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「よし、ダメだ。あの、すみません。英語とか話せないので日本語を話せる方を呼んでもらえませんか?」
もう完全にお手上げだった。ダメ元ではあるがとりあえず日本語で話してみる。
結果はもちろんダメだった。
正直泣きそうになりながらヤケクソ気味にジェスチャーを交えて英単語を叩きつける。
「アイ! キャント! イングリッーシュ!」
自分を指さし、口の前で手を交差して×の形にして必死に訴える。何か単語が足りてない気もするが、そんなことはどうでもいい。
すると、俺の意思を感じ取ってくれたのか医者と看護師っぽい人たちは顔を見合わせた……が、次の瞬間に看護師の一人が首を横に振っていた。
(うわ、ダメっぽい……。どうしよう……?)
万策尽きたと絶望していると医者っぽい人が平べったい何かを差し出してきた。
とりあえず受け取ったそれを確認すると、それはクリップボードに画用紙を挟んだものだった。そこには果物や野菜、車、太陽といった子供向けの絵本に出てくるようなデフォルメされたイラストがいくつも並んでいた。
「え、何ですかこれ?」と医者っぽい人に顔を向けると、にこやかな表情でイラストの一つを指さし、次にそのイラストの真下にある空白のスペースに指を滑らせると何度も円を描いた。
(このイラストが何かを書けばいいのかな?)
この考えは合っていたようで、医者っぽい人がペンを差し出してきた。それと同時にベッドの奥、自分の足がある方から机がスライドしてきてすぐ近くで止まった。
その机をありがたく使わせてもらい、漢字・平仮名・片仮名・ローマ字・英語など、平凡な成績の高校生である自分が書ける範囲で書き込み、ボードとペンを返却する。
それらを受け取った医者っぽい人はすぐに隣にいた看護士っぽい人に手渡すと、俺に腕時計を見せてくれた。そして文字盤の10の数字を指さし、そこから時計回りで円を描くように指を滑らせ7の位置で止めた。そして、これを何度か繰り返した。
(今は十時か二十二時で、それから七時か十九時まで?)
ひとまず医者っぽい人の目を見て頷くと笑顔で頷き返してきた。そして、合掌するとその手を顔の横にくっつけてクネクネし始めた。
(ヨガのポーズ……な訳ないな。多分、寝るか休んでてね、かな?)
おそらく『今は二十二時で明日の七時まで寝ててね』というところだろうか。
色々と整理したいこともあるし、言葉が通じないこの状況から少し離れたいという気持ちもあった俺は特に何も言わずに頷いて、ゆっくりと横になった。
医者っぽい人は満足そうに頷くと看護士二人に何やら指示を飛ばした。どうやら機器などの確認の指示らしく、机を元に戻すと複数の機器を手早く操作して俺の腕や胸に付けられた配線付き湿布を細かく確認すると服を正して布団をかけなおしてくれた。
「ありがとうございます」
通じないとは分かっていても、ここまで丁寧に接してくれていることにお礼の一つも言わずにはいられなかった。
しかし、お礼を言っているということは伝わったようで微笑みを返してくれた。
「~~~~~」
最後に医者っぽい人が何事かを言って、三人とも部屋を退出していった。




