1-18
「彼女はこの邸宅を管理するために派遣されたメイドです。食事の支度や邸宅内の清掃などをはじめとして、この邸宅内の全てのお世話をします。何かあれば遠慮なく彼女に申し付けてください」
「ああ、そういう……いや、でも、それくらいは自分でどうにかしますよ」
迅はしどろもどろになりつつもチラチラと彼女に視線を向けた。
ただ真っ直ぐに立っているだけで絵になるほどの美女である。銀と見紛うような薄い灰色の艶やかな髪に、精緻なカットを施したサファイアのような深みのある青い瞳が彼女の涼やかな美貌をより一層引き立てている。顔の彫りは少し浅いがこれらの要素が絶妙にかみ合い、涼やかな中に愛らしさと美しさが奇跡的なバランスを保っている。さらに、ダメ押しとばかりにネコに似た獣耳に尻尾まであるという、反則要素のメガ盛り状態だった。
おそらく同じ女性であっても彼女と正面から目を合わせるのは勇気がいるのではなかろうかと思わせる、そんな存在を前に女性耐性など皆無に等しい迅は彼女の顔を直視するのもままならなかった。しかし、獣耳と尻尾という迅の興味を鷲掴みにする特徴が気になってつい視線を向けてしまっていた。
「そうですか? しかし、この邸宅の中はかなり広いですし庭まで含めますとお一人で管理をするのは大変かと思われます。それに、これからミエニシ様は色々とお忙しくなると思われますので尚更大変なことになるかと。彼女に関しましては特に費用が発生する訳ではありませんので、ひとまずここに置いてみてそれでも不要だと思われたら解雇するということでいかがでしょう?」
解雇という言葉に迅は思わずたじろいだ。何の非もない彼女に対してとても失礼なことをしているように感じてしまい、思わず反論を飲み込んで受け入れることにした。
「……そうですね。お願いすることにします」
「承知しました。では貴女、ミエニシ様にご挨拶を」
「かしこまりました。初めまして、ミエニシ様。私はカリス・ブラーネ・ハトゥーと申します。私の名前は長いですのでカリスとお呼びください。本日よりこのご邸宅の管理と貴方様の身の回りのお世話をさせていただきます。よろしくお願いいたします」
そう言ってカリスと名乗ったメイドはゆっくりとお辞儀をした。ちょっとした所作の一つをとっても見惚れるほどに洗練されているため、迅は一々目を奪われてしまう。
「ミエニシ様、どうかなさいましたか?」
「あっ、いえ何でもありません! 初めましてカリスさん。ジン・ミエニシです。俺の名前は好きに呼んで下さい。よろしくお願いします」
そう言って迅が頭を下げると、カリスは驚いたように僅かに目を見開くと深くお辞儀をし返した。
「さあ、ミエニシ様。室内もご覧ください」
「あっ、はい。お邪魔します……って、ここって土足で上がった方が良いですか?」
迅が靴を脱ごうと視線を下に向けるとカリスの足元、革っぽい質感の艶やかな靴が目に入った。その時、海外では靴を脱がないという話が頭をよぎった迅は咄嗟に質問が口をついて出た。
「いえ、決まってはおりませんのでご自由になさってくださいませ。私は屋内用と屋外用で靴を分けております。紛らわしくて申し訳ございません」
「あ、そうなんですね。すみません」と彼女の足元を見ていたことが見抜かれた迅は顔を伏せつつ靴を脱いで隅に寄せると、壁際のシューズラックに綺麗に整列されていたスリッパの一つを手に取ってとそれに履き替えた。
「どうぞこちらへ、お好きな場所でお寛ぎくださいませ」
そう言ってカリスは二人を室内へと招き入れた。すると、迅が部屋に足を踏み入れた途端、驚きに足を止めた。
「うわっ、広っ!?」
迅の感嘆の声にドーンが嬉しそうに笑うと説明を始めた。
「こちらは中央のリビングです。部屋の左側にある吹き抜けの階段から二階に上がることができます。この部屋の両隣もほぼ同じ広さとなっていますが、ほぼ大部屋一室になっているこことは違い、一階は二部屋で二階は四部屋に分割されています。生活に必要な家具類はこちらで揃えましたので、いずれもご自由にお使いください」
迅は呆けたような表情であちこちに視線を向けながら曖昧に頷いた。
次にドーンは部屋の中を少し進んだところで振り返った。




