北限雪原:雪華神殿
「失礼します。ビスマス様。あのお客様がいらしてるみたいなんですが」
私は筆を止めてメイドの話を耳に留める。
「……誰だ?」
「それがですね、そのう――」
彼女は言いづらそうにしている。
「どうした?言ってみろ」
「えっと、その、ルテシア様が来ていらっしゃいます」
なんだって、こんな時にあいつが来るんだ……。
「分かった。すぐ行くよ」
私は机の上を簡単に整理すると席を立ち、部屋を出てメイドにその場所まで案内してもらう。
そこは客室の一室で寝室も備えた部屋であった。
「あー、これはまた派手にやったな」
ベッドがぐちゃぐちゃに膨らみ中に誰かがいることが分かる。
「おい、起きてるのか?」
私が布団を引っぺ返すとそこには寝ているルテシアがいた。
「ウゥー……」
「ほれ、いつまで寝ぼけてないで起きるんだ」
「ワァオ……アレ、なんでアナタここに居るんデスカ!?」
「それはこっちのセリフだ。お前こそどうしてここに来ている」
「ハイッ!実はこの国に来た理由は観光デシタ!!でも今は違いマース!!」
「じゃあ何しに来たんだ」
「ズバリ言いますヨ!ビスマスに会いに来マシタ!!!」
……………………なるほど。
「ちょっと待ってくれないか」
「分かりマシタ!」
元気よく返事をする彼女。
私は椅子に座って落ち着くことにした。
「まずは質問させてくれないか。なぜ私のところへ来たのかを」
「実は私、今とても困っていることがありマス。助けてほしいと思いマシテネ」
「一体どんなことだ?話してくれれば力になれるかもしれないぞ」
すると、彼女はお腹を抱え小さな音が鳴った。
「とてもお腹がハングリーデース…シューン…」
それを聞いた私は思わず笑ってしまった。
「ハハッ、そういうことだったか。よし、すぐに用意させるから少しだけ待っていてくれ」
そして私は立ち上がり部屋の外へ出て、メイドに彼女をダイニングルームへ案内するように頼む。
すると背後から勢いよく私に飛びつき抱きしめてくる。
「センキュー、ビスマース!あなたは救世主デス!」
「ちょっ、いきなり抱きつくなっ。危ないだろうが。それに救世主なんて大げさだ」
「いえいえ、そんなことはありまセーン!だって私を助けてくれましたカラネ!」
「別にあれくらいは普通だろう。それより早く離せって」
「イヤです。私が満足するまでこのままデスヨ~♪」
「まったく、困った奴だ。いい加減にしなさい」
「ヘーイ、ソーリー」と言ってようやく離れてくれた。
「とりあえずはご飯を食べたいネー。お腹ペコペコー」
「分かったから、早く行きなさい」
「ハーイ。ではレッツゴー」と彼女は意気揚々と歩き出す。
その後ろ姿を見ているとまるで子供みたいだ。
「ねぇ、ビスマスは一緒に食べないのデスカ?」
「ああ、先に済ませてきたばかりだからね。気にせず行ってきなさい」
ルテシアと別れて執務室に戻る。さっきまでの騒がしさが嘘のように静まり返っていた。
「ふぅ、やっと静かになったか。しかし、まさかあいつがここまで来るとは思わなかったよ。全く困ったものだ」
だが、同時に嬉しくもあった。
なぜなら数ヶ月ぶりに彼女と会えたからだ。
久しぶりに会ったというのに、相変わらずのテンションだった。
でも、それも悪くはない。
昔からいつもあんな感じで何色にも染まらない彼女の姿は元気がもらえる。
作業に一息ついて私は窓際に立って外を眺める。
空は雲一つない晴天だ。
今日は絶好のお出かけ日和になりそうだ。
しばらくすると、コンコンと扉からノックする音が聞こえすぐに扉が開かれた。
「失礼します。お茶をお持ちしました」
入ってきたのはメイドであるアリアンナだ。
彼女はテキパキと紅茶の準備を始める。
「今日は天気が良いですね」
「だな。絶好の狩猟日和なんだが最近はあまり外に出てないな」
「もう、駄目ですよ。ちゃんと日光を浴びないと健康に悪いんですから」
彼女はそう言って、紅茶を注ぐ。
