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「ご安心ください。模擬剣は棒に分厚いクッションを装着したもので当たっても怪我の心配はありませんし、防具もしっかりとしたものを装着していただきます。防具には一定以上の圧力がかかると音が鳴る装置が内蔵されていまして、それが作動して音が鳴ったら決着という形式です」


「ああ、それなら安全そうですね……じゃなくて! 俺は剣なんか使ったことないんですよ? いきなり模擬試合なんて無理ですって! あと何かの拍子にアークの力が出たら危ないですよ!?」


 迅は不安要素を並べ立てて固辞したが、ガーネットはそれらをあっさりと笑い飛ばした。


「大丈夫です! 模擬試合などと言ってはいますが、その実態は戦士ごっこのようなものです。この模擬試合の目的は常日頃魔術士として厳しいトレーニングに励んでいる生徒たちのためのレクリエーションなのです。気軽に、それこそ遊びに参加する程度の心持ちで大丈夫です。それに、今回の対戦相手は選りすぐりの優秀な生徒なので、ミエニシ様が力の制御を誤ったとしても問題は起こらないと保証します!」


 ガーネットがより一層身を乗り出して迫るが、迅はなおも強硬に固辞し続ける。二人の話はこのまま平行線を辿るかと思われたが、次のドーンの発言に迅は主張を曲げざるを得なくなった。


「ミエニシ様、どうかカリスさんを助けるためと思ってこの仕事を受けてもらえないでしょうか?」


「えっ? カリスさんを助けるってどういうことですか? この仕事の話とカリスさんに何の関係があるんですか?」


 迅の問いにドーンが気まずそうな表情になった。


「その、ですね。こう面と向かって言い難いのですが……。今までにミエニシ様が破損された食器類の入れ替えの費用やこの邸宅の設備の修繕費などを合算しますと無視できない金額になっていまして……。それで、その費用を発生させた責任はカリスさんにあるという裁定が下されているのです」


 このあまりに予想外な展開に迅は抗議の声を上げた。


「いやいや、なんでそうなるんですか!? 食器とかドアとか壊したのは全部俺であってカリスさんじゃないですよ! 何でカリスさんの責任になってるんですか!?」


 迅の抗議を受けてもドーンは首を横に振るだけで取り合おうとはしなかった。


「例えアークであるミエニシ様がそれらを壊されたのだとしても、私たちはアーク様に対して責任を問うことはありません。なぜなら、この市、いえ、この州、この国でみてもアーク様を取り締まる法が存在しないからです。ですが、掛かった金額は無視できない問題です。つまるところ、責任を負う者を決めなければなりません」


「それが、ここでメイドの仕事をしてくれているカリスさんになるっていうんですか」


 この屁理屈としか思えない理屈に迅はドーンへ厳しい視線を送る。


「仰る通りです。そして、私とガーネット市長も同じく責任を取らねばなりません。私はミエニシ様の生活の手助けを任命されている身ですし、その私の上司でもあるガーネット市長は部下の失態の責任から逃れることはできません」


 カリスのことを槍玉に挙げられてカッとなった迅だったが、この事実に頭が冷えて申し訳なさそうに視線を下げた。そもそもの話、今までに散々やらかしたのは迅なのだ。カリスは勿論、ドーンとガーネットにも非はない。むしろ、巻き添えになっている身でありながら今の状況を丸く収める方法を提示してくれている二人に文句を言うなど見当違いも甚だしかった。


「一応聞かせてください。今までにかかった費用の合計金額ってどれくらいですか?」


「およそ十二万タル、ライゼンの通貨単位である圓で換算しますとおよそ千二百万圓ほどになります。この金額を三で割ったものが一人当たりの補填金額となるのですが……」


「お恥ずかしい話ではございますが、正直に申し上げます。私では四万タルもの金額を負担することができません。借金をした上でこれから何年もかけて返済することとなります」


 ドーンから話を引き継いでのカリスの申告に迅は大きく息を吐いた。


「……それに参加すればカリスさんは、皆さんは責任をとらなくても良くなるんですよね?」


「責任をとらなくても済む、という訳にはいきません。ですが、アークであるミエニシ様のレクリエーションへの参加を実現させたという功績により、評価をプラスマイナスゼロにもっていけるでしょう。少なくとも費用の負担は免除できるはずです」


「分かりました。そのレクリエーションに参加します」


 迅の承諾の言葉にドーンが右手を胸に当てて深く頭を下げる。しかし一方で、ガーネットは満面の笑みで迅の右手をがっちりと両手で握ると、勢い良く上下に何度も振った。

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