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ふと、目が覚める。
目覚ましなどに起こされるでもない、自然な目覚め。
十分な睡眠ををとって目が覚めた時の何とも言えない満足感のようなものを伸びをしながらじっくりと噛みしめる。
(あー……よく寝たなぁ)
ゆっくりと上体を起こす。部屋の照明は暗いままだったが、体を起こしたのに合わせて徐々に照明が明るくなっていった。
そして、目の前に広がっているのは見慣れた自分の部屋……などではない。
はっと我に返るなり、昨夜のことがフラッシュバックする。
「あああ! しまったそうだった! いつの間に寝ちゃったんだ!? というか何でこの状況で熟睡してるんだよ俺は!?」
慌てて時計を探すと壁掛け時計が目についた。
時計の針が指し示す現在時刻は七時の数分前。医者っぽい人が示してくれた約束の時刻までもうすぐだ。
(げっ、もう時間だ! ええっと、昨日の夜はどこまで考えてたんだっけ!?)
時すでに遅し、と言わんばかりにドアからノック音が聞こえた。それは控え目な音量ではあったが、俺の思考と身体を硬直させるには十分だった。
少し間を開け再びノック音がしたところで体の硬直が解け、つい返事をしてしまった。
「は、はいっ!」
声が若干裏返ったせいで少し恥ずかしかったが、すぐにその感情は別のものに取って代わった。それは期待。さっきまで考えていたことを全て放り投げ、日本語の分かる人が来てくれるはずだと思い込んでいた。
そして、その期待は意外な形で裏切られた。
「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
「………………えっ?」
俺はその瞬間、間抜けな声を出すことしかできなかった。
本来なら言葉の通じる人が来てくれたと喜ぶところなのだが、その当人が昨夜会った医者っぽい人となれば話は別だ。
流石に昨日の今日で日本語を習得することなんてできないだろうし何かの聞き間違いだろう、という俺の考えはすぐに切って捨てられた。
「こちらは全て外させていただきますね」
「少し服を捲ります」
「………………え、えっ?」
いつの間にか俺の傍に寄っていた昨日と同じ看護師っぽい二人が、俺の身体のあちこちに貼り付けられていた配線付きの湿布みたいなものを手際よく外してくれた。
(き、聞き間違いじゃない! みんな日本語喋ってるぞ!? どうなってるんだ!?)
もう訳が分からなさ過ぎて、着せ替え人形のようにされるがままになっていた俺は看護師っぽい人たちの「はい、終わりました」という声で我に返った。
「あ、あのっ! 俺が何を言っているのか分かりますか!?」
この質問に医者っぽい人は驚いたように俺の顔を見た。
「おお! 我々の言葉を習得されたのですね。流石はアーク様。はい、貴方様が何を仰っているのか分かりますよ」
(やった! 通じてる! なんで通じるようになったのか分からないけど通じてる!)
思ってもみなかった都合の良い展開に舞い上がる。
「おっと、失礼しました。まずは自己紹介をさせてください。私はこのデトロンド市にあるここ第一特別病院に務める医師の一人、ケイン・アーレンスです。こちらの二人は当直の看護師です。以後お見知りおきを」
そう言って差し出してきた手を握り、しっかりと握手した。
「俺は三縁迅……ではなく、ジン・ミエニシです。よろしくお願いします」
握手していた手を放したところでふと違和感に気づいた。
「……えっ? でとろんど……? あの、でとろんどって何ですか?」
「この市の名前ですよ。デトロンド市です」
「市の名前……? あの、変な質問だと思うんですけど……ここってどこなんですか?」
医者っぽい人が一瞬だけ不思議そうな表情を浮かべたがすぐに引っ込めてにこやかなものに戻した。
「ここはアメリア合衆国ミシゴン州のヴェイン郡にあるデトロンド市、その中央区域にある第一特別病院です」




