終章フレンド
そして、
「おーおー鬱、元気そうだなあ、良かったぜ」
……締め括りがこいつか。
締めて括ってやろうか……いやいやノリで言った嘘、短縮してノリ虚言だけど。
教室。休み時間。
加賀上(かどうか、実は僕には判断が付かない)が打葉に話しかけていた。
昨日。
どうも、全員頭を殴られたことで気を失い、記憶を失ったらしく(頭殴られて記憶を失うってネタも又聞きだから簡単には信じないで)証拠が出なかった。
というか、打葉という弱者にやられたなどと、皆信じたくなかったのだろう。
そのおかげで昨日の打葉のトイレでの一件は犯人として打葉が挙げられることもなく、また全治一週間以上の怪我人も出ずにトイレのドアが壊れただけの、器物損壊が主立った事件として処理されることとなったらしく、故に打葉が狙われ続けるのも、今のところ、変わりない(代わりに当時不可解な行動をしていた四手統那という人間に疑いがかかっていたということをこの時の僕は知らなかった)。
……というか、打葉、如才ねえ。
記憶をジェノサーイド。
連載再開しないかな……しないよなー。
さて、
元気そうな打葉は、
「あーあー元気元気。今までで一番気分爽快だし気色いい」
「……ぁあ?」
……気色いいって、その言い方が気色悪いな……。
加賀上(?)はそれはもう自分にとって不機嫌なまでにご機嫌な打葉に、表面は完璧に取り繕いながらも、面食らっていた。
打葉はもう隠していなかった。
本音を、本質を、基本を、そして、本気を。
本気になると、このぐらい。
「大体お前らがそんなんだから俺の方に勝手に彼女らが寄って集って俺を利用して当てつけてるってのに、お前らときたら俺を消そうとするばっかりで何にも努力しない、七つの大罪で言うところのお前らは色欲と嫉妬と怠惰と高慢と強欲と憤怒を漏れなくセットしているだけだ。良くてそのそれなりに鍛えられた肉体が暴食を征しているといったところか。そんなお前らに俺は正直迷惑している。もううんざりでうんざりでしょうがない。俺はこう見えても孤高とか独行とかは苦手でな、今までは周囲に――というよりお前らに――迎合していたようなところがあったんだが、まあ多少は周囲に迎合させても良いよなあ俺だって周囲の一部なんだから、というぐらいには最近になって思えるようになってな。つまり、虐められない程度には我を通すことにしてみた訳だ。とはいえここでお前を殴って次を蹴ってその次をぶっ飛ばしそのまた次を叩き落とすということをしてしまった日には俺は退学処分と焼却処分になりかねないからな。そんな訳で今から俺は先生様のところに行って俺のポケットに仕込んでおいた虎の子の録音装置を証拠にお前らの暴力の記録を交渉の余地無く泣く泣く提出し、さらに俺が手伝わされた万引き・器物損壊の件も、俺だけが犯人だったという証言から一転、お前らが主犯だと堂々と宣言するつもりだ。さらに今まさに、さっき訪ねてきてくれたお前さん達の元彼女が俺の近年稀に見るお願いの結果、上手いことくすねてくれた煙草も重要な証拠として今頃提出されているだろう。うーむ、はて? 何か煙草に混ざって片栗粉のような、小麦粉のようなものがあったがあれは何だったのだろうな? さすがのこの俺でも知らないことがあるとは、世の中は狭いようでなかなか広いな。俺はお前らがなかなかに深い世界に、これは矛盾した表現になるんだがつまり、棺桶の用意されない世界という名の棺桶に両手両足、さらには頭を突っ込んでいるみたいで安心したぞ。お前らには第二の人生、つまり果てしなく続く戦いのロードが約束されているんだろうからな。ちなみにこれは今までお前らが口走った真実の断片を千切り取り繋ぎ合わせ継ぎ接いで俺が論理的に一番あり得るだろうと言う可能性を口に出しているだけだから、間違っているたのなら謝ろう。十中八九、まあ十はありそうだがな。まあそれにしても俺はお前らが早く第三の人生に歩めることを祈るよ。さて、ここからは俺のフィールドなんだが、なんとその第二、第三の世界の方に今から適当なところに手配して――」
…………。
……なげー。
「打葉、あいつ、もう逃げ出したぞ」
「ん? そうか、まあそうだろうな」
原稿用紙二枚以上を使う台詞だった。
それに、明らかに相手の人生を破滅させるような言動が後半の方にあったが、僕は絶対に気にしない……。
気にしたら負け、じゃあ済まない。
言がアフターケアにまで及んでるよ……アフターケアっていうか、単なる追い打ちだけど。
ていうか。
法どころじゃないし。法に触れそうだし。
内部告発かよ……あ、法律上はいいのか、内部告発。
程度のひどい被害届ともいえる。
「とまあこのようにして俺はいつでも反撃できた訳なんだが、やっぱり孤独は怖いからな、俺は」
徹底的に、打葉は孤独だけが駄目だった。
僕が離れるかもしれないと、どこかで感じていた不安を抜き去り、拭い去った。
「確かに近寄り難いな……それは」
「味方がいれば、何でもできるもんだな」
今、女性を味方に付けてなかったか?
