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「えぇ……いや、いくら何でもそれは……。そんなに一杯トンデモ能力をつけてどうするつもりなんですか?」
共通能力で盛りに盛ったその上にまだ盛るのかという話にもはや驚きも呆れも通り過ぎてドン引きだった。黒歴史ノートの内容だとしてもここまで堂々と盛りまくれば、かえって楽しめそうな気がしないでもない。
「いえ、どうすると言われましても……それに失礼ながらミエニシ様もアーク様のお一人なのでして……」
「あっ……あ~、そうですね。何かその、すみません……」
「ミエニシ様がどのような神器をお持ちで、どのような権能を行使されるのかについては私共では分かりません。そのため、ご自身で確かめていただく他ないということは予めご了承ください」
俺は無言で頷いた。
「ここまでがアーク様の能力についての説明です。何か質問などありませんか?」
俺は少し考えて何となく思い当たったことを口にした。
「あの、ドレインの神器って取っ手の長い斧だったと思うんですけど、権能ってどんなものなんですか?」
同じアークということで例に出てきたドレインの権能については気になった。ドーンさんがこんなにも凄い凄いと言う力がどれほどのものなのか単純に興味が湧いていた。
すると、ドーンさんの表情が申し訳なさそうなものへと変わる。
「申し訳ありません。アーク様の情報、とりわけ権能の情報については厳しい制限が課されており私の口からは何もお教えすることができないのです。どうしてもという場合は直接ドレイン様ご本人かガーネット市長に聞いていただくことになります」
「そうなんですか……。じゃあ、今度機会があったら聞いてみます」
大きく頷いたドーンさんは軽く手を叩くと口調を軽やかなものへと変えた。
「さて、説明会はここまでとしましょう。残りの時間は体を動かしていただくとして、そこのパンチングバッグ以外にも様々なトレーニング器具を用意していますので全てご自由にお使いください。今回用意しましたトレーニング器具は新型との入れ替えで廃棄処分が決定しているものですので、壊してしまっても何ら問題はありません。お好きなだけ使い潰してください」
「ありがとうございます。色々と試してみます」
その後、俺は額に紋章を出したり消したりしながら体を動かし、無意識的に発揮されたりされなかったりする自分の力を注意深く確認していった。
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正午を回ったところで一旦お開きとなった。
俺は事前に決めていた通り邸宅に戻って昼食をとり、そのまましばらく休憩していた。しかし、体力的にまだ余裕があったので結局トレーニング施設に戻って体を動かすことにした。
紋章を出したり消したりしながら様々な動きを何度も何度も繰り返してバグ筋力を制御しようと試行錯誤する。普段なら絶対にどうにもならない重さのバーベルやダンベル、超高負荷の器具を出鱈目な力で軽々とこなせることに楽しさを感じたりもしたが、それも最初だけ。何の進展もないまま時間が過ぎていき、意欲が削がれ、とうとう挫けてしまった。
そうして夕暮れ時、いつの間にか来ていたドーンさんの提案で今日は切り上げることにした。
ほぼ半日を費やしたにも関わらず何の成果も上がらなかったという事実に俺は肩を落としたが、ドーンさんの「まだ一日目ですし落ち込むことはありませんよ」や「本日のような努力を積み重ねればいずれ実を結びますよ」という励ましで少し持ち直すことができた。
そんなこんなでトレーニング施設を後にした俺は邸宅の前でドーンさんと別れた。そして、昨日教えてもらった通りの操作で門と玄関のロックを解除して中に入ると、この邸宅に初めて来た時と同じようにカリスさんが迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、御主人様。お疲れのご様子ですが大丈夫でございますか?」
「はい、大丈夫です。ちょっと張り切り過ぎただけですから」
「左様でございますか。では、シャワーをお使いになられますか? お食事の準備の方もすぐにできますが、いかがなさいますか?」
俺は服の襟元を少し引っ張って匂いを嗅いでみて、すぐにシャワーを選ぶことに決めた。
「かしこまりました。シャワールームへご案内いたします。お着替えとタオル類は脱衣所に用意がございますのでそちらをお使いください」
俺がお礼を言うとカリスさんはゆっくりとお辞儀をしてからすぐに案内をしてくれた。
その後、明日も午後からはトレーニング施設を使わせてもらおうかなと考えていた俺はうっかりシャワールームのドアを壊してしまい、いたたまれない思いで夕食をとることになってしまった。




