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「ん? 何だか額が暖かい感じが……ってこれ光ってる!? 俺の額光ってない!?」


「こちらをどうぞ」とレーヌが差し出した手鏡を慌てて受け取って確認した迅の手元には、ドレインとは異なる模様で少し青味が見て取れる暗い鼠色の光をぼんやりと放つ紋章が映し出されている。


「うわ、ちょっ、これ大丈夫!? 元に戻るんですか!?」


「落ち着けって、大丈夫だ。現になんともないだろ? それで戻し方だが、額から紋章を消すって念じてみろ。それでできるはずだ……多分な」


 多分ってそんないい加減な、と内心不安になる迅だったがひとまず言われた通りの方法を試してみる。未だ光を放つ紋章に消えろと念じ続けること数秒、恐る恐る手元の鏡を確認するとそこに紋章は映っていなかった。


「そんな感じだ。俺らはそうなった時、こいつが言うところのアークになった時に紋章だとか能力だとかのあれやこれやを理解するはずなんだが……ジンはそういかなかったみたいだな。俺にはその原因は分からないが……あれだ。かなり寝ぼけてるって感じじゃないか? まあ、その内思い出すだろうさ……多分な」


「いや、多分て……」


 もう一度まじまじと手鏡を覗き込んで額を入念に確認した迅は手鏡を返却した。


「さて、くどいようですが、私共がミエニシ様に何一つとして嘘をついていないと信じていただけましたか?」


 こうなっては迅も流石に信じるしかなかった。今までの人生で培われた常識がこの短期間であっさりと覆されるという理不尽さに笑うしかないのに笑えなかった。


「そうですね……。どう言っていいのか分からないですけど、とりあえず皆さんを信じます。今まで疑ってすみませんでした」


 そう言って頭を下げた迅にガーネットは明るく声をかけた。


「いえいえ、とんでもありません! 私共としてはミエニシ様の疑念を晴らす一助となれたことが喜ばしい限りですので、どうかお顔を上げてください。……では、そろそろお疲れかと思いますので次で最後にしましょう。次は今後のことについてです」


「分かりました」という迅の返事にガーネットは笑顔で頷き返した。ちなみに、彼女の横に座っているドレインは自分の出番は終わったとばかりにソファの背もたれに背を預け、ベストのポケットから取り出したジャーキーを食べ始めた。


「この後にミエニシ様を専用の邸宅へとご案内します。今後はそこを生活の拠点としてご自由にお使いください。また、何かご入用の際にはこちらをお使いください」


 レーヌがいつの間にか用意されていた細やかな彫刻の施された小さな銀のトレーを手に立ち上がると、迅の傍に寄ってそれをテーブルに置いた。そこには、艶のある黒地に金と銀の複雑な模様、いくつかの数字、ホログラムシールのあるカードが載っていた。


「これは……何のカードですか?」


「IDカードとクレジットカードの機能を併せ持ったものです。これさえ持っおいていただければこの市で困ることはありませんので、常に携帯されることをお勧めします」


 迅は驚いた表情で銀のトレーに載った煌びやかなカードを覗き込んだ。


「あの、クレジットカードって……俺お金とか持ってないですよ?」


「はい、存じております。先ほどお伝えしました通り、この市にご滞在中は私共でミエニシ様の生活を保証いたします。ですが、最低限の生活ではこの市と市長である私の沽券に関わります。ですので、十万タルでも百万タルでもご自由にお使いください。もちろん返済は必要ありませんのでご安心ください」


 引き攣った表情でカードを覗き込んだ迅はカードに触れようとしてすぐに手を引っ込めた。


「ガーネットさん、何で俺にここまでしてくれるんですか?」


 名前を呼ばれた彼女はにっこりと笑みを浮かべて口を開いた。


「それは貴方様が『アーク』だからです」


 どういうことか分からない、とばかりに不思議そうな顔をする迅にガーネットはますます笑みを深めた。


「まあまあ! そのあたりの詳しい事情も後日ゆっくりと説明を差し上げますので、今はとりあえず我々からの歓迎の印とお考えください! ささ、どうぞお受け取りください」


 相変わらず不思議そうな表情のままにお礼を言った迅は、恐る恐るカードを摘まみ上げてゆっくりと丁寧に胸ポケットへと差し込んだ。

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