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その店は白いレンガと木目調が特徴的であり、外壁の一部が大きくガラス張りになっていて店内が見通せるという、一部を除いてお洒落で品のあるものだ。
「すごく都会っぽい高級なカフェって感じですね。あのー、ところで一つ聞きたいんですけど……?」
「はい、アレのことでございますね?」
ぱっと見では間違いなく素晴らしい店なのだが……どう考えても店の外観にそぐわない、いや外観のイメージをぶっ壊している異物が混ざり込んでいる。
それは『スイーツ&バンディッツ』と書かれた庇の上にはためく、さながら海賊船から毟り取ってきたかのようなどでかいドクロマークが描かれた海賊旗だ。
「海賊がテーマのカフェ、だったりするんですか?」
「いえ、そういったことはなく普通にスイーツを販売されているお店でございます。あの旗は過去に店舗の従業員の方々が突然襲い掛かってきた何かの保護団体を返り討ちにして奪い取ってきたものだそうでございます」
(うわぁ、看板とかじゃなくて戦利品だったのか……)
「あの旗のドクロマークを打ち消すように描かれている赤いバツ印は相手側の捕虜に描かせたものだそうで、その時のことを従業員の方々にお尋ねすると詳しく話していただけます。中々興味深いお話ですので聞いてみてはいかがでしょうか」
にこにことした表情のままに語られる物騒な内容に俺はちょっと引きつつ、やんわりとはぐらかした。
「そ、そうですね。機会があればそうしてみます……」
「はい、では入りましょうか」
カリスさんに促されるままに店内に入る。ほとんど音を立てない自動ドアを抜けるとそこにはケーキをはじめとした色とりどりの様々なスイーツたちが美しく陳列された大きなショーケースがあった。俺はスイーツには全く詳しくないのだが、それでも一瞬で目が引きつけられるほどに芸術的な出来栄えだった。
(すごい! めっちゃきれいだし、種類も多い! その分値段もすごそうだけどいくら位するものなんだろ? 前にテレビでやってた都会のスイーツ店みたいにちょっとしたセットで数千円とかするのかな? ……ん?)
ショーケースに近づくにつれ、異変に気が付いた。
この店内はテレビで見た高級ホテルのラウンジに引けを取らないと感じるほどに洗練されたデザインの内装となっていて、品のある調度品の数々も相まって店の外観通りの上品で落ち着いた雰囲気がある。
そして、この店の外観にあった異物の要素も店内にきっちり存在していた。
「いらっしゃいませ」
カウンターの向こう側にいるその異物、ではなく異人(?)から挨拶をされる。
「あっ、はい。あの、店員の人……ですよね……?」
自分でも変な質問をしていると分かってはいるのだが、そう質問せざるを得なかった。
なぜならその人は身長がやたらと高かくて絵に描いたようなボディービルダー体型。いかにもシェフとかパティシエっぽい服装をラフに着崩しまくり、大胆に開けた胸元や腕捲りで見える腕には大小様々な古傷が刻まれている。口元に蓄えられた豊かな焦げ茶色の髭はいくつもの三つ編みでまとめられていて、表情は泣く子も自ら意識を手放すであろうヒャッハースマイル全開という、世紀末世界で一旗揚げた猛者がパティシエのコスプレをしているようにしか見えない姿だからだ。
「いかにも、この『スイーツ&バンディッツ』の店長を務めるパザート・ラディッツと申します。何かお探しでしょうか?」
「えっと、その、ちょっとスイーツ食べながら休憩をしたいなーなんて……」
「左様でございますか。当店を選んでいただきありがとうございます。おや、後ろにおられるのはカリスさんにククゥちゃんではありませんか。お二方ともこんにちは」
「パザートおじちゃん、こんにちは」
「こんにちは、パザート様。いつもの席を使わせていただけますか? あと、スイーツはいつもの品をお願いします。こちらの御方には私と同じものをお出しくださいませ」
この二人の返答に、獲物に噛みつく直前のライオンのような笑みを浮かべたパザートさんは右手を胸に当てて軽く頭を下げた。
「かしこまりました。後ほどご注文の品々をお持ちしますのでご指定の席にてお待ちください」
カリスさんが会釈をしたところで俺もそれに合わせ、すぐにカリスさんの案内に従って店内のテーブルのある方へと移動する。