「確かにそうだな。気をつけるとしよう」
「ちゃんと、お食事も取って下さい。最近またお痩せになったんじゃありませんか?お体には十分に注意してくださいね」
心配して忠告してくれる彼女。やはり良い子だ。頭が上がらないな。
「分かっているさ」
それから彼女は部屋から出てゆっくりした時間が流れる。
私は書類を整理し、一息ついた。
「さすがに疲れたな。少し休憩しよう」
椅子に深く腰掛け背伸びをする。そして、机の上に置いてあるクッキーに手を伸ばす。
「んっ、美味しい」
サクッとした食感が心地よい。甘すぎず程よく塩味が効いていていくらでも食べられそうな気がしてくる。
「うん、やっぱりこの国のお菓子は最高だ」
そんなことを言いながら、ティーカップに口を付ける。
「んっ?」
慌てて口から離す。どうやら冷めていたようだ。
「あー、失敗したか。せっかくの良い香りが台無しじゃないか。まったく、私の舌は何を考えているんだ」
また次にメイドが来たときに入れ替えてもらうことにしよう。
さて、まだまだやることが山積みだぞ。
すると扉を叩く音が聞こえた。
「入れ」
「はい、失礼いたします」
入室してきたのはアリアンナだ。
「何か用かな?」
「あの、そろそろお昼の時間ですから呼びに来たのですが……」
時計を見るとちょうど12時を指したところだった。
「ああ、そうか、もうそんな時間か行くとしよう。」
「はい!では、こちらへ来てください」
彼女が先導する形で食堂へと向かう。
「今日は何を食べる予定なんですか?」
「うむ、特に決めてはいないが、出来れば軽いものが良いな」
「分かりました。それならサンドイッチはいかがでしょう」
「ではそれをお願いしようかな」
「はいっ!かしこまりました」
そう言うと彼女は足早に立ち去る。
「ふぅ、やれやれ、ようやく落ち着けるか」
私は椅子に座って大きく深呼吸する。
「はぁ、空気がうまいな」
ここ数日はずっと仕事漬けだったから、こういう風に何も考えずにゆっくりとできる時間はありがたい。
椅子に腰掛けたと思えばどこからともなくルテシアの声が部屋のすみずみまで響き渡る。
その声はどんどん近づいてきてダイニングルームの扉が勢いよく開かれる。
「ビスマース!かくれんぼはおしまいデース!」
ルテシアは満面の笑みで私の元へ駆け寄ってくる。
「はぁ、こうなっては逃げられまい……」
はしゃぐ彼女を尻目にため息をつく。
昼食は諦めようか。
「はやく、いきましょーよぉ」
「分かったから引っ張るな……全く」
彼女に手を引かれて私は席を立つ。
「あの、昼食は?」
「すまない、また後日に頼む」
「はい、わかりました」
メイドは呆れたように返事をする。
「さぁ、行きまショウ!」
「はいはい、今いくよ」
私達は連れ立って部屋を出る。
廊下に出て少し歩いたところでルテシアが急に止まった。
「ビスマース!聞いてくだサイ!ワタシここに来るまではスッゴイビッグなもの見てきちゃったんデス」
「それはすごいね。一体どんなものだったんだい?」
「えっと、とってもとっても大きくて、キラキラ光っていて、それでいてとーってもビューティフルなモノデシタ」
「ほう、なんだろう?想像もつかないが」
「フフン、知りたいデスカ?」
「ああ、知りたいもと。それとも謎掛けかな?」
「いえ、ただの自慢話デスヨ?」
「そうなのか?」
「ハイ、とっても綺麗だったのでつい誰かに話したくなっちゃったんデス」
「なるほど。確かに君の気持ちはよくわかる。私だって美しいものを見れば誰彼構わず教えたくなるものだ」
「ウワーイ!わかってくれますか!嬉しいデース」
「ああ、もちろんだとも」
「でも、この事はナイショにしておいてくださいネ?」
「ははっ、心得ている。安心してくれ」
「ありがとうございマース!じゃあ、お礼と言ってはナンですけど、私の知ってることを一つ教えてあげマース」
「おお、本当かい!?」
「ハイ、まず最初にですね……」
