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灰色のバックソード  作者: Hegira
第二人
24/95

調理室ナイブズ

「おお。想像以上に壮絶で、想像を絶するな。四手」

「ふっ、ふ……。こんなの効かないぜ……」


 あれから十四発もの発破、爆砕を食らった僕はようやくいよいよ打葉の所に辿り着いた。

 ここは家庭科の調理実習で使う、調理室と呼ばれているところで……まあ、ガスと水道がテーブルごとに通ってると言えばあとはもう、十分か?


「事前に実証済みだったからいいが、やり過ぎるのはよくないな」

「え……自分で試したのか!?」


 何?

 打葉って基本一周回って馬鹿なの?


「まさか。迷惑のかからない場所で威力と効果範囲を算出して自分の強度ならどのぐらい耐えられるのかを計算してそこから標準誤差と系統誤差を現実的な範囲で考え、個体差をとりあえずお前に当てはめて理想的な破壊力を持った物に仕上げただけだ」

「……な、何? 現実と理想?」

「確かにそんな単語は言ったがな。まあ、適当に言ったことには違いない」


 違いないのかよ。

 と偉そうにしていた僕は、差が何回も出たところから理解が微妙だった。

 ともかく……本当に計算したのか?

 なんか打葉だから、無闇に信じるのは良くないような気がする。詐欺られそうだ。学者みたいな人の嘘は専門家じゃないと見抜けないし。

 ここでどう騙すのか、微妙だけど。


「とにかく、俺は被験していないから実際にどうなるかは究極的にはわからなかったけどな」

「そんなもん人に使うな!」


 治ってるけど!

 痛いで済んでるけど!

 治療費も請求できないけど!

 慰謝料は貰っておきたいな、っと!


「そういうお前もその左手に持ってるのはちょっと頂けないな」


 打葉は僕の左手を指差した。

 ……おお、逆転裁判のロゴになれそうだ。

 もしくは名探偵新一。見た目は高校生、頭脳は大人の方。

 だとしたらその指差す犯人は……やっぱり僕だよなあ……。

 ……ゴホン。

 指差されたその手には、カッターナイフが握られている。


「まあ、お互い様だろう」

「いや、そっちの方が法律違反だろ。爆弾製作って通報モノだろ?」

「大丈夫だ。これは飛行機には持ち込めない」

「持ち込むな! しかも『これは』って止めろ! 他にあるのか!?」


 どうでも良い方向に話が転がりつつある。

 ……僕ここに何しに来たんだっけ?


「小麦粉と金属の腕時計と眼鏡さえ持ち込めればきっと粉塵爆発できるが……問題は小麦粉を怪しまれないようにすることとどうやって拡散させるかだな」

「腕時計と眼鏡で火花出るのか!? それ以前に小麦粉は却下されるだろ!」

「材料を選べばそれこそ火打ち石も目じゃないのができると思うぞ?」

「頼むから自爆テロは止めてくださいお願いします!」


 頭を下げる僕。

 土下座はしないけど。


「いや、いいんだが。まあ、仮にも戦いの途中なんだから目は逸らさない方が良いと思うぞ。特にお前、今は隻眼なんだろ?」

「…………」


 普通に気付いてた。

 どこにそんな判断基準が……。


 ……ところで、

 隻眼って格好良くない? こう、響きとかさ。

 それに独眼竜だよ? 伊達正宗だよ?

 伊達ってここから来てるのか?

 いいなあ伊達。僕も名乗ろうかな?

