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灰色のバックソード  作者: Hegira
第一刀
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色採アブソーバー

 両腕に虚白を握んだまま、八木はにたりと笑う。にたにたと笑う、でもいい。したり顔は……語感は近いんだけど、外していた。


「よー、やーっと来たか。さっきの邪魔者も居ねえみてえだしよ……ちょっと話そうや。そこの女子高生じゃない方」


 ……八木のカテゴリでは僕は部分集合なのか?

 とりあえずそれは置いといて、無難に僕は身構えながら次を待つ。やがて八木は片手を自由にし、僕を指さした。

 放された虚白は、元の色を失い、偽られた色で、歩きだし、見えなくなる。

 もしここでこんな目に遭わなかったら、その先にどんな事が待っていただろうか。そのことを思うと、ぞっとするより先に、切なくなった。


「…………」


 今度は大丈夫だ。

 もう僕の精神は畏れたりしない。

 ……一人じゃないからだろうか?

 まあ、それでもいい。悪くない……よな?


「おまえも『そう』なんだろう?」


 『そう』とは、色採の事を言っているのだろうか。

 そう分かっていて、僕はしかし反発する。

 誰がこんな奴と、同じなものか。


「……少なくとも僕はそっちと一緒にはされたくないね」

「……あーあー。全く、連れねえなあ」


 そう言って、もう片方の手をぱっ、と放した。


「おまえ、何で俺がこんな事してるか、分かるか?」

「……!」


 その言葉に――朱夏が反応した。僕が分からないという表情を作る前に。


「おっと睨むなよ女子高生。まさか何も知らないなんてのは、とても可哀想だろ? その点、俺は親切だから教えてやんのよ。アーユーアンダスタン?」


 その英語、日本ではバツが付くぜ。そう心で付け加えて置いた。僕は野暮ではない。

 さーて、と八木は前置いた。


「『俺ら』が何でそんな事をするのかは、分かってねえな?」

「……それがどうした?」


 まあ、怨恨の線は薄いだろう。


「おーいー、そう急ぐなよ。結論なんてのはすぐに出んだからよ。俺はな、こいつらを『食ってる』のさ」


 さらりと事実を述べた。


 僕は、衝撃を受けた。


 食うという表現に。


 この男は言った。


 人を食べると。


 自分の為に。


 食うとは、


 つまり、


 採取?


 色。


 ……色採とは、そういう意味なのか?

 畜生、なんてネーミングだ。

 僕は不覚にも思考を少し止めてしまった。


「食うのは気持ちいいぜ。力が溢れてもう、しょうがないったらねえ」


 そう言う八木の全身から、依然として、いや、以前よりも光のような狐色が漲る。

 間違っても、後光のような神々しさ、まして禍々しさもないのだが、圧倒的な雰囲気は、感じられる。


「食うって……」

「ああそうだ。食ってんだよ、コレ。つっても俺が勝手にそう言い表しているだけでだな、まあ、かなり強くなれんのよ」


 八木は、遊びなのか、力こぶを作った。

 ……そんなことの為に、こいつは、人に迷惑をかけるのか。

 そんな奴の為に、僕は命を狙われているのか。

 僕は、絶対に、自分の都合だけで他人を害するこいつを許容する気にはなれない。そして許容する奴は僕が許さない。

 今決めた。未来にも決めた。

 若い思想でも構わない。うらぶれるまでは突っ切ってやる。それでナンボだろ? 若さって奴は。


「こうしていると、腹も減らねえし、そこらの店から金銀財宝ざっくざくだし、やりたい放題でよー。もうつまらないくらいに面白えぞ」


 説明しながら、満ち溢れる自分の力を見せつける八木。

 仮物で、借り物な力で、人の存在をぞんざいに扱う。

 まあ、その事自体に怒るのは、僕ではなく――勿論僕も許さないが――、隣の、獅子島朱夏だ。

 僕のスタンスなど、朱夏に比べればきっと甘っちょろい掬いのような救いだろう。

 朱夏の道徳は、こんな事が存在する事そのものを許しはしない。


「ふ、ざ、ける、なぁあああああ!」


 揺らめく紅蓮の髪を、火の粉と共に煌めかせる朱夏は、掌を八木に向け、そこから炎を奔流の勢いに乗せて走らせ、八木の上半身を焼き包んだ。

 しかしこれが効かないのは、僕も既に目撃済みだった。

 一秒、数秒、十数秒と炎が過ぎ、ようやく橙のぶちまけられた画は元のグレーゾーンに戻り、上半身が裸の黒こげになった状態で、八木が姿を見せる。


「……最初っから無駄だって言ってんのに、分かんねえのか? 女子高生」


 また、ウロコが八木を守り、ぼろぼろと散った。

 改めて見ると、ウロコはびっしりと八木を包んでおり、その様は鳥の羽毛の並びのようにも見える。

 ……成程。こうやって僕の前に出てきたときはワイルドだったわけか。


「…………」

「もう俺が形取りって名乗ってんのは分かってるんだろ? だったら俺の〝竜鱗〟を破れないって、いい加減認めたらどうだ?」


 顔に付いた(自称)竜鱗を手でぱりぱりと払い、細かに落とし損ねながらも元通りの顔を見せた。

 朱夏はそれを見て、


「別に無限だとは決まっていないんだから、無駄じゃあない」


 諦めていなかった。

 ……昔っからだよなあ。挫けないの。

 しかし、だからといって常勝無敗という法則は、ないのだ。

 八木は、余裕を崩さず、肩を鳴らした。


「確かに無限だと言った覚えはないがなあ、今、俺は『食後』だ」


 ……つまり、お腹は一杯である、と言いたいらしい。


「『腹が減った時』なら分からねえけど、まずスタミナは比べ物にならないよな、っと!」


 地面を罅割り、台詞のかけ声そのままに八木は踏み出した。

 鳴らした肩の先、黒光りする手が朱夏まで届く、二メートル。


 すなわち、僕の出番だ。


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