引っ越し、逢う
初投稿です。
続きは不定期投稿します。
死人を蘇らせる手段は、ない。
適度にゆらゆら揺れるバスの中、夢を見た。
遠い場所から声が聞こえる。
まだ星の住めるところがすべてだったころのこと。
あるところに黒い鳥の住まう王国があった。
初代のいつまでも平和な国のしそうを守り、せんぞだいだい暮らしていた。
ある代の王女は、さいしょの子は黒かったものの、次の子は白い鳥だった。
王国のみなは王女を責め、ついには子も同時に王国から追い出してしまった。
国は平和に戻った。
……確か子供に聞かせるための童話だった気がする。
つい最近見たのか、何十年も前に見たのかはわからない。
そして、タイトルは、どうしても思い出せないのである。
そんなことを考えているうちに、バスは私の新しいうちになる最寄りに着いた。
現金を放り込み、ひび割れた道を歩いて数分。
「写真で見るよりも、って感じだねえ」
廃墟の中の廃墟、そう思った。
少なくとも本物よりは安全だろう。
私は正直に言うなら襤褸な2階建て住居を見る。
前いたところよりは全貌として小さい。
壁は元の色なんてわからず、錆びた鉄の色をしているのがところどころ見える。その上から夏なら御用達、緑の壁で見れるものでなく、階段の先に見える廊下は歩けば軋みそうな感触を憶える。階段は鉄筋むき出しのスカスカである。常識的に言ってしまうなら、こんなところ誰も来ない、はずである。
1LDKあるのかすら怪しい、建築基準法なんて知ったこっちゃないと主張している住居が、私の新居である。
そんなところに似つかわしくない真っ白のトラックが止まっている。引っ越し業者だ。
親猫が子猫を咥えている黒猫がプリントされた大型トラックが私の部屋に物を運び込んでいる。
私の部屋は202号室、二階である。
部屋は階ごとに4つある。
予想どおりギシギシなる廊下を抜け、自室に入る。部屋だけは何度もリフォームしているのか、きれいだった。一般的な住宅である。狭いこと以外は。いや、これが普通だったか。
一人にしては多いですね、なんていわれた気がする。
一人分ではなかったはず。
写真だけ見て買ったのが全くもって失敗である。
さて、何処にPCを入れたっけ。Wi-Fiは前もって契約したし、さっそくわかっていることをまとめないと。
あっという間に時間は過ぎていく。
少しだが、資金はある。サンタの倉庫にでもいっていろいろ買って来よう
机に二つの椅子、内容量は少なくてもいい冷蔵庫、その他もろもろ。高いのにしようとしたが倹約癖で安いのに変わった。
あの日のことを早くまとめたい気持ちで、クレジットカードを出す。まあ借り物だが問題ないだろう。多分。
途中でほっぽり出したものたちのためだ。仕方ない。
家についたのは20:00。
どう考えても厳しい。予測では少なくとも4時間はかかる。
……睡眠時間を犠牲にしよう。どうせ今日も寝れないのだ。
以上、そんな結論に至る。
私はそう締めくくり、wardを閉じて、目を休める。
何を書いていたのか、それはある事故についての記述である。
何処にでもありそうな大きな工場の、一夜にして消滅した、あるいは破壊されたもの。
異常でも何でもない。
時間はとっくに27:00を回っていた。畜生。
私が書いたのは近頃発生している行方不明事件であり、それに関する共通点と考察である。
卓上に積み上げられたコーヒーカップの山の底にはこげ茶色をした薄いコーヒーが溜まっていて、思わずため息がこぼれる。
「染みにならないと良いんだけどねえ。」
部屋の一角から通路まで広く道を塞ぐ段ボールの山を横切り、一度も使われていないピカピカのシンクに置くところまでは覚えている。
睡魔が襲ってきたような、そうじゃないような。
いつの間にか机で寝てしまっていた。