彼女は私の手を引いて歩き出す。
そして向かったのはダイニングルームだ。
「ここは食堂だぞ」
「イエース、そうデス。ここに私の知ってる秘密がありマス」
そういうと彼女は絵画の前に立つ。
雪原と針葉樹林と雪山が描かれたごく普通のありふれた絵画だが彼女はそれをじっと見つめて雪山に指を差した。
「アレが何か分かりマスカ??」
私は首を横に振る。
「いいや、分からないがそれがどうかしたのか?」
「実はアレはこの神殿の守り神なんデス」
「ほぅ、そうなんですか」
「ハイ、なんでもミッドナイトにだけ現れて一歩進むたび地震を起こしちゃいマス。みーんなぐっすりスリーピングも出来なくてこまってマス。悪い守り神デス」
「ふむ、そんなものが本当にいるとしたら驚きだ」
「でも、大丈夫デス。今からちゃーんと私が退治してきマス」
ルテシアは胸を張る。
「どうやってですか?」
「えへっ、こうやってデス!」
ルテシアは弓を引く格好をしてみせる。
私は彼女の意図を理解して笑った。
まったく、彼女らしい答えだ。
ルテシアの話が本当なら近くの森に熊が出てきていた事にも合点がいく。生息域を追われていたことにもつながる。
これは見ていかなければならない。
「ルテシア、私も同行していっても構わないかい?」
「オゥ!心強ネ。一緒に行きまショー!」
「ああ、よろしく頼むよ。くれぐれも一人ではいかないで欲しい。こっちも色々と準備があるからね」
神殿となると、ここから近くにあるのは雪華神殿しかないだろう。
ここより北上し大陸の最北部にある。
急な悪天候に見舞われれば命を落としかねないだろう。
私は念入りに準備をする。
防寒具を着込み、外套を着て、帽子を被る。
それから食料と水筒を用意する。
忘れてはいけないのがコンパスと地図だ。
方位磁石は針の動きが安定しない。
だから方角を知るには地図が必要だ。
2つ同じものを準備してもう一つをアリアンナにルテシアに持って行かせるように指示した。
私は急ぎ足で玄関に歩いていく。
扉を開けるとそこにはアリアンナとルテシアがいた。
ルテシアは防寒具を着心地悪そうにしてこちらを見てきた。
「おや、その様子だとまだ着替えていないようだね」
「ハイ……、なんだか窮屈デシタ」
「はっはっ、確かにそうだ。しかし慣れてもらわなければ困る。これからはずっとこの寒さの中で過ごすんだ」
「そうデスけど、これはやりすぎデスヨ。」
「ははは、すまない。君が面白い反応をするのでつい」
「ムムム、分かりマシタ。とりあえず早く行きまショー!」
「ああ、行こうか。」
私たちは外に出るとルテシアは早速と言わんばかりに走り出した。
「どちらかが早く見つけられるカ。競争デース。」
「ははは、元気だな。」
「ハイ、私負けないデス。」
「では、負けた方は勝った方の言うことを何でも聞くということでいいかな?」
「オーケー。それなら問題ナイデス」
「よし、じゃあ始めようか。」
「それではヨーーーイ…」
私はすかさずルテシアを手を掴む。
「しかし、別行動は駄目だ。あくまでも二人行動厳守とさせてもらおう。ルテシア、今の君は私の客人でもあるんだ。勝手な行動をされて怪我でもされては私の沽券に関わる。」
私は真剣な表情で言うと彼女は渋々と言った感じで了承してくれた。
「わかりマシタ……。でも、私だって冒険したいデスヨ。こんなところに閉じこもってたら退屈デス」
「気持ちはわかるが、それはまたの機会にとっておいてくれ」
「ぶぅー。仕方ありマセン」
「さて、まずは準備運動だ。体をほぐしておこう。」
「オッケイデース」
私とルテシアは軽くストレッチを始める。
「うっ……」
私は思わず声を上げる。
やはり寒い。
雪国育ちとはいえ、流石にこれは堪えた。
だが、ここで弱音を吐いてはいられない。
私はルテシアに声をかける。
「さぁ、そろそろいけるかい?ルテシア。」
「えぇ、いつでもOKデース」
ルテシアは元気そうに体を大きくしてみせた。
