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(いや、やっぱりアークの力って役に立たないわ)
俺の手元で三度目となる食器の断末魔が上がる。わざとやっている訳ではないのだが、ここまで失敗を重ねると流石に申し訳なさで心が折れてしまいそうだった。
「す、すみません。本当に申し訳ないです……」
「いいえ、お気になさらないでくださいませ。それよりもお怪我はございませんか?」
心配そうな表情でやさしい言葉をかけてくれるカリスさんの対応に思わずもう一度謝った。
これほど情けない状況になっている原因は俺の身体にある。
というのも、起床してから今までずっと筋力がバグっているのだ。寝起きで上手く力が入らないとかそういうまともなものではなく、明らかに人間が出せる筋力をぶっちぎった強さが常時出っぱなしになってしまっている。その上、自分でも加減が利かないという迷惑なおまけ付きだ。そのせいで朝からカリスさんに散々迷惑をかけてしまっている。
まず初めに、朝起きて部屋から出ようとしたところでドアの開ける方向を間違い、押し開けてしまったことでドアからドアノブを丸ごと抉り出して大穴を空けてしまった。
次に、朝ごはんで出してくれたコーヒーのカップの取っ手を握り砕き、カリスさんが気を利かせてくれて用意してくれたお箸を圧し折ってしまった。
そして今、ナイフで料理を皿ごと切り分け、そのままナイフが机に突き刺さったのだった。
普通ならどんなに歓迎されているとしてもここまで迷惑をかけたら許されるはずはないだろう。しかし、カリスさんは俺を責めるどころか逆に気遣ってくれた。さらに、俺が自分で片付けると申し出るとそれをやんわりと断り、テキパキと片付けと掃除をしてくれた。
そういう訳で、物を壊すわ、手間は増やすわ、作ってもらった食事は台無しにするわの連続大失態に俺は穴があったら入りたい気持ちで一杯になっていた。
「あの、本当にすみません。料理を台無しにした上に跡片付けまでしてもらっちゃって、どう謝ったらいいのか……。そうだ、何か俺にできることがあればいつでも言ってください。できる範囲で何でもしますから!」
そう言って立ち上がり頭を下げた俺に対し、すぐにカリスさんは頭を上げるように願い出た。
「ご主人様がお気に病む必要はこざいません。料理のことも食器のことも心配ございませんので、お顔を上げてくださいませ。ですが、このままではお食事をとっていただくことができませんね。……少々お待ちいただけますか?」
俺の承諾の返事を聞いたカリスさんはまだ無事な料理を集めると、トーストを使ってサンドイッチを作り、手早く半分にカットして見栄え良く盛り付けてくれた。
「こちらならいかがでしょうか。サンドイッチでしたら食器に気を付ける必要がございませんので、お食事を楽しんでいただけるかと存じます」
「うわ、ありがとうございます! よっと……、大丈夫みたいです。それじゃあもう一度、いただきます」
細心の注意を払いながらサンドイッチを持ち上げ、かぶりつく。美味い。外はサクサクで中はしっとりしたトーストの歯応え。直後、豊かなバターの風味と香りが口の中に広がり、後を追うように瑞々しい野菜のシャキシャキ感と濃厚な肉汁が口の中を満たしていく。そのあまりのすごさに食べながら行儀悪く感嘆の声を上げると、カリスさんは「恐縮でございます」と嬉しそうに微笑んでお辞儀をしてくれた。
とんでもない美人で、獣人で、穏やかで、仕事は完璧で咄嗟に機転を利かせてくれるという完璧超人みたいなカリスさんだが、どうしても一点だけ不満なところがあった。
それは、俺が食事をとる中でカリスさんは食事をとらずに俺の傍に佇んでいることだ。なんというか、すごく落ち着かない。もちろん、一緒に食べませんかと誘ってはみた。しかし、「ご主人様と時を同じくして食事をとるなどあってはならないことでございます」と固辞されてしまったのだ。そのため、この何とも言えない状況は食事が終わるまで続くことになった。




