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これはいわゆる女子会では?

お待たせしました。

なかなか進まなくてすみません。

 コリーン家とポロック家の婚約は一旦棚上げになったが、両家ともに諦めてはいない。

 コリーン家は、女性に興味がある素振りを見せなかった嫡男が、この人が良いと選んだ娘を絶対逃したくないし、ポロック家は国王の個人的な思惑で入れられた横槍に憤慨している。今更何だと言うのだ、ヴァレリーの幸せの為にもエルンスト・コリーンとの婚約を絶対に認めさせてやると鼻息荒い父に、当事者のヴァレリーは呆れ顔なのだが。


 エルンストの事は嫌いではないし、断る理由も見当たらない。そもそも貴族の家に生まれたからには、自分の感情だけでは婚約も結婚も無理なのだと理解しているのだ。


 ウィリアム・アレンビーとの婚約は初めから解消ありきだったと父から聞かされた。それならば卒業式で婚約破棄を叫ぶなど、馬鹿な事をせずとも良かったのだ。ルルーシュの魅了に掛かっていたとは言え、それ程ルルーシュの事が好きならば、正直に話してくれれば良かったのだ。


 好かれてはいないのは知っていたが、ウィリアムに憎まれていたのかもと考えると、ヴァレリーは恋愛に臆病になってしまった。だからなのかエルンストの好意を疑う訳ではないが、心から信じる事が少し怖い。

 

 しかし、家族を安心させるために婚約して結婚しなければならないのならエルンスト様が良い、と思える程には好意を持っている。

 婚約は留め置かれているが、ヴァレリーがオーナーである菓子店ジュエラスの上客となったコリーン侯爵家の人たち、サーシャや侯爵夫人とは、ジュエラスの個室でお茶をしたりと交流は深めている。

 コリーン家が周囲を固めて来ているのを知ってか知らずか、ヴァレリーは今日もサーシャと2人で新作のケーキを食べているのだった。



「まあ、この栗の甘露煮のペーストを細く巻き付けたケーキは初めて見たわ!」


「そうでしょう?甘露煮と言ってもバターやクリームを加えてあるからただ甘いだけではないのよ。お気に召して嬉しいわ。

 ところでサーシャはこの店には良く来てくれるそうね。聞いているわよ。あの人と一緒なんですってね」


 さりげない発言だった。ヴァレリーの表情に特に変化はない。『あの人』がどの人を指すのかわかっていたが、サーシャは敢えて素知らぬ顔で尋ねてみる。


「あの人?誰の事かしら?こちらの優待のパスを頂いてから色んな方を連れて来ているものだから。どなたかしらね」


「わたしに遠慮とか要らないのよ。既に何年も前に解消されているし、あの人に何の感情もないから。サーシャがあの人を気に入っているのなら良いご縁じゃないかしら」


「まあ、ヴァルったら。わたし、一言も口にしていないのに、あの人ってまさか、ウィリアム様の事なの?」


(ヴァルって呼ぶのはウィリアムだけだったわ。特別な呼び方をさせて欲しいと言われて。サーシャがそれを知っていると言うことはやはり2人は親しいのね)


「ねぇ、貴女達お付き合いされてるの?」


「どうしてそんな事を聞くのかしら?ああ、そんな顔しないでよ。責めてるわけじゃないわよ。ヴァルにはお兄様の事だけ想っていて欲しいのよ。ウィリアム・アレンビーの事なんて思い出さないで欲しいわ」


「違うわよ、気になっただけよ。

 だって、アレンビー家にはあのルルーシュ嬢が暮らしているのでしょう?ウィリアム様は魅了に関わらずルルーシュ嬢の事がお好きだったから、卒業式まで魅了が解けなかったと聞いているわ。

 それが今でも続いていたら?そしてサーシャが巻き込まれてしまったらと考えてしまったの」


 珍しく感情的になったヴァレリーをサーシャはじっと見つめた。


(ウィリアムに対する恋愛感情は無いと見て良い。でも引き摺ってはいる。自分に魅力が無いから婚約中の態度も冷たかったのだと信じている。

 浮気者のウィリアムとわたしが仲良くなって、自分の時と同じように切り捨てられたら許せないと、どうせそんな事を考えているのでしょうね)