「ここを北に真っ直ぐ進めば北限雪原までたどり着けるが間に氷海がある。それを渡らなければならない。まずは村から大角鹿とソリを借りようか。」
「了解デース」
私たちは村の広場に向かうと村長が出迎えてくれた。
「おお、ビスマス様。どうされましたか?」
「実は、少し頼みたいことがあってね。大角鹿とソリを貸して欲しいんだ。」
「ほう、大角鹿とソリですか。もちろん構いましせんよ。ただ、一つ条件をつけさせてもらいますがよろしいでしょうか」
「ああ、構わない。言ってみてくれ」
「はい、大角鹿とソリはお貸ししますので、お二人で一緒に使っていただきたいのです。」
「ふむ、なるほど。つまり、私とルテシアの二人で一つのソリを使ってくれということか。」
「はい。その通りです。まだまだこれから街へ荷を運ばなけれなりませんので申し訳ありません。」
「ああ、わかった。それで頼む。」
私は村長から大角鹿とソリを受け取るとルテシアと二人で乗り込んだ。
そして、私たちは大角鹿を走らせ始めた。
最初は順調だった。
しかし、途中から天候が悪化してきた。
空は曇り、吹雪が吹き荒れる中、私は必死に大角鹿の手綱を操っていた。
隣にいるルテシアは悪天候でもお構いなしにはしゃいでいた。
「ワーオ!ビューティフォー!!ファンタスティック!!」
「はぁ……はぁ……」
私は息切れしながら手綱を握る手に力を込める。
日頃から運動していないからか。体力の落ちている自分に嫌気が差してしまうものだ。
しかし、この気力が続くのもルテシアの底なしの元気よるものが大きいだろう。今の私には心強い励ましになった。
彼女は元気もどこまで持つか心配だ。
だからこそ、私がしっかりしなければ。
私は気合いを入れ直すと手綱を強く握りしめ大角鹿に指示を出す。
大角鹿は力強く地面を踏みつけるとその巨体に似合わない速度で走り出す。
まるで、風になったような感覚を覚える。
視界一面に広がる白銀の世界。
そこには一筋の足跡だけが刻まれていく。
私は手綱を握っているだけで精一杯だ。
ルテシアの方を見ると楽しげに笑っている。
この状況でも楽しんでいられるとは……。
そこから数時間かけて氷海を渡るとようやく目的地の北限雪原に到着した。
その頃には天候こそ悪いものの吹雪は収まっていた。
「やっと着いたか。」
私たちは北限雪原に降り立つと辺りを見渡す。
針葉樹林の木々が並ぶ森が広がっており、所々から白い湯煙が立ち上っており、幻想的な雰囲気を醸し出している。
また、ところどころから動物の鳴き声や鳥の声が聞こえてくる。
まさに自然が織りなす芸術作品のような光景が広がっている。
「近くに猟師の小屋があるはずだ。そこに大角鹿を留めてからいこうか」
私たちは大角鹿を引き連れながら森の中へと入っていく。
すると、少し開けた場所に小さな猟師の家が建っていた。
大角鹿は家の前に繋ぐと扉を叩き声をかける。
「誰もいないみたいデスヨ?」と言ってルテシアは扉を開けて中に入る。
私もあとに続いて中に入った。
中は暗くしばらく使われている様子がないようだ。
私はランプを取り出し火をつけると部屋が明るく照らされる。
暖炉にも薪がくべられていてルテシアが暖炉に火を付けると部屋の中はかなり暖かい状態になった。
とりあえず、ここで休憩しよう。
そう思い立った私は暖炉の前にある椅子に座って休んでいるとルテシアが話しかけてきた。
「ねぇ、ビスマス。どうしてこんなところに来ようと思ったんデスカー?何か理由があるノ?」
「そうだな。理由はいくつかあるんだが……まずはここならルテシアと二人きりになれるからだな」
「アラー。それは嬉しいデス。でも、それならわざわざ危険な氷海に行かなくても良かったんじゃないデスカ?」
「確かに危険ではあるが……たまにはこういう刺激があってもいいと思ってね。それに……」
「ウンウン?」
「私の知らないところで君が危ないことをしているんじゃないかって思ってさ」
