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過去に囚われず、あなたと向き合う

 衝撃的なサーシャの発言があって、突発的に始まった女子会は解散となった。

 ルルは頼まれていたケーキ、『モンブラン』を受け取って帰った。何度も何度もヴァレリーとサーシャに頭を下げながら帰っていった。遅くなったから侍女長に叱られると青い顔になっていたが、そんなことはないのだ。今回の会合はサーシャが侍女長に持ち掛けた話なのだから。


 ヴァレリーは今まで知ろうともしなかったルルーシュの過去を知り、謝り続けるルルに向かって、今度謝ったら無理やり友達になるわよと脅したところ真っ青になっていた。

 ルルーシュのした事は許せないが、その後矯正施設での実験に協力させられたと聞いて、若い娘が受けた屈辱的な実験を想像して辛くなってしまった。

 おそらくだが、前世の知識を活かしてみたら鼻の下を伸ばした男子生徒たちがルルーシュを持ち上げ、持て囃してしまったので調子に乗ったのだろう。本人もそう言ってたし。


「過去に囚われていてはいけないわね」とヴァレリーは思う。

だから、今度はエルンストにちゃんと向き合おうと思うのだった。

 ウィリアムと婚約している時は、冷たくされていた事もあったが、彼の事を知ろうとしなかった。その態度に理由があったのなら、向き合って話し合って納得してから婚約を円満に解消しても良かったのではないかと思うのだ。 

 傷ついたのは自分だけではない。


 ヴァレリーは自分の方にも悪いところがあったと、小さく肩を落とした。以前、王城の庭で逆恨みした不逞な輩に絡まれた時に助けてくれたウィリアム。お礼もそこそこに彼を拒絶した。それは狭量で自分本位で。


 あの婚約破棄騒動は、わたしには落ち度が無いのに巻き込まれて迷惑だと思っていたし、弱い魅了に掛かったウィリアムを軽蔑してしまったけれど、彼をそこまで追い込んだ一因は自分にあったのかもしれない。


 ああ、なんだか恥ずかしくなるわ。ヴァレリーの心の中で身悶えた。


「それにしても、サーシャとウィリアム様が単なる友達で、ウィリアム様の愚痴に付き合っているだけだなんてね。

 そして、ウィリアム様とルルの間を取り持とうとしてるなんて、驚きだわ」




 エルンストがヴァレリーに婚約を申し込んでから2ヶ月。何故か話は進まないけど、2人はそれなりに親しくなってきていた。何しろ両家が乗り気なのだから、後は国王の承認さえ得られれば良いのだ。


 はっきりしない態度の国王に業を煮やしたポロック家当主エイムズは事情を知るアレンビー伯を連れて国王レナウスに謁見を申し込んだ。


 そしてエイムズは密かにそうではないかと思っていた事実を知ることになる。それはヴァレリーの生みの母が自分の姉であるという事だった。

 何しろ成長するに連れて似てくるのだ。レナウスから赤ん坊を託された時に、母親は姉上ではないのかと直感したことは間違えていなかった。

 しかし、その後の話はまさに衝撃で、エイムズは暫くその場から動けない程であった。何故なら死んだ筈の姉、ヴァレリーの母親である姉は死亡しておらず、実は生きていると告げられたのだから。


 では何故、レナウスは然るべき手続きを取って姉を側妃、或いは愛妾として迎え保護しなかったのか?結婚して他国へ嫁いだとはいえ、子を成すような仲なのだ。何かやり様があったのではないか。

 それに姉は流行病で亡くなったことになっており、感染を防ぐためにすぐに埋葬されている。姉は実は生きているのではないかという疑念は晴らされてものの釈然としない。

 むくむくと湧いてくる疑問と姉や自分たち家族を蔑ろにされた怒りに、エイムズは相手がこの国で一番の権力者である事も忘れて詰め寄ろうとしたが、ジョージ・アレンビーに止められた。彼は王個人に雇用されている為、人払いをした密会などでは護衛も兼任している。何か起きた場合間違いなく斬られるだろう。例え友人であっても、忠誠を尽くすのは王家だとばかりに、たとえ友人であっても何の躊躇もなく斬れる男、それがジョージだ。