「大丈夫よ。ご心配には及ばないわ。ありがとう、貴女のそのお気持ちが嬉しいわ」


(どちらかと言うと、ウィリアム・アレンビーの身の上を心配してあげた方が良さそうよ?だって彼、思い切り巻き込まれているもの)


 その時、使用人が来客を告げ案内して来た。


「あ、漸く来たわね。貴女に会わせたい人がいるのよ、ヴァル」




 どうしてこんな事に。

 ルルことルルーシュは顔色を無くし突っ立っていた。勤め先のアレンビー伯爵家の侍女長からお使いを命じられて、菓子店へやって来たのだ。そこでアレンビー家の名前を出したところ、こちらへと通された先に待っていたのは、見目麗しいご令嬢達だった。


 ひとりはサーシャ・コリーン侯爵令嬢。最近ウィリアム様と仲が良いと聞く。アレンビー家を訪れた事もある。ウィリアムと婚約間近なのではないかと噂されているご令嬢だ。

 そしてもう1人は、忘れもしないあの卒業式で、ウィリアムが一方的に婚約破棄を告げた相手だ。あの日までウィリアムに婚約者がいる事を知らなかったし、その令嬢の存在すら知らなかった。その令嬢がすなわちヴァレリー・ポロック伯爵令嬢である。


 声を出しそうになったが何とか堪えて、ルルは持っていた籠を置いて床にしゃがみ込み、額を床に突けて平伏した。いわゆる土下座である。


「わたしは平民でございます。その高貴なお名前をお呼びする事も名乗る事もどうかお許しくださいませ。本来ならこの様な場にいてはならない人間でございます。

 お嬢様には大変なご迷惑とご心痛をおかけいたしました。望まれるのならどのような罰も受けます。本当に申し訳ございませんでした」


 ただひたすらに頭を下げた。


「お顔を上げてくださいな。ルルーシュさん」 


 柔らかい声が聞こえたが、ルルは頭を上げることが出来ない。サーシャとはアレンビー家で何度かあったことがあるので、その声も意外と気さくな為人も知っている。だからこの声は……


「ルル。ヴァレリー嬢がこう言ってるのだから顔を上げて、立ち上がりなさい。それからそちらの椅子にお座りなさい、ね?

 わたくしが勝手に貴女を呼んだのだから貴女はお客様なのよ」


 サーシャは何だか怖い。ルルはサーシャが苦手なのだ。貴族令嬢らしくない気さくで朗らかな人だけど、それが演技に見えて仕方ない。ウィリアム様と仲良くしている様子も、真意はわからないが計算を感じてしまうのだ。


(底の見えない人だ。逆らわない方が良い)


 素直に従って、籠を手に取り部屋の隅の椅子に腰掛けた。


(一体どう言う事?なんでここに呼ばれたの?これからヴァレリー様に断罪されちゃうの?)

 びくつくルルにサーシャは声を掛けた。思わずそちらを見た、ヴァレリーの方を見ない様にと気をつけて。


「このケーキは新作なのですって。栗のペーストというのを細くした物が巻き付けてあるの。季節感たっぷりよね。さすが貴女も召し上がれ」


 それは山の形に尖っており、黄色いクリームが細く畝のようにぐるぐると山に巻きついていた。


「モンブラン……」


「え、なあに?モンブランって?」

 サーシャが聞き咎めた。


「前世の記憶で、このケーキの名前はモンブランと言います。山の名前なんです。懐かしい……」


 ルルの説明を聞いていたヴァレリーは、徐に切り出した。


「ヴァレリー・ポロックです。貴女とちゃんと話すのは初めてね、ルルーシュさん」


 一旦削がれた緊張が再び戻って来てルルーシュは椅子から立ち上がり、昔覚えた淑女の礼をとった。


「ルルとお呼びくださいませ」


「そう、ルル。貴女のカーテシーはなかなか美しいわ。努力したのね。確か男爵家に引き取られていたのでしたっけ?そこで習ったの?」


「男爵様と奥様は、養子には出来ないが出来る限りの教育を施しそうと仰って、奥様自ら教えてくださいました。ご存知の様に前世の記憶があり、勉学にも励んでおりましたところ、王立学院の特待生として入学する事が叶いました」