「ヘーイ!ワッツ!?どういうことデスカーー!!詳しく教えて欲しいネー!!」
「い、いや。そのだなぁ…………」
ルテシアは目を輝かせている。
「コホン…それよりもだ。先に私が聞きたいことを聞いてもいいかい?」
「ハイハーイ!」
ルテシアは元気よく返事をする。
相変わらず切り替えが早い子だ。
「君の言う守護神様は一体どこで知ったのか聞いても良いかな?」
「もちろんデース!あれは、確か一昨日くらいだったカナ。あの村のハンターさんから聞きマシタ。」
「村というと、大角鹿を借りたあの村のことか?」
「そうデース。そこで、私を助けてくれた人がいて、その人から聞いたんデスー!」
「助けた人というのはどんな人だったか分かるか?」
「うーン。それはおじさんでしたヨ。皆さんは熊狩と言ってましたネ?」
「あぁ、なるほど。それで、何を聞いたんだい?」
「ンー、何でも熊よりビッグな熊がいたとか?神殿様のお怒りだーっと言ってたはずデス!」
「へぇ、そうなんだ。他には何か言っていなかったか?」
「他はですネー、ワォ!山が動いてるとかデシタ」
なるほど。
ダイニングルームで雪山を指さしたのはそう言うわけか。
しかし、そんな巨躯をもつ生物は神代に生きた生物くらいだ。いやまさかそんな、馬鹿げたことがあるわけがない。
だが、もしそれが本当ならばこの世界は大きく変わることになるだろう。
そして、もしも本当にいるのであれば……。
私は立ち上がり窓辺に近づく。
外はもうすっかり夜になっていた。
窓から見える景色は真っ白で何も見えない。
まるで白い闇が降り注いでいるような光景である。
私は静かに息を吐くとルテシアが話しかけてくる。
「コレは、ただ事じゃないんデスヨ。きっと何か大変なことが起きているんデス」
「そうだな。とにかく外に出てみよう。このままここにいても仕方ない」
私たちは小屋を出て大角鹿のソリに乗るとルテシアが手綱を握りそのまま雪華神殿に向かって走り出した。
すると、遠くから地鳴りのような音が聞こえてきたのだ。
「こ、これはいったいなんですカー!?」
「分からないが……恐らくは地震ではないだろうか?」
「ジシンデスカ?それはなんでショウ?」
「大地が震えることだ」
「オーウ、そういう意味デスカ。でも、どうして急にこんなものガ……?」
「さぁ、私にもわからない。もしかすると……」
「もしかするト?」
「いや、なんでもない」
「えー!気になるヨー。教えてくださいヨ!」
「まあまあ、そのうちわかるから」
今は黙っておこう。
どうせすぐに知る事になるしな。
それにしても、さっきから揺れが強くなっている気がする。
嫌な予感がしてきたぞ。
頼むから私の思い過ごしであってくれ。
「大丈夫ですかネー?」
「ああ、問題無い。それより、もう少しスピードを上げてくれないか?」
「分かりマシタ!では行きますヨー!」
「頼んだよ」
それからしばらく走ると前方に巨大な影が見えたのだ。
「アレは何だ!?」
「ワオ!すごいデスネー!!」
「あぁ、凄まじい大きさだ。あれは本当に生き物なのか?見たことがない。一体何なんだあれは?」
「暗くてわかりマセン!けど、とっても大きいのは間違いありマセーン!」
「そうだな。さすがにあのサイズは規格外すぎる。まずは確認してみる必要がありそうだ」
「そうデスネー!それじゃあ、行きマース!!」」
そう言って彼女は手綱を強く引き大角鹿を走らせた。
その勢いのまま神殿の入り口まで行くと私たちの目にとんでもないものが飛び込んできた。
「な、なんてことだ……」
「ワァオ、ビックリデース!!?」
本当に神話に出てくるようなものだ!! あんな大きなものがいるとは信じられない!
いや、それよりも何故ここに現れたんだ。
まさか、誰かの仕業か?
だとしたら何のためにだ。
そもそも、この世界に存在しているのかすら疑わしいというのに……。
しかし、現実として目の前にいる以上否定はできない。