「それだけ敵も増えるもんだ」
……うわあ。
その内、地球の半分が敵、とか言いそうだ。
「こんなの正義じゃないけどな」
「そりゃそうだ」
正直、少し怖ろしいと思わなかったといえば嘘になるが、頼もしかったのも事実だ。
朱夏は一部始終見ていたが、さすがに水を差す真似はしなかった。
火、だからかもしれないとか、くだらないことを考えてみたり。
「まあ、あんなにするのは最初だけどな」
「最後とは言わないんだな……」
「当然だ。絶対が言えるのは数学と、真に究極まで達した学問ぐらいだよ」
「難しいな……」
僕にはよくわからない話だ。
世の中が相対性理論で通るんなら、成績評価も相対評価にならないのか?
……うーん、よくわからないし、頭の悪さを晒したような気もする。
「なあ」
と、打葉は突然切り出した。
「友達ってなんだと思う?」
炭坑のような問いだった。
……僕に聞くか? それ。
「僕の思う友達は、僕を友達だと思える奴だけだ」
僕も、炭坑のような答えを返した。
「ははっ、絶対どっかで使われてるぐらいにありふれてるな、その答え」
「別に、これでいいだろ」
「そうだな」
という、僕と打葉の物語。
****
以下、語り部のコメント。
以上、本編。
なんか綺麗な形だったけど、これで今回はおしまい。
というわけで、僕の視点ではハッピーエンドだけど、あいつらからすればバッドエンドで、客観的に見れば半端なエンド。
だから、ハッピーエンドでも、バッドエンドでもない。
まあ物語、特にファンタジーとかバトルとかのそれというのは大概そんなものかもしれないけど、全てオンリーワンで、一つとしてナンバーワンは、無い。
……襤褸のようなネタだった。
……ゴホン。
そして、作品と賞されるもの全てに言えるかもしれないけど、大概そういったものの、底辺は溢れるほどありふれているけど、誰もが認めるトップというのは、いない。
だからこれは底辺的な物語だろう。きっと。
ただ、底辺の中で真ん中なのか、角なのか、はたまた底辺ではなく底面で、中央に位置するのかもしれない、もしかしたら次元がさらに飛躍して底時空なんてところにあるのかもしれないけど、結末が読めていたという点で、これはやっぱり底の知れた物語だ。
まあ、面白さの追求で多分にエンターテイメントを補った感だけは否めないけど、読む立場にしてみれば、興奮のない物語だっただろう。戦闘も結局中途半端だったし。
そう思うのならば、やっぱりこれは閑話で、緩和だ。
というわけで、続く。
ええー、まいど馬鹿馬鹿しく、はかばかしくない話にまたしてもお付き合いいただき、真にありがとうございます。
打葉の話です。眼鏡です。イケメンという設定です。頭がよろしいです。反比例して統那が馬鹿やってました。筑紫との漫才もやりました。朱夏は……何やった?(あれ?) 浪雅出てきました。母親と居候が駆け込みましたが父親は間に合いませんでした。そんな話です。
豆のような知識のような話題。
打葉の色(というかテーマカラー?)である、藍鉄、という色ですが、パソコン版のページを見ておられる方には背景の色を変えることでお見せしています。
二章丸ごと藍鉄です。勿論一章は灰色、統那の色でした。
というわけでケータイ版をご覧になっている方は、ぜひ一度、パソコン版の方もチラッと目を通していただけると、今より一味ぐらいは楽しめるのではないでしょうか。
今回はこの辺で。
また、来月お目にかかれるように、頑張ります。