序章モノローグ
新学期。四月の始め。
高校二年生になって一週間、僕こと四手統那はおよそ平凡と言って差し支えないであろう平穏な生活を送っていた。
家は母方の祖父母の代からある、築四十年の一戸建て。
家族構成。
変な名前の典型的な企業戦士で、普段は朝早く、夜遅い父と、自分で褒めるとなんか言われそうだけど、凛々しい容姿ながらも、やさしい雰囲気を持った専業主婦の母、あと、今年から中学生になる義理の妹……じゃなく、家族で面倒を見ている小動物のような居候の四人暮らしだ。
立地の良いこちらは両親に譲って、じいちゃんばあちゃんは僕が小学生のときに田舎に隠居した。
成績。
あまり言いたくないな……。
中学からそこそこというか、中のちょっと上をキープ。これは単に赤点を回避するのをいつも目標にしていたからだ。
クラスでの人間関係。
……ここに言う他にも普段から雑談する人はいるけど、特に話す友人をここで挙げておく。
一年からのクラスメートである麻倉打葉、小学校からの腐れ縁の不知火筑紫、その二人などがよく話す友達だ(前者が男で後者は女)。今の所、特に誰と上手くつき合えない、そりが合わない、と言うことはない。
むしろ、ここでは彼女という存在は生まれてこの方いたことがないってことの方がむしろ大事だろうか? まあ、この辺は前の席に座っている獅子島朱夏なんかがきっととっくに彼氏持ちなんだろうな、と勝手に妄想することぐらいしか僕にはできない。
そんな風に僕という人間は、適当に周りに合わせて、なんとなく周りに流される。そういう生活を繰り返してきた訳で。
他人と違うところはあったけど。
でもそれは個性と言えるだろう。
そんな事で、日常は揺らがない。
信じてないが、そう思っていた。
そう、あの頃の僕は他人と違うところはあっても、それは些細なものであって、そんなもの、平穏な人生の道から逸れるものではないと、思っていた。
信じてはいなかったけれど。
そして、その日、
僕は至って普通に帰宅しようとしていた。
明日は何をしようか、あの授業は先生が厳しいから眠れないな、春休みにゲームをほとんど消化してしまった、そういえばマンガの新刊を買っていなかった。
夕方にさしかかるにはちょっと早い時刻、僕はその内のどれだったかも思い出せないようなことで呆然と歩いていた。
その時、
その瞬間に、
日常が、当たり前だと思い込んでいた日常が、鮮やかに、あまりにも無機質に塗り変えられた。
いや、
塗り潰された。と、言うべきか。