 そしてエイムズは国王の言葉にさらに驚愕する事になる。


「ヴァレリーは私の娘ではない」


「どういう事ですか、それは?」


 レナウスは机上に小さな魔道具を持ち出した。それは誓約の魔道具である。エイムズとジョージを信用した上で更に秘密厳守の誓約を課して、漸く知る事の出来る真実を語ろうとしていた。

 国王であるレナウスが、おそらく国を揺るがす事態になる秘密を彼らに打ち明けようとしている。


「念の為だ。問題ない時が来れば誓約を解く」


「そうまでして守らねばならない秘密がヴァレリーにあると、陛下はそう仰るのですか」


 国王レナウスは重々しく頷いた。



「ねぇ、貴女はどうなの、ルル?」


「どうと言われましても」

 ルルは面倒臭い絡みをしてくるサーシャに辟易していた。


 彼女は何日かおきにアレンビー家を訪ねてくる。ウィリアムに会うのが目的ではない。ウィリアムがいない日にもやってくるのだ。


 口煩い侍女長はサーシャに何も言わない。ウィリアム坊ちゃんのお相手だと思っているからだろう。使用人たちも丁寧に接しているのはそのせいなのだろう。


(ウィリアム様の事を好きでもないのに。サーシャ様は一体何をしたいのだろう?)


「だから貴女よ!貴女の気持ちが大事だと思うのね。好きだから魅了をかけたのでしょう?」


「いえ……ですから貴族の家に嫁げるならどなたでも良かったと、何度も申し上げているではないですか。

 サーシャ様、お願いですからもう勘弁してくださいませ。わたしはただのメイドなんです。ウィリアム様とは全く釣り合いませんし、わたしの犯した罪のせいで、ウィリアム様から蛇蝎のごとく嫌われているのです」


(お願いですから、これ以上惨めな思いにさせないで)


 ルルは必死で頭を下げた。もう許してくださいとばかりに。

侍女長でも誰でもいいから、わたしに仕事を与えるために来てくれないかしら、と内心で願っていた。


「ああ、貴女にそんな顔をさせたいわけじゃないのよ。ごめんなさい。ルルの気持ちも考えずに勝手に話を進めようとして。

わたしってどうもお節介で、早とちりなところがあるのだけど、断じて言うわ。ウィリアム様は貴女の事を意識しているわ」

……

「それは魅了を掛けて婚約破棄騒動に巻き込んだ、憎い女だからでしょう?」


「もう、鈍いわね。貴女は罪を償ったのだから幸せになっても良いと思うのよ?」


 サーシャに悪気はないが、その言葉は心をざっくりと抉り、ルルは悲しくて苦しくて泣きたくなった。


 無理よ。孤児で平民のわたしが王立学院へ通えただけでもありがたいのに。

 サーシャ様は悪い人じゃないけど、強引で強気で美しくて輝いていて……。

 わたしだってサーシャ様のような力のある貴族の家に生まれていたら、前世の知識をもっと人の役に立つように活かしたかったし、好きな人からも対等に相手にしてもらえたかもしれない。でもサーシャ様とわたしは生まれた時から持っているものも立場も違うのよ。恵まれた貴女にわたしの苦しみなんてわかるわけがないわ。


 黙り込んだルルを見て、ちょっと煽りすぎたかしらとサーシャが戸惑っていると、アレンビー伯がサーシャを呼んでいると言って家令が呼びに来た。


 ルルがほっとしたのは束の間だった。

 その夜、ウィリアムが警備中に怪我を負い意識不明のままアレンビー家へ運ばれてきて、ルルの心中に大きな嵐が吹き荒れたのだった。





 


お読みいただきありがとうございます。


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