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1-6

 ドーンは足早に別室へと移動する。関係者以外立ち入り禁止の通路を進み、目当ての部屋のドアをノックして返事を待たずに入室する。


 その部屋には複数のモニターと計器類が並び、三人のスタッフが手分けしてそれらに目を走らせていた。


「彼の方の様子はどうですか?」


「こちらで提供した朝食をとられています。今のところ特に気になる点はありません」


 挨拶もなく尋ねた内容に対する回答を聞いたドーンは空いている椅子を見つけて部屋の隅へと移動し、迅の病室を監視しているスタッフたちの邪魔にならない位置で腰を下ろした。


「彼の方の着替えが終わったら声をかけてください」


「承知しました」という返事を聞きつつドーンは腕時計に目を向ける。


(まだ時間はある。今の内に今までのことを再確認しておこう)


 ドーンは鞄からタブレット端末を取り出し、改めて情報に目を通していく。


(二日前の夜、彼の方はこの病院に緊急搬送された。医師たちが匙を投げるほどの状態にも関わらず、そこから完全に元の状態へと治癒した)


 添付されているカルテや身体測定の結果にざっくりと目を通す。


(顔立ちと黒い髪、黒い瞳からエイジア人と思しき男性、年齢は推定十四から十八歳。身長体重ともに平均的なエイジア人よりも少し高い程度)


 次に添付されている映像をじっくりと確認した上で文章に目を通す。


(昨夜、意識が回復。アーレンス医師と看護師二人が対応するも言葉が通じず、ボディランゲージで意思の疎通を図り簡単な言語テストをこなしてもらう)


 今度は添付されているテスト結果とアーレンス医師の所見を熟読し、黙考する。


(この様子からして言葉が通じていないのは間違いない。となると、彼の方の素体は外国人であり、まだ完全に『アーク』になっていないということだろうか? しかしそんなことがあるのだろうか? これは今までにない状況だな)


 重要事項を抜き出して頭に留めた彼はページを送る。


(本日の深夜、日付の変更後すぐに彼の方の心肺機能が一時的に停止。病院内のスタッフが総出で対応に当たろうとするが、病室到着時にはすでに蘇生しバイタルサインも安定していた)


 添付のデータにはてんやわんやの騒ぎとなっている院内の映像と時系列ごとのバイタルサインがまとめられていた。


(アーレンス医師の疲労の最大要因はこれだろう。徹夜で常に気を張り続ければああなってしまうのも仕方がない。しかし、これは何だ? 心肺停止からの蘇生後、体中に張り付けていた装置からの信号が途絶と復帰を繰り返している。これはさっきの仮説を補強する証拠になるかもしれない)


 このことも頭に留めた彼はページを送る。


(本日の午前七時、昨夜と打って変わって言葉が通じるようになる。簡単な自己紹介の後、彼の方からの質問に答え、食事と衣類を提供する)


 添付されている動画を早送りで見返す。ジン・ミエニシと名乗った若者は明らかに動揺しており、質問に対するアーレンス医師の回答でさらに大きく動揺していた。


(彼の方の精神状態に危機感を抱いたアーレンス医師はひとまず目先の課題を与えて沈静化を図り、後のことを私に委ねた)


 タブレット端末を鞄に仕舞込み、今後の予定を練り直す。


(従来通りの対応をするのは止めるべきだ。まずはアーレンス医師の進言通りに不安を取り除く精神的なケアに重点を置く方針をとろう。そして、落ち着いたところを見計らってゆっくりと交渉を進めるのが良いだろう。となれば、なるべく早くあの方の元へお連れするべきだ)


 懐から手の平サイズで厚みのある長方形のものを取り出し、縦に二分割するようにL字型に展開すると空中に画面が浮かび上がった。画面を指で操作し、登録されている番号に電話をかけると手短に要件を伝えて端末を懐に戻した。


「彼の方の様子はどうですか?」


「どの衣類を身に着けるか選ばれている最中です。もう少しかかるかと思われます」


「分かりました。引き続きお願いします」


 監視スタッフの返事を受けたドーンはどのように話を持っていくかについて思考を巡らせ始めた。

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