意味当り前の光景として認識されている。
……これが『あの二人の仲の良さが気持ち悪い』というやつか。
そしてわかっていながら改善しないという最悪な状況だった。
「む……まさか君は偽者トウナ乙型か?」
「何で偽物疑惑が!? しかも甲乙付けられた!」
甲が上で乙が下。僕は下級らしい。
いらん解脱……解説だった。
またしてもなんだこのミス。
「……ああよかった。ただの調子の悪い統那だった」
「僕のバイタルゲージ突っ込みなのか!?」
調子悪いとか言われたので、気合いを入れて発声した。
僕の活力って突っ込みで判断されてたのか……。
「あっ、スカウター壊れた」
「今ので!? 耐久性低っ!」
さらに声を荒らげるレベルまで達した僕。
すっかりスカウターの件をスルーしていた。
というか突っ込みというものを感覚でやっている僕なのでどの突っ込みが良くてどれが悪いとか、違いがわからない。
ちなみにコーヒーは飲めない。苦い。にげぇ。
「しでん君、とーなん君」
そんな僕に釘を刺すように呼びかけた筑紫。
「むじん君みたいに言われたが気にせず言うぞ。ああ分かってるさ不知火筑紫。僕がうるさいと言いたいんだろう? しかし今この時この場所そして地球がおよそ365×46億回回ったところ(自転)において多少のやかましさはやむを得ない――」
「そこはね、『不可視物質!? その壊れたスカウターは今どこにあるんだ!? そんな珍しいものは僕が手に入れてやる――って僕は裸の王様か!?』ってボケツッコミをする所だよ」
「致命的に間違えたぁあああ!?」
意味不明すぎるやりとりだった。
教室から逃げ出す人までいるし。
「とーなん」
「はい何でしょうか不知火サマ!」
「うるさいよ」
「はい……」
今回は、僕の負けだった。
そもそも勝負だったのかどうかも怪しいけど。
****
それから分の単位も経過しないような後。
「おう統那、待ちくたびれたぞ」
見てたなら参加しても良かったのに、と思う。
麻倉打葉が悠々と自席に座って僕を待っていた。ビジター僕。インバイター打葉。
「……僕以外に話す友達いないのか?」
「居ないって言ったら、どうする?」
「僕が悪かった!」
即座に謝った。
かなりエグいトークだった。
僕以外に友達いないみたいなこと言ってたじゃん。打葉。
何やってんだよ僕。
K(空気)Y(淀む)じゃんか。
「いやはや、頼もしいなあ」
言葉とは逆に(……?)ふう、とため息をつく打葉。
……えーと、あっ、皮肉か。どう考えても今の僕、頼もしくなかったもんなあ……
「気付いたか」
「そうだね、実に人脈の少ない事に気付いたよ」
「悲しいなあ、俺ら」
「全くだね」
この時、同時に窓の向こうを見た僕達のシンクロ具合といったらハンパなかった。
「おっと。ここで抱きついてくれるなよ」
「何でそんなことになっているのかわからないけど絶対しないから大丈夫だ!」
別に金メダルを取ったわけでもないし。
「マジかよ統那。そんないやらしい目で俺を見ていたのか……」
「絶交したいのか!?」
僕をおちょくるとどうなるか、わかっているのか!?
わかっているからこんなことしてるんだよな!?
「っていうベクトルの妄想はちょっと俺には無理だったな」
「なんだ、ただの妄想か……」
存外ほっとしていた僕だった。
「きっとパラレルワールド、言い換えれば『もしも・ザ・ワールド』では妄想が全て現実になっているんだろうな……」
「妄想ってめっちゃ怖ぇ!?」
ていうか言い換える必要、あったのか?
「きっとあの子とその子があんな事やこんな事を……」
「……」
う、打葉、それは反則だぜ!
ゆ、ゆゆゆ、百合だと!? パラレルワールドでか!?
そんな発想、僕にはなかったぜ(この時の僕はただの妄想であることを微塵にしか考えていなかった)!
これは是が非でも考えねば(是が非という言葉を使う人は善悪の判断が付かなくなっている可能性がある)!
嗚呼! なんというパラライズ……いや、パラダイス!
マヒってどうすんだ四手統那……ええいとにかく!
うわ、うわうわうあ。どこかの回路が言語野をショートカットしてるよ。ちくしょう、こんな時にものを考えられなくてどうするんだ!
ゆ……百合、ひめゆり……部隊。
…………
うわああ違う!
沖縄大事だけど! 日本人として戦争の残酷さを忘れちゃいけないけど今の僕の状態とは別の話だ!
百合、ゆり……リリー。
フランキー、は論外として、リリー……
「とーうーなー?」
ス。の時間だった。僕のパラライズは終わった。
キャッチアンドリリース。捕まえてないけど、逃した魚は大きかった……と思いたい。
僕のきらきら妄想オーラ(……吐き気がするぜ)に何か法に触れるものがあったのか、獅子島朱夏サンが僕の名前を呼んだ。
あと、僕をひらがなで呼ぶの止めて! とある魔術の誰かに似てるから! というかむしろそっちが魔導書少女擬きの疑いかかっちゃう!?
……ゴホン。
と取り繕っても僕が慌てているのに変わりはなく、
「え……いやいやまさかこれは会話の流れというやつで僕は神も仏も人も認めるほどに天衣無縫純真無垢清廉潔白天真爛漫なんだ。ナチュラルな感性を持っているんだ!」
状況証拠しかないのに小学生に見つかったアリのようにうろたえる僕。
四×四文字熟語。四手の自乗。
てんいむほうじゅんしんむくせいれんけっぱくてんしんらんまん。
どれも僕がマスターしていない言葉だった。
MPが足りない!
つまり説得力皆無!
そして朱夏は笑顔だった。友好的……の反対、無好的な、笑顔。
アンフレンドリィ。
「だったら地獄からも生還できるはずだよね?」
……やべぇ。可愛い。
朱夏がにっこりしてるよ。
「えっと、それは……はっ!? あぶないあぶない……その笑顔はトラップだった……」
って、
僕がなぜ朱夏にそんな引け目を感じなきゃいけないんだ?
〝あっち〟のことならいざ知らず……
と、僕が描写も忘れて思考に耽った隙に、
地獄の片道切符を、行きは朱夏、帰りは自力で、という具合にちょうど半分ずつ負担していた。……問題ありすぎだ。
それより打葉、おまえいつの間に逃げた……。と、その思考を最後に僕はガクッと意識を閉ざした。
そして僕は倒れている間、閻魔と三途の川の関係について考えていたけど、答えは出なかった。知らないし。
ちなみに、僕の今際の際にはどうやらお花畑が見えていたようだ。
この他にも、例えば家庭科の授業では、調理実習があった。
僕と打葉と筑紫と朱夏で一つの班、という面子だったのだが、どうもこの人選にははね除けられた感しか感じられなかった。
とまあこの日はそんな感じにハイスクールライフを漫喫……満喫していた。
……最後の最後で漫画喫茶かよ。
うっかりして前回の投稿の日付をすっかり忘れてました。ギリギリセーフ……。
できる限りキープしてみたいですね。
十数話>一ヶ月のスパン>また十数話。
うん、この気ままな感じがやりやすいですね。
……ちなみに今回は背景(パソコン版の方だけですが)を適度に変えたり変えなかったりします?