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灰色のバックソード  作者: Hegira
第二人
19/95

体育館クロスファイア

 はっきり断言すれば、僕は基本的に運動音痴だ。多分、幼稚園児とタメを張れる(勿論高校生の僕が、だ)。

 いやいや昨日あれだけ切った張ったの立ち回りをしたじゃないか、という意見もあるかもしれないが、あくまであれは条件付きの例外だ。

 これは僕が銃刀法違反を犯している理由なのだが、おかしなことに――つまり自分で自分がおかしいということは既にわかっているのだが――僕という人間は刃物を持っていないと、様々な意味でトロいのだ。

 これこそ僕の大問題、大命題で、目下コンプレックスになっている。

 ……どっちにも口があるということは、これはもしかしたら(しな)い話かもしれないけど一応聞いておいてほしい。

 まず、この『持つ』という言葉がまた微妙なのできちんとここではっきりさせておくが、僕が普通と何ら変わりなく生活できる境界線は、着衣のポケットや懐に入れるまではセーフ、鞄に入れるところからアウト、といったところだ。

 それでアウトの時、僕は(にぶ)くなり、(のろ)くなり、とても十代とは思えない思考速度の遅さと運動神経の悪さを発揮……というか(さら)け出す。

 例えば、体育の成績。……以前成績に触れた事があったけど、あれは筆記試験のある科目限定だった、という言い訳をさせてほしい。

 どれだけ頑張っても、10段階で3以下。

 しかもフィジカルな面の他に取り柄があるわけでもないからもう救いがない(学習の能力は頑張って中の上、その程度であることは最初に言った)。

 もっと具体的に言えば、例えばバスケットボールでは、シュートはおろかキャッチやドリブル、ポジショニングに至るまで全てが全く全然使えないので、それはもうまるでバイキン扱いだった。

 かびるんるんの役にも立たないぐらいだから、破格の査定だよなあ……。

 そう言えば、『使えない』と言う表現は中学のクラスメートにさんざん言われたのだが、正直言われる度にイラッとくる台詞の一つだ。別におまえに使われる為に生きてるわけじゃねえよ、つーかおまえ使われてみろよとも言いたくなる。まあこれは個人的なこだわり。

 そして、それ以外では至って普通だったので(いや校舎裏とかではちょっと逸脱したこともあるけど)体育に関して四手統那は、やる気のない、むしろやる気の出ない生徒、という認識で通っていたように思う。あとは、一部で近づかない方がいいと、囁かれるぐらいだ。

 さてここまで口上を述べるからには何か意味があるんだろうなあ? ええ? と言った声も聞こえてきそうなので、そろそろ理由を説明し、「」の登場する文を披露しなければいけないだろう。

 今まさに、その問題の体育の時間なのだ。

 この時間、刃物を隠し持ったまま一年間やりきる自信がないので、僕は無手である。四手なのに(笑えないジョーク)。

 それより、普通、日本の市民は武器を所持しない(警察とかが普通でないと言っているのではない……とか但し書きしとかないといけないんだろうなあ、今時)。


「そぉらぁ!」


 種目はバレーボール。

 あえてルールをつらつらと書き連ねることもないだろうけど、一応、サーブ権は得点で移り、移る毎にサーバーの順番が回って、1チーム六人であることぐらいを言っておけばルールの誤解は無いように思う。あと、僕と打葉はチームがわかれている。

 あとは勝手に補完してもらえれば僕としては十分。活字は妄想が勝負だ。


「……っ、……」


 打葉が体重の乗った相手のジャンプサーブを打ち返した。

 ――ところで打葉と言えば、中学時代に何人も彼女がいたという噂が立っているが、本人に聞いた限り、それは嘘、というのが僕の知る真実だ。実際打葉は週単位で僕とモンハンをやっていたから(何故かプレー中の話題はテイルズに及ぶ。どれぐらい暇なんだろう)、そんな暇はなかっただろう。


「へいトス!」

「おらもう一丁!」


 打葉が一発で返球した山なりのボールを楽々繋ぎ、アタックを余裕で決めた。それは真っ直ぐ打葉に向かう。

 ――だが、噂が立つというのも厄介なことで、打葉のその整った容姿のせいで彼女の心……、僕はこの(こころ)という字の読み方が嫌いというか怖いというか、遠ざけたい言葉――特に名前にだけは読みたくない読み――なのだが、まあ今はいい……。とにかく心、が次第に離れ結局別れちまった〜、という被害の心理は事実と創りものが混ざりつつも実在しており、男の癖に女々しい奴ら(差別感ばっちりの表現だ♪)はそうしたことに対して背徳から目を背けた嘘っぱちの正義感、という故意の錯覚を連帯し、連帯しているのに無責任な行動を起こしている。そしてさらに無関係な奴はまた、行動を起こしすらしない、と僕は認識している。

