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「いやー申し訳ございません! まずはインパクトのある第一印象が必要かなと思い至りまして!」
そう言って応接室のソファに優雅に腰かけた赤髪の女性はまるでイタズラの大成功を喜ぶ少女のように屈託のない笑みを浮かべた。
「大変申し訳ございません、ミエニシ様。この方は少し……こう、何と申しますか……こういう面がございまして……」
この場所――モダンとクラシックを思いつきでくっつけたような不思議な建築様式の建物――の一室までの案内をしてくれたドーンは見ている側が気の毒になるくらい申し訳なさそうに謝罪し縮こまっていた。
ドーンがこうなった原因は、応接室に二人が入室した際の出迎えにあった。
それは、赤髪の女性はタイトスカートスーツというフォーマルな服装でありながら、大きな両刃の付いた長柄の戦斧を片手にドアの正面で仁王立ちをして挨拶するというもの。
そのあまりにも色々とそぐわない組み合わせを前に、呆気にとられたドーンと迅の顔を見た赤髪の女性が大笑いをしたところで今に至る。
「まあまあまあ! どうぞ、遠慮なくこちらにお座りください。お呼び立てしたのはこちらですので、礼儀作法などお気になさらず存分に寛いでください。私も堅苦しいのは苦手ですので!」
赤髪の女性はひたすら申し訳なさそうにしているドーンを完全無視し、全く悪びれた様子もなく迅に明るく笑いかける。
その女性に勧められるままに彼女と向かい合う形でソファに腰を下ろした迅はドーンが言っていた当の人物を改めてしっかりと見ていた。
ポニーテールにした鮮烈な赤髪が印象的で、それに引けを取らない美貌をしている。視線を少し下げるとスーツをしっかりと着ているにも関わらず隠れていない、いやむしろ強調されているのではと思ってしまうほどの女性的な体の曲線が強烈に存在を主張している。そのあまりに目のやり場に困る状況に迅は悩み、最終的に前髪に視線を固定することに落ち着いた。
「では改めまして、私の名前はアナスタシア・ガーネットです。ガーネットとお呼びください。歳はピッチピチの二十四です! そして、この市の市長という立場にあります。以後よろしくお願いしますね」
そう言って差し出された手を、迅はやや身を乗り出して躊躇いがちに握った。
「ジン・ミエニシです。あの、歳は十七で高校生です。こちらこそよろしくお願いします」
「はい、そしてこちらのクールビューティーが私の秘書にあたるエリクシールです」
ガーネットの紹介で手を差し出してきたのは、迅から見て彼女の左隣に座っている女性である。本物の金かと見紛うばかりに煌びやかな金髪を後頭部でシニョンにしてまとめており、ガーネットとはまた違ったわずかに冷たさを感じるような美貌の持ち主である。しかし最も目を惹くのは徹底的に磨き抜いたエメラルドもかくやという翠の瞳である。
「ご紹介に与りましたガーネット市長の秘書、レーヌ・エリクシールです。市長が会話の途中に挟まれる余計な情報は無視していただけると幸いです。以後お見知りおきください」
迅は何とも言えない表情でレーヌとの握手を終えると、ガーネットに向き直りすぐに本題へと切り込んだ。
「ガーネットさん。日本、じゃなくてライゼンへの国際電話をさせてもらえませんか?」
「もちろんです、と申し上げたいところなのですが……申し訳ありません。今現在、ライゼンへの国際電話はご利用になれません」
「それはどうしてなんですか?」
「少々お答えし難い部分となるのですが、国際電話に必要な通信用の海底ケーブルが事故で切断されており復旧工事中なのです。また、通信用の衛星も不具合が起きてしまいライゼンへの通信が機能していないのです。いずれも問題は深刻で復旧の目処は立っておりませんので、待っていただく他ないのです」
「そう、なんですか……」
迅としては「話が違う」とか「この人なら何とかできるかもって言ったじゃないか」と声を上げたいところだった。しかし、流石に海底とか衛星とかの問題を今すぐどうにかしろだなんて言えるはずもない。とはいえ、それでも連絡できる可能性をゼロにしたくない迅は別の方法はないかと食い下がった。
「他に何か連絡手段はありませんか?」