 伊達統那……字面は変わったけど音はそんなに変わってなかった。

 うーん、四手と伊達だもんなあ。

 行を一つずらして段を一つ上げて濁点付けるだけだもんなあ。

 そんなに変わらないか。


 これぞフリートーク。


「お前が何に反応してぼんやりしてるのか俺には何となくわかるが、それは締まらないぞ」

「いや、わかってはいるんだけど」


 僕のスタイルというか、スタンスというか。

 スタンドではないけど。風の噂でしか知らないし。


「それと理由を言っておくと、お前はさっきから意識しない程度にだが左半身が若干前に出ていて右バッターみたいになってたからだ」


 お見通しの見透かしだった。

 お見落としの僕とは全然違う。

 昔々、あるカードゲームでなにかの化石から進化する貝のモンスターの特殊能力をおみおとしと読んだ、僕なんかとは。

 それに隻眼のことを指摘するぐらいだから、事実上隻腕であることもお見通し、なんだろう。


「さて、やることはいくつかあるが、調理室に来たからにはまずはこれだろう」


 そう言って、打葉はあらかじめ元々の置き場所から取り出していたのか、包丁を二本持ち出して構えた。

 ……いや、それ調理室と言ったら〜、に続かないって。

 バナナと言ったら釘が打てる、ぐらいに飛躍してる。極寒の世界や殺伐とした領域なら通用するかもしれないけど、ここは平和で温暖な日本です。と今の状況を棚上げにする僕。

 とはいえ、

 それなら僕の戦える分野だ。

 いや、打葉が僕に合わせているだけか。

 そして、

 僕との間に三つ横に並んだ水道とガスコンロ付きの長方形のテーブルの上を一歩ずつ跳んで打葉が僕に切りかかってきた。

 僕は一見頼りなく、また、折れそうなカッターナイフで応戦する。

 結果、太刀打ち、できた。


「くっ……!」


 ぶっつけ本番だったが、打葉の刃の向きに垂直に立てることで何とか折れずに鍔競り合いに持ち込むことができた。

 どっちにも鍔なんてないけど。

 保証はどこにもないくらいにそりゃあそうじゃ、な話だけど。


「それは、自前じゃないのか?」

「さすがに家から持ってくるのは、気が引けたんでな!」


 そんなことを言い合う僕ら。

 やっぱ鍔競り合いになると喋るよな。普通。

 しかもさっきよりまともなことを話してる!

 意外な感動!

 ……ゴホン。

 ここで初めて気付いたのだが、片腕の力なら僕の方が上らしく、打葉は二本を交差させて僕のカッターを受けていた。


「お前、そんな才能があったんだな!」

「おまえ、そんなに才能あるんだな!」


 …………。

 すげえ!

 『お前』と『おまえ』ってこの為の伏線だったのか!

 字数一緒!

 などと感動する僕を余所に、打葉は次の行動に移る。

 後ろで支えていた包丁を外した。同時に僕のカッターが押し込むが、手応えが弱かった。

 競り合っている方の包丁が時間差で引いていた。

 受け流しだと、直感した。

 下手にここで打葉を狙うと、ご存じ切り合いには向かない強度のカッターの刃なので、受け流しの包丁に折られてしまう危険があった。

 かといってこのまま押し切っていると自由になった打葉の左の包丁が僕を切るだろう。

 ……よし、決めた!


「――っせい!」

「来たか!」


 僕は打葉の右を押し切り、思い切って弾き、打葉の左が僕の右腕を切りつけ――返す刃で僕のカッターが打葉の鳩尾(みぞおち)の高さを逆袈裟に切り上げる。

 カッターナイフが、肋骨を一回で断ったことに僕は少なからず驚いた。

 ……これ、切れ味云々の問題じゃないぞ!?


「ぐっ……やるな!」


 肉を切って骨を断たれた打葉は一旦跳び退いて自分の怪我を確認し、僕の『切り傷』に対する耐性ほどじゃないにしろ、回復しつつあるのを見て僕の方を向いた。

 対して肉を切らせて骨を断った僕は――


「っ……かっ!?」

「四手!?」


 よくわからないけど、


 突如動き出した『右手』に、首を絞められていた。

 逆らうように。


実際こんな方法でテロなんて出来たらおかしい世の中なんですけど、よい子は真似しないで下さい、と警告しておきます。一応。

ところでああいう警告(『よい子は真似しないデネ♪』の類)を見て真似をするなと言われるのはやはりよい子なんですが、最近その文を見ると、よい子はよい子でも、『頭の』が暗示されていないか? と思い始めるようになりました(まあ誰かがとうに思いついていそうなものですが、自分は齢17になってようやく思いつきました)。

内容にもよりますけど、年少向けの警告の場合、真似るのはそれが悪い子ばっかりですし(頭が良い子というのも珍しいですが)、そう思うと何か悲しくなります。

で、何が言いたかったのかというと、よい子の『よい』はグッドなのかウェルなのか、タチの悪い子の自分にはさっぱりわからん、ということです。

……なんでしょうねこのどうでも良い話。

段々後書きがカオスに……。

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