 最終的に、奴らにとって火種はどうでもよく、既に今となってはせっせと薪をくべているだけの単調な行為でしかないのだろう。

 ……ありゃりゃ、柄にもなく真面目に語ったよ。やっちゃったよ。

 まあ要するに、僕はあいつらのやっていることに納得していない。


「っ……」

「あーあー鬱はやっぱりダメだな。トスもきちんと出来やしねえ」

「もっとちゃんとやれよー?」


 僕の見る限り、打葉はちゃんとふんわりと、さらに無回転ボールでレシーブという高等テクまで見せたのだが、前衛の奴らは首と視線を傾けるだけで、ある意味息のあった動きをするだけだった。

 ――鬱というのは、そのまま字の如く『うつ』で、打葉の……まあ、ここではばかっても仕方ないだろう。

 つまり、別称であり、蔑称だ。称号とも言う。

 まあ、蔑称はほとんど別称の部分集合みたいなものだけど。

 しかし、その鬱という呼び方に僕が抵抗を示すかと言えばかなりの嘘で、僕的にはかなりハマっている(無論、可笑しいという意味ではない)。しかし、ただ、もう一つ、いや――ほとんど足りない。

 それは余談というか、わかる奴だけ共有してくれればいいのでここでは言わないけど。

 物語を楽しむ隠し味、というか、まあそんなところで。

 僕が『こころ』という読み方が嫌い――むしろ怖い――なのも、ここにあって、別に夏目漱石を毛嫌いしているわけでも、誰か特定の個人を誹謗中傷しているわけでもない。

 これは『僕はこういう人ですよ』という表示であって、単に僕の感性の問題だから、誰かに押しつけるものでもなければ、勝手に取り入れるべきものでもない。

 だから、これ以上詳しくは教えられない。

 しつこく弁解すると、『心』という字の持つ意味はそれなしでは何も語れないほどに素晴らしいと、僕は思っている。

 こうでもしないと、最近、差別疑惑にうるさいからなあ……。

 それにしても、……まさか称号の話でここまで行くとは思わなかった。

 さて、振り出しに戻る。


「…………」

「さあ次だ次ー!」

「あと22点。遠いなあ!?」


 そしてその肝心の、というか主人公という立場でしかない、しがない僕なのだが、前述の通り残念な無能なので、言うことは出来ても、この時間は聞いてはもらえない。でもまあいつもの打葉ならこの後で平気な顔――それが仮面でないとは言い切れないが――を僕に見せるので僕は黙ってこの時だけは見過ごすしかない訳だけど。

 ――……打葉が助けを求めたらいつでも切りかかる覚悟は出来てんだからな? おまえら。

 物騒な考えだが、僕はそのくらいには打葉に対して友情を感じているのだ。さすがに同性愛……は期待する奴はいないよな……何かもう痴漢の冤罪ぐらい怖いよこの話題。いちいち友情にケチ付けられそう。

 とか、被害妄想に陥るのが最大の被害だったりして。

 さて、もう必要な分は説明したので、これ以上描写して打葉の苦しみを表現しても気持ちよくはないだろう。

 ……もっと語らないと伝わらないというなら、もう実際に体験するとかしてほしい。まあ、打葉も(こな)れたもので、強かに凌いでいるので、この話自体はあまり参考にならない例だけど。

 そういうところとか僕のこの対応が、世間一般じゃないところなんだ。

 とはいえ、僕も小学校の頃に受けて、打葉の苦しみというものの一部はわかっているつもりだ。

 僕はそういう意味では、打葉の先輩だ。

 まあその頃は運良く不知火に助けられただけで、僕が実際にどうしたということはあまりないんだけど(僕がやっているのは筑紫の模倣だ)。

 こういう時、往々にして大人の先生が注意するはずなんだけど、今一つ押しが弱いのでその場凌ぎにしかなっていない。まあそれにしたって高校生っていうのは、一番御しにくいような気がする。


「全く、やりきれないよな、四手」


 とにかく、これが麻倉打葉の現状を、端的に表した一部である。

 以上、ネット越しの中継でした(これ、掛け言葉ね)。


心という名前ですが、あくまでこの作品の世界では統那が怖れる、というだけで深い意味は無いです。作者の知り合いには今の所、『こころ』という名前の人は一人もいません。

刀七、の延長、というか短縮です。言葉遊びではなく言葉ふざけです。


ものの名前が架空である、小説の後書きで言うのもなんですが、

後書きを書きながら、ふと心って他にどんな名前があるんだろうと思い、まあ『しん』とかならあるよな……と検索すると、(本当かどうかはともかく)やっぱり予想の斜め上の方々ばっかりでした。

名前をキーワードに設定するの、間違えたかな……? と、物書きの一人としてかなりプレッシャーを感じた経験でした。

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