 それは決して大きな声でも無いし、力強い訳でも無いが、はっきりとしっかりとした意思の籠った声だった。

 ヴァレリーは改めてルルを見直す。かってピンク頭と呼ばれていたふわふわのピンクブロンドの髪は肩あたりに切られている。愛らしく人目を引いた顔は、今では可愛いが普通の女の子という印象である。水仕事もするのであろう、荒れた手に華奢な体。ただその瞳からは生きることへの意欲が感じられる。


「今はどうしているの?アレンビー伯爵家にいらっしゃるの?」


 ルルは卒業式から後、自分の身に起こった事を淡々と話した。


 矯正施設に入った事。自分の思い上がりと勘違いから王太子殿下をはじめ多数の人に迷惑をかけたので、処刑されると思っていた。ところが施設で実験に協力し与えられた仕事を真面目に務めていたら恩赦が出た事。そしてアレンビー伯爵が身元引受人となり、伯爵家の使用人として引き取ってくれた事を告げた。


「初めに孤児院から引き取ってくださった男爵ご夫妻のお姿を一目でも見られたらと、伯爵に男爵家まで連れて行ってもらいましたが、お二人とも亡くなられていました。

 跡を継いだご嫡男様から二度と関わらないでくれと、男爵家へ置いたままだった私物を渡されました」


 実際は投げつけられたのだが。でもそんな事はどうでも良いのだ。男爵夫妻が大切に保管しておいてくれた事。跡を継いだ嫡男も、捨てれば良い物を取っておいてくれた事に、涙が止まらなかった。


 そう言ったルルの目には光るものがあった。


「ヴァル、この子ね、そう悪い子でもないのよ。前世を思い出して万能だと思い込んでしまったみたい」


「そうね。ルルさん、話せてよかったわ。

 それで貴女はウィリアム様の事を今でも愛してるの?彼への想いは偽物だったの?」

 

 ヴァレリーは端的に問いかけた。2人の関係に興味がある訳では無いが、もしサーシャとウィリアムが思い合っているならルルは取り除かなくてはいけない相手だ。


 ルルにすれば、もしこの方にあい見えるような事があればいつか聞かれるだろうと覚悟していた。


「正直に申し上げますと、ウィリアム様に対する気持ちは今は全くございません。学院時代にウィリアム様だけ魅了がなかなか解けなかったのは、ウィリアム様の中にある心の澱のような部分が反応してしまったからなのではないかと思います。

 わたしは前世で薬師のような事をしておりました。その知識で人の願いを望みを増福させる薬を使ってしまいました。

 ウィリアム様はご自分の意識下に、どうにもならない苦しさをお待ちだったのだと思います。それで薬がより強く反応してしまったのかと」


「今は全く好きでは無いという事?」


「はい」


 ルルはまっすぐにヴァレリーを見た。

 内心はヴァレリー様ごめんなさい、本当にごめんなさいという気持ちと、なんと美しい人なのだろう、このような美人さんに勝てると思ったわたしはバカだわというので混沌としていたが。


「あらま、困ったわねぇ。ウィリアムとルル、お似合いだと思って、彼に勧めてるんだけどね。ルルにはその気が無いなんて!」


「は?え?どういう事?」

「サーシャ様?ウィリアム様と婚約されるのではなかったのですか?」


 ヴァレリーとルルは同時に叫ぶ。


「まさか、無い無い。わたくしは年上の渋いおじ様が好みなのよ。アレンビー伯爵なら喜んで後妻になるけれど、ウィリアムは無いわ」



お読みいただきありがとうございます。


ヴァレリー、サーシャ、そしてルルーシュが集うとそれは女子会?な話でした。

サーシャはアレンビー伯爵の後妻を狙っていますが、奥さまご健在です。

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